2 nazc eto nulano:kres cu?(まさかお前、ヌラノーク信者?)
だがどうにもスファーナは「病に耐性を持ち、人々に病を広めるエグゾーンの尼僧」という禍々しく、不吉なイメージからはかけ離れている。
むしろ傲慢かつわがままで、相手が強いと知るとさっさと降参するが、弱点を見つけるとにやにやしながら攻撃してくるというのは、質の悪いお転婆な世間知らずのお嬢様がそのまま大人になりました、という感じがする。
黙っていれば、いかにも気位の高い令嬢といった雰囲気なのだが、口を開くと性格の悪さが露呈するのだ。
どうにも正体がわからない。
実際には案外、かなり上流階級の出身ではないかという感じもするが、かなり汚い言葉を平気で使ううえに、妙なところで世慣れている。
娼婦あがりのアースラともまた違う雰囲気で、身持ちも固い。
性欲処理の道具にでもなるだろう、などと外道なことを考えていたはずなのに、宿で寝台に寝るのはいつもスファーナとノーヴァルデアの二人で、モルグズは仕方なく床で毛布にくるまって寝るのだから我ながら情けない。
nazc eto nulano:kres cu?(まさかお前、ヌラノーク信者?)
などと、とんでもない嫌疑をかけられたこともあった。
ただあのときはノーヴァルデアが例によって、いうよりさら過激に悪化してva wonva fog la:kama wegnozo morguzcho.(私はモルグズと愛の行為を行いたい)と言っていたので誤解されても仕方のないところではある。
アーガロスの悪霊が現れてからの波乱続きの日々に比べれば、夢のなかで微睡んでいるようなものだった。
ただ、やはりノーヴァルデアはメディルナに向かいたがっている。
法力は使わなくなっても、彼女が依然、ゼムナリアの僧侶であることには変わりがないようだ。
ただ、スファーナがなにを目的に旅をしているのかは、いまだに謎だった。
そろそろ、ネスの街を出て二週間近く経過している。
すでに季節は晩秋へと移り、森の広葉樹も赤や黄色いに色づいて、ときおり散りはじめていた。
いまは南へと移動しているせいで、寒風が以前にも増して冷たく感じられる。
wam korazoto cu?(なぜ旅をしている?)
いつものように布で口を覆い、半アルグだと露見しないような格好でモルグズは街道を歩きながらスファーナに訊ねた。
歩く速度はノーヴァルデアが基準になっているので、他の旅の者たちに次々に追い抜かれていく。
さすがに病が一応は収束したとはいえ、北のネス方面からくるモルグズたちを、ときおり胡散臭げに見る者も珍しくはなかった。
lokyiva ko:razozo dog.(旅が好きだから)
理由になってない。
だが、彼女は途中の路銀もきっちりと稼いでいた。
ただやり口がえげつない。
まず適当な相手に軽い病にかかる法力を使う。
そして相手の具合が悪くなると、自分はコライゾンの尼僧だと告げて法力をかけたふりをして、喜捨として金を受け取るのだ。
なにしろ軽い病気なのですぐに治るのだが、それを人々は法力のおかげと誤解してありがたがる。
ちなみにコライゾンとは、旅の神である。
人生は旅であるという教えにより、あらゆる旅人を守ってくれるという。
いつか神罰が下るぞと言っても、スファーナは一向に反省しない。
気がつくと、ノーヴァルデアもスファーナに懐いていた。
実際の年齢は同じくらい、下手をすれば年上かもしれないのに、やはりノーヴァルデアがスファーナと一緒にいるところは、なつくという言葉が一番、ぴったりとくる。
だが、モルグズは知っていた。
こんな平穏な日々が、長続きするはずはない、と。
案の定、街道沿いに噂が流れ始めた。
isxurinasma i+sxuresi nagos zemnariareszo tes.(イシュリナスの騎士たちがゼムナリア信者を探しているらしい)
nagos kap egzo:nma zeresazo cez.(エグゾーンの僧侶も探しているってさ)
彼らが探しているのは、自分とノーヴァルデアであることはモルグズも理解していた。
ネスファーディスは誰が石灰を消毒に使えばいいという噂を流したのか、とうに感づいているだろう。
さらにいえばノーヴァルデアは存在そのものが彼にとっては危険すぎるのだ。
追手にアルデアがいなければいいがとも思ったが、さすがにそれは虫が良すぎるか。
アルデアは確実に、こちらを恨んでいる。
正義感が強く、曲がったことが許せないという性格の彼女が絶望的な現実を知った場合、考えられる行動は二つくらいのものだろう。
心を完全に閉ざし、現実から逃避するか。
あるいは真実を否定し「自分の望む真実を見ようとする」か。
今回はたぶん後者だ。
アルデアの脳内では、モルグズはヴァルサの復讐のために心を鬼にして、ノーヴァルデアという自分によく似た子供をゼムナリア信者に仕立て上げ、洗脳したというような筋書きが出来上がっているに違いない。
ヴァルサが処刑された日、ノーヴァルデアがモルグズを救出にきたことはイシュリナス騎士団の者たちなら知っているはずだが、そんな現実をアルデアは拒絶するだろう。
ヴァルサ。
信じたくないことだが、かつてはあれほど思い返していた彼女のことを、日に数度しか考えなくなった。
顔もうっすらとぼやけ、もはやどんな表情を浮かべていたかも、怪しくなっている。
そんなものなのか。
魂で結ばれた、と思ったのに結局、自分たちの絆などその程度のものだったのか。
yoy,morguz.(あのさ、モルグズ)
スファーナが言った。
somc nato sa:mun je cafzo.(たまに哀しそうな顔するよね)
selnav ned tel.(お前には関係ない)
不満げにスファーナが頬をふくらませたそのとき、背後から高らかな馬蹄の音が響いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます