12 molgimagz...nazc era...(molgimagz……まさかね……)
ノーヴァルデアとの二人旅だと、困ることも多い。
さらにいえば、スファーナの存在がある種の目眩ましとなって機能している。
追手はまだ、彼女の存在に気づいていない。
もしモルグズとノーヴァルデアの二人だけならひどく目立つが、そこにスファーナが入ると全体の雰囲気が中和される。
しかし、とモルグズは思った。
どうにも、追手の追跡が甘く思えるのは、気のせいだろうか。
そもそも昨日、こちらを追いかけてきたのがイシュリナス騎士団ではなく白銀騎士団の騎士だというのが、今更ながらひっかかるのだ。
もともと他の領地で犯罪を犯した者は、その地の領主にしか逮捕権や司法権はないはずだった。
いままでモルグズが追われていたのは、正義神イシュリナスの寺院が独自の司法権を有していたからである。
だが、すでにモルグズたちのしたことが「犯罪」などというものを飛び越えてしまっているのも事実だ。
白銀騎士団は、王国と王家に直属する騎士団である。
彼らが動いているということは、イシュリナス寺院だけではなく、王国全体が敵にまわったことを意味するのだ。
現代の地球で例えるなら、アメリカでテロを起こした犯人が州警察だけではなく、FBIや軍に追いかけられているという状況だろう。
とはいえ、そのわりにはやはり、どうも向こうの動きが手ぬるい。
やはりネス近郊の疫病騒ぎにより、かなり王国もダメージをうけている、ということだろうか。
さらにいえば、すでにユリディンの牙はラクレィスとアースラの抹殺に成功している。
ひょっとすると、彼らに厄介な相手を押しつけるというのが、王国上層部の腹積もりなのかもしれない。
この世界は、一見すると冒険者や勇者が活躍するような異世界にも見えるが、その実情はまるで別物である。
地味な政治的な要素が絡み合い、さまざまな勢力が暗躍しているという意味では、ひどく現実的というか、生々しい。
なによりも体面を気にするイシュリナス寺院としても、下手に手駒を失いたくはないのかもしれない。
またそこにはネス伯ネスファーディスの思惑も関係してくる。
彼としてはさっさとノーヴァルデアをなんとかしたいところだが、もし彼女が人々に真実を語っても、それを信じるものはまずいないだろう。
ゼムナリアの尼僧が嘘をついている、で終わらせることもできる。
一番、面倒なのはアルデアだが、彼女はあるいは軟禁されているのかもしれない。
下手にアルデアが動き回って人々がノーヴァルデアと顔が似ていることに気づけば、それこそ藪蛇になりかねない。
とはいえ、敵を侮るのは危険だ。
根拠のない楽観論ほど恐ろしいものはない。
やはり常にイシュリナシアのさまざまな勢力に追われている、と考えるべきだ。
さらにはユリディン寺院にも。
しかし女神の神託が、メディルナに行け、というのだから頭が痛い。
メディルナは古都であり、暗黒時代にもその寺院は最後まで魔術の知識を守り続けたというのだ。
実際、メディルナのユリディン寺院が、セルナーダ全土のユリディン寺院を統括しているといっても過言ではないらしい。
つまり死の女神は、まさに敵地の只中に飛び込め、と言っているようなものなのだ。
もっとも、すでに魔術師であるラクレィスの死は彼らも確認しているはずだ。
いや、とモルグズは笑った。
ある意味では、自分はラクレィスの弟子のようなもので、非公式ではあるが魔術師でもあるのだ。
元ユリディンの牙だった魔術師が逃亡し、ゼムナリア信者とみなされている半アルグに魔術を勝手に教えたら、ユリディン寺院としてはどんな反応をするだろう。
あまり、深く考えずとも想像はつく。
しかもすでに、イシュリナシアとグルディアに、かなりの被害が出ているのだ。
wob yas medirnama yuridin zersefle cu?(メディルナのユリディン寺院にはなにがある?)
すると忌々しげにスファーナが言った。
uldce sxu:lu,o+guce yuridres,ta jabce yuridce tso:bis yas.(古の知識、奇怪な魔術師、そして危険な魔術の品、ね)
jabce yuridce tso:bis?(危険な魔術の品?)
uldce yuridres sekgo a:mofe jabce tso:biszo.jen yuridin zersef sabos li jodi tso:bisi.(昔の魔術師はたくさん危険な物を作ったのよ。今はユリディン寺院がそういう物を管理している)
なるほど、ゼムナリア女神の考えがなんとなくわかってきた。
あるいはそうした品を使って、今度は新たな殺戮の嵐を巻き起こすつもりなのか。
しかしユリディン寺院の僧侶や魔術師も、馬鹿ではないだろう。
たぶん常時、そうした強力な魔術の品を厳重に見張っているはずだ。
モルグズとノーヴァルデアにはさすがに荷が重すぎるし、そもそも、もうモルグズはゼムナリアに頼るつもりもなければ、その指示に従うつもりもない。
とりあえずメディルナに向かおうとしているのは、イシュリナシア国内から外に出るためには、自然とメディルナが通り道の途中に位置しているためだ。
それと、ノーヴァルデアがメディルナに生きたがっているからである。
なんとか彼女を説得して、メディルナを素通りして東の辺境に抜けたいというのが本音だが、いまだ彼女がゼムナリアの僧侶であることにはかわりがない。
そう考えると、事態は深刻である。
ゼムナリアの僧侶であることは、そのままノーヴァルデア本人の存在基盤のようなものだからだ。
もし彼女からゼムナリア信仰と法力をなくしてしまえば、ノーヴァルデアは明日から自分がどう生きていいかもわからなくなるだろう。
さて、どうしたものかと考えていると、はっとしたようにスファーナがひとりごちた。
molgimagz...nazc era...(molgimagz……まさかね……)
molgimagzというどこか禍々しい音の響きが、妙に心に残った。
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