11 vo nafav zev kilno ko:rad meg.(我々は戦い方について考えなければならない)
奇妙にすっきりとした気分だ。
体まで軽くなったような気がする。
すでにレーミスやスファーナは、こちらの変化には気づいたようだった。
wob ers cu? eto magben.(なによ。お前、気持ち悪い)
知ったことか、と思った。
あるいはすでに、エグゾーン女神からの神託がきているのかと思ったが、特にレーミスには変化は見られない。
ゼムナリアは他の邪神たちにも、昨夜のことは秘密にするつもりなのかもしれない。
ただ、ある意味では以前より孤独になった。
すでにスファーナも、レーミスも仲間としては信じきれなくなったからだ。
いつ、裏切られるかわからない。
レーミスはともかく、スファーナはエグゾーンからの神託通りに動く可能性が高い。
さらにいえばウォーザの民も、どこまで信じるべきかは難しいところだ。
そして残念なことに、そのなかにはノーヴァルデアすら含まれるのである。
死の女神が「せこくない」とは限らないからだ。
いまは余裕があっても、もし本当に神々の計画をひっくり返しそうになったときが、問題なのである。
土壇場でノーヴァルデアに殺されるというのは、ありうる話だ。
だがそのとき、彼女が自分と女神、どちらを選ぶかはわからない。
早い話が、昨晩よりもある意味では状況は悪化しているのだが、さして気にはならなかった。
今更、罪滅ぼしだとは思わない。
今までやってきたことは、すでに人として許されるレベルを超えている。
それでも人々を滅ぼし、苦しみを与えるよりは、まだ災厄の被害を抑えるために戦うほうが、ましというものである。
とはいえやはり世の中、そうそう甘くない。
いまは身動きがとれない状態だった。
しかも、友好的な状況とは言い難い。
いままで長の館の近くの、客を泊めるための専用の家のようなものに入れられていたのだが、実質、軟禁状態のようなものだ。
まわりでは無数の戦士がこちらを見張っている。
一人の若者が、苛立ったように扉を開けた。
短い髪の、昨日、露骨にこちらを嫌っていいた青銅剣を持つ戦士だ。
tothothu lumbuto li tuthu.(村おざがおまえうぉ呼んでいる)
昨夜よりも鋭い眼光をしていた。
レーミスとスファーナとは別に、一人だけでまた村長の館に呼ばれたが、明らかに張りつめた空気が漂っている。
wothuma lekth.teminum kilnoto yurdrethile cu?(あらじのおぅよ。お前は本当にまじつしたちと戦うつもりか?)
yuridrethが複数でyuridrethiになった途端、途中のiが脱落した。
複数形だと四音節になり、-rid-の部分がアクセントから外れたためだろう。
ずいぶんと忙しいことだが、これではグルディア方言と同様、セルナーダの音韻規則が崩壊してしまっている。
ただ、この緊迫した状況では、いちいちそんなことを考えている余裕はない。
ひょっとしたら、ゼムナリアがウォーザなにか情報を流したのだろうか。
彼女の目的はわからないが、これは僧侶などが神託をうけた結果、としか思えない。
ne+do.za+kelakilno ers jabce to:g.(いや。反乱は危険すぎる)
ぶっくらぼうなモルグズの物言いに、あちこちから怒号が上がった。
be+pitreth!(臆病もんぉっ)
rxobito kilnzo cu?(戦が怖いのか?)
erth ned vatson wothuma lekthle!(ぎゃつはあらじのおぅにふさわじくないっ!)
いまのにも、こちらに襲い掛かってきたそうなものまでいる。
だが、自分でも不思議なほどにモルグズは落ち着いていた。
これもリューンヴァスの助け、なのだろうか。
gocriv fa za+kelakilnole.(反乱は負ける)
また怒号が飛び交ったが、モルグズは一同を睨みつけた。
santu:r ta seki:r wozma leksuma yurfazo!(黙って嵐の王の言葉を聞けっ!)
迫力に気圧されたらしく、男たちの声がしだいに止んだ。
冷静に、モルグズは反乱を起こしたらどうなるかを、順番に説明していた。
まず、たぶんすでに魔術師たちの間者はこの集落に入り、イオマンテの魔術師たちにまで情報は伝わっている。
第二に、いまだにイオマンテの魔術師たちは強力だが、こちらには本当にそれに対抗するだけの力はあるのか。
たとえウォーザ神の加護があったとしても、それだけで勝てたら苦労はしない。
rxamagute uwouthatho.(お前はウォゥざを冒涜したっ!)
賛同の声が上がったが、モルグズは冷静だった。
wo:za megas tel! a:mofe kilreys zemges re nafete ned dog!(ウォーザはお前たちに怒っている! いままでお前たちが考えなかったせいで多くの戦士が殺された!)
この言葉は、さすがに堪えたようだった。
彼らにも思うところはあったのだろう。
とにかくウォーザから神託があったので、決起する。
そして馬鹿正直に魔術師の軍勢と戦いを挑んで焼き払われる。
そうしたことが、このイオマンテの長い歴史で幾度もあったのだろうと想像していたが、予想通りだ。
嵐の神という性質のせいか、ウォーザはたぶん短気なのだろう。
そしてその信徒たちも、現代日本的にいえばいわゆる「脳筋」揃いである。
vo nafav zev kilno ko:rad meg.(我々は戦い方について考えなければならない)
ようやく、戦士たちも落ち着いた。
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