11 hudos resama a:jszo amestse.veketo cu?(女の年齢は見た目で判断するのよ。わかった?)

(現実は残酷か?)

 久々だな、と思った。

(そうでもあるまい。汝らは短気で困る)

 神々の時間感覚など、知りたくもない。

(わらわは汝に復讐の機会を与えた。汝の怒りは不条理もいいところじゃ)

(いい加減にしとけ)

(それはむしろわらわの言葉じゃ。わらわは汝の手助けをしたのみ。なにゆえ難詰されねばならぬ)

(お前は俺を利用した)

(見解の相違であろう。わらわは汝が求めに協力したまでじゃ)

(俺は……)

(ネスの市民を殺したくなかったなど戯言は申すな。それは汝の真の望みであったゆえ)

 否定できなかった。

(汝はおのが欲望を満たすために事をなした。それをなぜわらわのせいにするのじゃ)

 これもまた、頭にくる話だが否定しづらい。

(汝は好きに生きるが良い。なにもかもまるでわらわのようにされるのもあまり愉快ではない)

(じゃあ、なんでノーヴァルデアにはメディルナに行けと言った)

(それは汝の問題ではあるまい)

(お前のそういうところが嫌いなんだ。ノーヴァルデアになにをさせるつもりだ)

(嫌われて結構。それで汝はノーヴァルデアになにを与えられる。愛か?)

 明らかに、死の女神はこちらを嘲笑していた。

(愛? それは食せるのか? 美味なのか?)

 忌まわしい女神になにを言っても無駄だ。

(わらわは愛を完全には否定しておらぬのだがな)

 ゼムナリアのぞっとさせられるような笑い声が聞こえた。

(あの傷だらけの娘の、決して成熟せぬ体を愛せるのならば汝は立派なヌラノーク信者であろうよ)

 だが、自分はそうではない。

(だから魔術を用いる? 汝はなにを聞いたのだ? 魔術によりスファーナはどうなった? 魔術がすべての問題を解決してくれるなどと考えるならば、汝は手痛いしっぺ返しを受けるであろう……)


 旅籠の木の床の上で、目が醒めた。

 材木の匂いを強烈に感じる。

 そういえばこの宿屋は木材と漆喰を使っていた、などと考えていると、ノーヴァルデアが目を醒ました。

 一見すると子供だが、彼女は決してただの女の子ではないのだ。

 おそらく、なんらかの形でノーヴァルデアを大人にする魔術は存在する。

 スファーナがそうした魔術を毛嫌いするのも理解は出来るが、それが正しいとも思えない。


 morguz.va lakava tuz.(モルグズ、私はお前を愛している)


 胸がぺったんこの肌着姿の子供のような少女にそう言われて、性的に興奮できる者がいたら、むしろ今の状況ではそのほうが羨ましく思えた。

 ノーヴァルデアが喜んでくれるからだ。

 だがモルグズの性的嗜好は、違う。

 こればかりはどうにもならない。

 かつてラクレィスの、つまりは男性同性愛者の愛に応えられたらどれだけいいだろう、と心のどこかで思っていた。

 性的な意味ではないが、ある意味ではアースラよりも深く、彼のことを愛していた気がする。

 だが、現実とはおおむねこんなものなのだろう。


 ye:nnav nato nxal udnema resale.(お前が大人の女になるのを期待してる)


 va mig lakava morguzuzo.(私はとてもモルグズを愛している)


 いつものように、ノーヴァルデアがしがみついてきた。

 そのたびにモルグスのものは萎縮する。

 理由は言うまでもない。

 互いの求める「愛」の間に、あまりに深い溝があるからだ。


 yoy,ta wob wonto,morguz.(あいよ、そして何してるのよお前は、モルグズ)


 いきなり顔面をスファーナに踏んづけられた。

 さすがに文句の一つも言いたくなったが、三百年を生きてきた相手にどんなことを言えばいいのだ?

 それでも見た目はやはり十代の小娘である。


 gesa:r ned viz!(俺を踏むな!)


 abova nulanokres lokyigi geses re fen zo teg.(ヌラノーク信者は踏まれることが好きだと思ったんだけど)


 erv ned nulano:kres!(俺はヌラノーク信者じゃねえっ)


 やはり三百年の生で、スファーナの精神は地獄のようにねじ曲がっているに違いない、とモルグズは確信した。


 eto ga:ga!(ババアがっ)


 次は急所を踏んづけられてモルグズは呻き声をあげた。


 hudos resama a:jsuzo amestse.vekete cu?(女の年齢は見た目で判断するのよ。わかった?)


 vekev.....(わかった……)


 あらためてこの状況の理不尽さに憤慨していたが、これ以上、スファーナを敵にまわすのはさまざまな意味で得策ではないとモルグズは判断した。

 しかし、昨夜は少し飲みすぎた。

 あのスファーナの言葉もあるいは夢ではないかと思えるほどに、彼女は若々しい。

 だが、心の奥底の冷静な部分で、すべては真実だと理解していた。

 この世界では、地球では考えられなかったようなことが現実に起きることは何度も経験している。

 悔しいが、この一見すると十代後半の美少女……本当に悔しいが美人であることは認めざるを得ない……が、実際には信じられないほどの年齢を生きていることは明らかだ。

 ただ、今のところは世慣れした彼女の存在が有益なのも事実である。

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