6 chosiv fog vel jenma elanasma su:jezo.(今のエルナスの様子を教えて欲しい)
ならば人にあわないほうが良さそうなものだが、今回は空間歪曲でいきなり接近戦に持ち込まれることはない。
ただ、それでも偽装している人間や暗殺者は、いつやってくるかわからない。
人混みが危険であることにはかわりがないのだ。
それでも、いまはこちらにもそれなりの備えはある。
リアメスから、さまざまな毒を中和するための、魔術的な薬物を貰っているからだ。
科学的に考えれば毒の種類ごとに、異なる解毒剤を用意しなければならない。
だが、この魔術の薬品はどんな種類の毒であれ、人体に害を及ぼすものは無効化してしまうというのだから、かなり無茶だ。
魔術的には、魔術宇宙の「これは毒である」という「意味を書き換える」薬なのだろうが、科学的にはまったく説明がつけられない。
いずれにせよ効果があればいいのだが。
しばらく畑の狭間の道を歩いていたが、いまは農閑期なのか人はみな家のなかにこもっているようだ。
それとも、伝染病を恐れているのだろうか。
いわば奇襲のようにいきなりイシュリナシアの中枢部にやってきたが、モルグズは決して状況を楽観視などしてはいない。
ウボドナにも、まず間違いなくイシュリナシアの間者は潜んでいる。
下手をするとウボド寺院のなかにまで入り込んでいるかもしれない。
魔術や法力が存在する世界の諜報戦は、ある意味では現代の地球よりも凄まじいと今では理解している。
リアメスの周囲にも、イシュリナシアの間者はいる可能性がある。
つまり、最初から情報は筒抜けになっていると考えたほうがいい。
用心しすぎて身動きがとれなくなるのも危険だとはわかっているが、イシュリナシアも今回は本気だ。
なにより、ネスファーディスがいる。
あの男の怜悧な頭脳は、エルナスで疫病が発生した時点で、すでにこちらの存在を想定しているだろう。
忌まわしいことだが、またヴァルサのクローンと戦うことになるかもしれないと思い、ついティーミャのほうに目をやってしまった。
彼女はすでに十六だという。
確かにヴァルサよりも長身だし、体の発育も良かったが、彼女は「ヴァルサではない」のだ。
それでも、ついヴァルサを連想してしまう。
ふいに、ぎゅっと頬をレクゼリアにつねられた。
morguthu.eto vam reyththo.(モルグず。お前は私のおどごぢゃ)
やはり女は、恐ろしい。
レクゼリアは、まさかエルナスまでついてくるつもりだろうか。
リアメスによれば、レクゼリアの生理周期などを調べたところ、ここ数日で妊娠する可能性がきわめて高いという。
そしてティーミャは、妊娠したかを確認する呪文を知っている。
もしエルナスに着く前に妊娠すれば、そのままレクゼリアは故郷に帰るようにと、はっきりと言っておいた。
エィヘゥグにも、その点は頼んである。
それにしても、ウボドナでの短期間の鍛錬ではあったが、エィヘゥグは見違えた。
まるで別人に生まれ変わったようだ、というのはさすがに大げさだが、彼は明らかになにかを吹っ切っていた。
成長する若者を見るのは、いいものだ。
レーミスのように、命を途中で断ち切られたものを知っていれば、なおさらである。
歩いている間、ほとんど会話はなかった。
特にティーミャは、かなり気負っているようだ。
今回の任務の重要性は彼女も理解しているはずだが、その点が少しモルグズは不安だった。
この地では十六は成人だが、やはりティーミャも経験が足りていない。
わずか半年ほどであまりにも多くの死線を乗り越えてきたモルグズからすれば、彼女は子供のようなものだ。
あのノーヴァナスのようなことにならなければいいが、と思う。
あまりに若くして強大な力を得た魔術師は、その力によって逆に押しつぶされるような気がする。
常に、ティーミャはまだ子供だと、意識し続ける必要がある。
やがて一行は、かなり幅の広い、白い石畳の敷かれた街道へと出た。
舗装されている時点で、すでにこの世界では、かなり整備された街道といえる。
大型の馬車も楽にすれ違えるほどのこの街道は、北東の城塞都市ケルクカダーンを経由して、さらにグルディアの王都グルードにまで通じているのだ。
そのグルードとかつて仲間だったリアメスとさきほどまで話していたのが、なんだか信じられなくなってくる。
ただ、本来は賑やかなはずの街道だが、いまはやけに静かだった。
ぼろ布をまとった一団が、南東からこちらにむかって近づいてくる。
旅姿、といった感じではない。
だとすれば、あるいは避難民かもしれなかった。
あるいは彼らは「馬鹿の罰」にすでに感染しているかもしれない。
一応、ティーミャはリアメスの調合した魔術薬を定期的に服用して、体の生命力を活性化させているのだが、それでも危険なことにはかわりがなかった。
eyhewg gardo:r resarizo colnxe.(エィヘゥグはここで女たちを守れ)
そう言うと、布を巻きつけたノーヴァルデアを背負ったまま、モルグズは一団に近づいていった。
明らかに一団は、疲れ切っているようだ。
chosiv fog vel jenma elanasma su:jezo.(今のエルナスの様子を教えて欲しい)
そう言って、モルグズは懐から取り出した金貨を、先頭の中年の男に握らせた。
さすがに、金貨を見て男の顔色が変わる。
vekava ned elnasuma u:tuzo.gow ja:bi era megce.unfum tav era o:tife.o:tis ijos.ta zems.(エルナスの中はわからない。でもひどい病気だ。最初は体が熱い。熱が続く。そして死ぬ)
これでは、ほとんど情報にならない。
nalpo vete cu?(どこから来たんだ?)
erv le:mis tospo era chagfe elnasle.(エルナスに近いレーミス村からだ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます