8 jen,erv e+cofe cu?(今、俺は格好いいか?)
erav mig fa:han.wa+delum lakava tuz.vo tarmasi wa:delum nav unle.(私はとても嬉しい。永遠にあなたを愛する。私たちの魂は永遠に一つになる)
そして、ノーヴァルデアの体が奇妙な輝きを帯び始めた。
青黒いような、忌まわしいのになぜか目が離せぬほどに美しく、そして哀しげな光が粒子と化して、いままさにモルグズの握りしめている長剣の柄のあたりに吸い込まれるように移動していく。
永遠にも似た時間のなか、やがてそこには一本の、無数の魔術印が刻印された、禍々しい鉄の長剣の刀身が存在していた。
そういえば、鉄のことをなんといった?
zemgos.
つまり、死の金属だ。
ノーヴァルデアがいたはずの場所には、彼女が身につけていた衣服だけが、虚しく残されていた。
aaaa....
ようやくモルグスは理解した。
ただで大いなる力を得られるなどと考えた自分は、やはりどうしようもない愚か者なのだと。
力には常に代価が伴う。
たとえばこの魔剣の代価は「愛する者の肉体と魂」なのだ。
肩が震えていた。
自分が自分でなくなりそうだった。
自らに対する怒りのあまり、絶叫しようとした瞬間、魔剣モルギマグズから暖かなものが伝わってきた。
魂が一つになる。
つまり、それは「こういうこと」なのだ。
すでに自分と、ノーヴァルデアの魂は、魔剣によって繋がっているのだ。
もはやこの魔剣そのものが、ノーヴァルデアといっても過言ではない。
魔剣の刀身を、抱きしめた。
喜びがそこから、冷たいはずの鉄の刀身から伝わってきた。
これでずっと一緒にいられると、ノーヴァルデアが笑っているかのようだった。
いつから自分が泣き出していたか、わからなかった。
たぶん、ノーヴァルデアは魔剣について、予めゼムナリア女神から聞かされていたに違いない。
ひょっとすると、彼女はどこかで自分がモルグズに抱く愛情と、モルグズがノーヴァルデアに抱くそれが違うことには気づいていたのかもしれない。
どうやってその差を埋めるか、きっと彼女なりに必死になって考えたのだろう。
その答えが、これだ。
ノーヴァルデアはきっと、本当に心の底から、今、嬉しいのだろう。
だが、自分はどうだ?
そうだ、これでずっとノーヴァルデアと一緒なのだ。
だからこれは嬉し涙……のはずがない。
おそらく、レーミスも、スファーナも、最初からこのことを知っていた。
しかし、もはや彼らを憎む気力さえ失せていた。
なにもかもを魔術に頼ればいずれ手痛いしっぺ返しを食うと、ゼムナリアが言っていたにもかかわらず、魔術の力を都合よく考えていた。
魔術は「魔法ではない」のだ。
法力が「奇蹟ではない」ように。
それは地球の人間から見れば魔法にも、奇蹟にも見えるが、なにがしかの形で代価を必要とするのである。
魔術師が魔術を無限に使えないのは、心身ともに消耗する、あるいは魔力に制限があるからだ。
僧侶たちの法力にも似たようなものはあるのだろう。
molgimagz ers go+defe! du+kusum gozunas zemnoma tigazo.(モルギマグズはすごいのよ! 異常に死の力を強めるの)
ers yatmi.(それは間違いだ)
三百年も生きているには、やはりスファーナは馬鹿なのだ、と改めて思った。
「彼女」にむかって、心のなかで話しかける。
なあ、お前もそう思うだろう?
erv molgimagz.(俺がモルギマグズだ)
すると、スファーナが困惑したような表情を浮かべた。
ya:ya.eto molgimagz.gow yujuva fog...(そう、あなたはモルギマグズよ。でも、私が言いたいのは……)
yatmi:r ned "satom" marnazo!(「彼女」の名前を間違えるなっ!)
「人の名前を間違える」など、失礼にもほどがある。
モルグズは愛しい魔剣を構え、言った。
satom marna era no:valdea.(彼女の名前は、ノーヴァルデアだ)
一瞬、スファーナが体をすくめた。
to...hosle...(お前……ホスに……)
ホスとは狂気の神だ。
今は名前の話をしているのに、彼女はなにを言っているのだろう。
ひょっとすると、三百年も生きているので少し惚けが始まっているのかもしれない。
それにしても、今夜は月が綺麗だ。
窓辺にむかうと、吹きすさぶ寒風が入り込んでくるのも気にせず、モルグズは鎧戸を開けた。
メディルナの都の空は、あちこちに建物があるので狭い。
no:valdea.mavto ci laykazo cu?(ノーヴァルデア、ライカは見えるか?)
そう言いながら「ノーヴァルデア」を窓の外に出してみたが、返事はない。
それでも今のモルグズは幸せだった。
もうこれで、ノーヴァルデアとずっと一緒なのだから。
そのとき、一瞬だけ流星がすっと夜空の端を流れていくのが見えた。
そういえば、ヴァルサから聞き忘れていた。
流星って、セルナーダ語ではなんというのだろう。
しかし、今回はノーヴァルデアを守ることに成功した。
それなのに、なぜか心の中のヴァルサは、ひどく哀しげな顔をして、血の涙を流している。
yoy,varsa.gardov ci no:valdeazo.(なあ、ヴァルサ、俺はノーヴァルデアを守れたぞ)
誇らしくなってモルグズは訊ねた。
jen,erv e+cofe cu?(今、俺は格好いいか?)
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