4 ers narhama zeros.narhain ers!(道化の神。ナルハインよっ!)

 gow eto no:vayuridus.(でもお前は闇魔術師だ)


 ya:ya.unfe erig hanzes.now so:lo ta zemno era malgosma fo:bem ta du:bem cedc.(そう。最初は私も不思議だった。でも、生命と死は硬貨の表と裏みたいなものなんだ)


 確かにそうとも言えるのかもしれない。

 しかし、いくらなんでも魔術師だからといっても、していいここと悪いことがあるような気もする。


 yuridres yajo re aln ne:rnafazo cu?(魔術師はあらゆる研究を許されるのか?)


 するとゼーミャが苦笑した。


 yajo re ned.yuridin lugdi ya: dog.(許されないよ。ユリディンlugdiがあるから)


 lugdiは戒め、のような単語だった気がする。

 ここはユリディン戒、とでもしておくか。


 yuridin lugdi demiya a:mofe metsfigzo.gow aln yuridres duyfum bagzos yuridin lugdizo ers to:g dasce teg.now ma:neda ya:.(ユリディン戒は多くのことを禁じている。だけどあらゆる魔術師はユリディン戒が厳しすぎるので多少は破っている。でも制限はあるよ)


 ラクレィスは教えてくれなかったが、彼はたぶん大量にユリディン戒を破っていたのだろう。

 それからユリディン戒について訊ねると、なるほど、律儀に守れば魔術でなに一つ、できなくなるものばかりだった。

 他者に危害を加えてはならない。

 人の心を読んではならない。

 生き物を害してはならない。

 戦争に加担してはならない。

 魔術で金を儲けてはならない、などなど。

 多少のユリディン戒破りは確かにどの魔術師もしていそうだが、それでも伝統的に「やりすぎ」というのはあるそうだ。

 そして、いまの研究はそれに抵触するのではないかと、ユリディン寺院内部でもいろいろな意見があるらしい。

 それを聞いて少しは安心したが、まだヴァルサの復活を考えている自分がいる。

 しかしゼーミャが古代の遺物を管理しているのであれば話は早かったのだが、ゼムナリアの言う通り、そう都合よくはいかないようだ。

 だが、それでもこうしてユリディン寺院に内通者をつくれただけでも、上首尾というものだろう。

 それから寺院の内部について、さまざまなことをモルグズは訊ねた。

 ゼーミャは特に警戒した様子もない。

 というより、ときおり「モルグズに話しても理解できるだろうか」と悩んでいる気がする。

 彼女にとってモルグズは、好奇心の強い物知らずの半アルグの傭兵にすぎないのだろう。

 まさかその魂がこの世界より技術が進んだものであるとは、想像もしていないに違いない。

 無理もない話ではあるのだが。

 それからゼーミャの教えてくれたユリディンの内情は、実にためになった。

 ユリディン寺院の二つの塔はそれぞれが二十五階建てである。

 知識の塔と、魔術の塔は魔術的に結ばれており、内部の権限のある人間ならば自由に移動できる。

 さらに、やはり魔術的なエレベータのようなものも存在するようだ。

 知識の塔は大量の書物が収められており、知識僧たちは日々、写本と神から与えられた法力で、その数を増やしている。

 ただし魔術僧たちがそうした書物を閲覧するのは、簡単ではないようだ。

 知識僧たちは知識の守り手であり、迂闊に知識を外に出すことは危険だと考えている。

 一方、魔術僧、つまり魔術師たちは過去に失われた魔術の呪文を復活させたり、さらに便利な新たな魔術の研究を行っている。

 もちろん、ユリディン戒に抵触しないように注意しながら、ではあるが。

 危険な昔の魔術的な品もあるのではないかと聞くと、ゼーミャは笑った。


 hi+sa ya:.a:mofe hi+sa ya: yuridin zersefle .gow vekava ned wob ers tems.(噂はあるよ。ユリディン寺院にはたくさんの噂がある。でも、なにが本当かはわからない)


 どうもユリディン寺院の魔術師、つまり魔術僧や知識僧たちも、寺院全体のことについては完全に把握してはいないらしい。

 ある意味では、これは保安体制としては正解である。

 みなが一部の知識しか持たないため、たとえばいまのように一人の魔術師から話を聞いても、得られる知識は限られている。

 ただ、最近は面白い噂があるとゼーミャは教えてくれた。


 zersef jabmiya foy zeros vasos dog.(寺院は神が現れるので警戒しているらしい)


 楽しそうにゼーミャは言った。


 ers narhama zeros.narhain ers!(道化の神。ナルハインよっ!)


 そこでゼーミャが、この噂をただのくだらない噂だと信じていることを理解した。

 理屈では、たぶんゼーミャは神々が人の姿でときおりこの世界に顕現することはわかっているのだろう。

 とはいえ、それは決して実感を伴ったものではない。

 最初にヴァルサにナルハインと出会った話をしたときも、彼女は自分をからかっているのかと怒ったのだ。

 しかし、あの神はなにを考えているかわからない。

 ゼムナリアの信者と合流しろと言ったり、自分をネス伯の牢獄から逃してくれたと思ったら、ネスの民に復讐したことで「僕はこんなのは望まなかった」といいのける、ある意味では一番、面倒な神だ。

 敵なら敵で一貫してほしいのに、こちらの手助けをすることもある。

 かといって味方かと思えば逆に妨害もしてくる。

 だが、だからこそ恐ろしい。

 考えがまったく、読めない。

 それこそ単に、場をかき乱しているだけのようにも思える。

 最近、メディルナのユリディン寺院にナルハインが出没しているのは偶然ではないだろう。

 本当は、ゼーミャにもっと、たとえば魔剣molgimagzのことも聞きたかったのだが、さすがにこらえた。

 一つだけ確かなのは、たしかにユリディン寺院は恐ろしいところかもしれないが、つまるところ「人間の集団にすぎない」ということだ。

 たとえば、魔術僧たちの間では元素の対立通り、魔術師同士がひそかに敵対しているらしい。

 さらに知識僧と魔術僧の確執も存在する。

 むろん、組織の恐ろしさは現代日本にいたときにモルグズも理解していた。

 一人の殺人鬼は、二十六万人の警察官にはかなわなかったのだ。

 現代日本の警察も決して一枚岩ではないが、彼らの捜査に対する執念は本物だと痛感させられた。

 決して、ユリディン寺院を侮るつもりはない。

 だがそれでも、ユリディン寺院の内情を理解すれば、どこかに突破口は見つかるような気がしてならないのもまた事実だった。

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