12 uwowtha jalnogo azom yurvatho.(ウォゥざは彼の言葉を認めた)

 この集団を率いても、まず勝ち目はないだろう。

 だから最初に反乱には勝てない、とあえていったのだ。


 ku+sin ko:rad era ba:di.vis zemgav yuridleksuzo.(普通の方法では無理だ。俺が魔術王を殺す)


 今度は、不気味な沈黙が落ちた。

 誰もが、あっけにとられているようだ。

 呆れているというよりは、想像もしていなかった言葉をぶつけられた、という感じだった。


 erth ba:d!(不可能だ)


 ers ned ba:di!(不可能ではないっ!)


 そう一喝すると、背中に背負っていたノーヴァルデアの布を解き始めた。

 無数の魔術印が刻まれた、魔剣の姿があらわになる。

 まるで威嚇するように、ノーヴァルデアが刀身を震わせていた。

 さすがに誰もが、この魔剣の禍々しさと、その奥に秘められた力に気づいたようだ。


 ers no:valdea.ers molgimagz.(これがノーヴァルデア。「災いをもたらす」)


 一人の老婆が言った。


 erth mig jabce.(あまりにも危険ぢゃ)


 sa+gxan yuridce artis zemgas sa+gxan yuridleksuzo.(汚れた魔術の剣が汚れた魔術王を殺す)


 またどよめきが起こった。


 erv molgimagz.kozfi:r vim tigazo.(俺は「災厄をもたらす」。俺の力を信じろ)


 erth to:g delmt.(ふぎつすぎるのぢゃ)


 老婆はウォーザに仕えているのか、忌々しげに魔除けの印のようなものを虚空に繰り返し描いていた。


 rxa:magu era cu? nap jeles viz cu?(冒涜か? 誰が俺を選んだ?)


 完全に、モルグズのペースにみながのせられていた。

 とはいえ、これは自分一人の力、ではない。

 そもそもなぜ、彼らの思考法、行動様式というものがここまで予想通りなのか。

 もちろんいままで彼らを観察していればある程度までは推測はできるが、妙な自信があるのはなぜか。

 たぶん、まだどこかにリューンヴァスの記憶の名残が残っているから、としか思えない。

 改めてこの体のかつての持ち主に、礼を言いたくなった。


 jen hasov zun za+kelakilnozo.te+jife kilreysima so:lo sunkas zun.(今、反乱を起こしてはならない。大事な戦士たちの命が失われてはならない)


 そのとき、何人の男女の目がおかしな具合に裏返り、彼らは体を震わせた。

 神託が、来たらしい。

 さあ、どうする、ウォーザ神よ。

 果たして自分の読みはあたるか、どうか。

 さすがに緊張してきた。

 もしウォーザ神が乗ってこなかったら、この場でさっそく、ノーヴァルデアを使ってウォーザの民を殺さねばならない。

 さらにいえば、ノーヴァルデアも以前のように味方してくれるとは限らないのだ。

 改めて、自分がとんでもない博打に出ていることを再認識した。

 だが、この程度のことでもし失敗するのであれば、とてもではないが邪神どもに立ち向かうなど不可能だ。

 永遠にも思えた沈黙の後、すっと一人の少女が立ち上がった。

 レクゼリアだ。

 この地ではすでに成人し、夫がいてもおかしくはない年齢だが、現代日本人の感覚としてはやはり少女としか思えない。


 uwowtha jalnogo azom yurvatho.(ウォゥざは彼の言葉を認めた)


 また別の僧侶が言った。


 lektharia ta eyhewg korazoth zev azcho.(レクザリアとエィヘゥグが彼と旅をしなければならない)


 さすがにこの神託の内容は予想していなかった。

 レクザリアはともかく、エィヘゥグというのは、一体、誰のことだろう。

 すると、さきほど自分たちの軟禁された家にやってきた若い金髪の男が、驚いたような顔をした。

 いままでさんざんこちらを嫌っていた、あの若者がエィヘゥグというらしい。

 なるほど、さすがに今回はウォーザもいろいろと考えたようだ。

 モルグズが想定した三国同士の大戦争となれば、当然ながらウォーザの僧侶や信徒も激減する。

 ならば、とりあえずは様子見、ということにしたのだろう。

 それでも、気がつくと冷や汗が出ていた。

 これからは神々の思考をいちいち読みながら、危険な綱渡りを続けていかねばならないらしい。

 とりあえず、ウォーザは見張りとして、レグゼリアとエィヘゥグをつけたのだ。

 それにしても、エィヘゥグというのはいままで慣れたネルサティア系の男の名前とは、ずいぶんと違っている。

 yやwといった半母音が多いのは、あるいはこの地の先住民のかつての言語の名残かもしれない。

 いまのセルナーダ語には二重母音が存在しない。

 英語のAは普通、eiと発音されるがこれが二重母音だ。

 二重母音は、単母音と違い一つの音節のなかに二つの母音がひとつながりとなって存在している。

 セルナーダ語と同じように二重母音を嫌うフランス語などは、半母音を用いることで二重母音を巧みに回避している。

 もとはもっと多くの母音が先住民の言葉にはあったが、先住民たちがセルナーダ語の音韻規則に慣れていくうちに似たようなことが起こった可能性はある。

 いずれにせよ、これで当面の目標は決まった。

 率直に言ってこの集落にきたときには、まさかこんなことになるとは思わなかった。

 闇魔術であり、イオマンテの魔術王であるノーヴァナスを倒せば、それで邪神たちの計画は狂い出す。

 とはいえ、果たしてそんなことが可能なのだろうか。

 相手はまだ若いとはいえ、このセルナーダの地でも有数の大魔術師なのだ。

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