6 sxugito li re zerosile.(お前たちは神々に騙されているんだよ)
いずれにせよ、とにかくクーファー信徒と一度、断じられたが最後、その者にはむごたらしい死が待っている。
アリッドの街で商人から話は聞いていたが、ここまでひどいとはモルグスも予想してはいなかった。
ここで重要な役割を果たしているのが、暗黒省と呼ばれる部門である。
彼らはやはり秘密警察のようなもので「クーファー信徒」を毎日のように捕らえては、処刑しているという。
特にクーファー信徒、より正確にいえばそう疑われた火炎魔術師が減ったせいでイオマンテ軍はかなり深刻な状態になっているようだが、ノーヴァナスはそんなことは構わないらしい。
なんとなく、全体の絵図が読めてきた。
モルグズですら吐き気を覚えるような、真実が見えてくる。
ゼムナリア、エグゾーン、クーファー、あるいはウォーザといった神々がそれぞれの利益のために、裏で協力しているとしか思えなかった。
邪神とみなされている神々はまだいい。
ウォーザという、農業でも重要とされている神までもがそこに加担しているのはさすがに戦慄させられた。
神々の考えが、モルグズにははっきりと理解できる。
やはり彼らは、三つの国家がからむ大戦争を起こす腹積もりなのだ。
ノーヴァナスが火炎魔術師たちを粛清したのは、闇魔術師と対立しているというのも理由の一つだろう。
しかし、火炎魔術師はイオマンテ軍の中核を担っている、という話だった。
五つの系統の魔術でも、物理的な破壊力にもっとも優れているのは火炎魔術らしい。
その火炎魔術師の数が減り、イオマンテの軍事力が弱まればなにが起きるか。
セルナーダでの三大国家間の軍事的均衡が崩れる。
一部の現代日本の平和主義者が唱えているような、軍縮こそが平和に繋がるという考えは一見、わかりやすいが、実は完全に間違っている。
平和とは「隣接する国々の軍事力が拮抗している状態」を意味するのだ。
つまり、下手に相手を叩くと自分も手痛いしっぺ返しをくらうとなれば、誰もが手をひっこめる。
一つの国の軍事力の低下はむしろ、戦争の原因となるのである。
この理屈はセルナーダでもあてはまる。
イシュリナシアとグルディアは宿敵同士であり、同盟を組むことはちょっと考えられない。
だが「それぞれが個別にイオマンテ領内に侵攻してくることはありうる」のだ。
西からはイシュリナシア。
北西からはグルディア。
とはいえ神々はまだイシュリナシア、グルディアともに動かないと考えている。
つまりイオマンテはいま厳しい状況にあるが、まだ機は熟していない、ということだ。
ところが、ここで大規模な内乱が発生したらどうなるか。
ウォーザの民に担ぎ上げられた「嵐の王」が、古の災厄の星を落とす魔剣を手に、ウォーザ神の名のもとに魔術師たちと戦え、自由をつかむのだと号令したら、人々は果たしてどうするか。
たぶん、動く。
少なくとも、神々はそう考えている。
実際、そうなる可能性は高い。
残念ながら、人々の希望は裏切られるだろう。
それでもイオマンテの魔術師たちは持ちこたえるというのがモルグズの予測だ。
ただし、この反乱を抑えるためにはイオマンテの魔術師たちの人的被害も相当なものになるだろう。
そこで、弱りきった魔術王国にイシュリナシアとグルディアが、電撃的な奇襲をかけてくる、というわけだ。
おそらくユリディン寺院は必死になってその事態を阻止しようとするだろうが、たぶんかなりの確度で邪神やウォーザ神の企みは現実になる。
sxugito li re zerosile.(お前たちは神々に騙されているんだよ)
口のなかでそうつぶやいたが、誰にも聞きとがめられなかったようだ。
果たして、どれだけの死者が出るだろう。
多くの民が死んでも、ウォーザ神も忌々しい魔術師たちがいなくなった、と喜ぶのかもしれない。
そして、今、この場にいるウォーザの民も、そのほとんどは死に絶えるだろう。
この世界の恐ろしさを、今更ながらモルグズは噛み締めていた。
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