11 sxelte cod judnik era zobga cu?(この世界は地獄だって知ってた?)

 まるでアルデアは、魔術で呪縛されてでもいるかのようだった。

 それから、ノーヴァルデアは先代ネス伯爵についての、おぞましい話を語った。

 アルデアは初めては否定していたが、あまりに生々しいノーヴァルデアの話に、やがて体を凍りつかせた。


 va lakava re kadsule.to nadum lakato re cu?(私は父に愛された。お前はどのように愛された?)


 ers ned la:ka.aln ers o:zura!(それは愛じゃない! すべて嘘だっ!)


 だが、彼女がノーヴァルデアの言葉をすでに真実だと理解していることは、すぐにモルグズにもわかった。

 とはいえ、父がそのような怪物であったことを簡単に認められるわけがない。

 ある意味では、先代のネス伯爵は二人の娘をともに愛していたのかもしれない。

 アルデアは光のもと、ごくまっとうな愛情をうけて健やかに育った。

 だがノーヴァルデアは闇のなかで、歪んだ愛をうけて死の女神に救いを求めた。

 それだけの違い、とはさすがに言えない。

 今のこの都の悲劇の遠因の一つは、先代のネス伯の行いにあったとも言える。


 to foto zemnozo cu? va zemgava ci tuz.jod mig ers co:fe.(死を望むか? 私はお前を殺せる。それはとても容易い)


 アルデアは体中から冷や汗を流しているのだろう。

 顔のあたりがひきつり、おかしな具合に全身が震えている。

 ここは自分の出る幕ではないな、と醒めた目でモルグズは思った。


 to foto ned zemnozo.tom so:lo ers ned ci+tso foy.gow....vam so:lo ers ci+tso....(お前は死を望まぬか。お前の生は苦痛ではないようだ。だが……私の生は苦痛である……)


 それから死の女神の僧侶は、笑った。

 いままで見たこともない、純粋で、無邪気で、そしてこの上なくおぞましい笑顔だった。


 mavi:r! zemreys fozuwa aln ci+tsopo! zemreys fozuwa aln metsfigpo! hahahahahahahahaha!(見よ、死者はあらゆる苦痛から解放された! あらゆる物事から解放された! ははははははははははははは!)


 ノーヴァルデアは、笑いながら泣いていた。

 いっそのこと、このままホスにでも憑かれたほうが彼女は、救われるのかもしれない。

 それとも、と思う。

 彼女を殺すのは簡単だ。

 たぶん、向こうも抵抗しないだろう。

 かつてリアメスの安旅籠でそうしたように。

 このまま首を剣で跳ね飛ばせば、きっと楽になれるはずだ。


 eto....morguz? wob nafato cu?(お前……モルグズ、なに考えているの?)


 スファーナの言葉を聞いて、モルグズは笑った。

 他にどうしろというのだ。


 wob kap nafato cu?(お前もなに考えているんだ?)


 to eto ra:cus cu?(私たち、仲間でしょ?)


 つい舌打ちが漏れた。

 なんで、こんなわけのわからない少女に声をかけてしまったのだろう。

 彼女がエグゾーンの尼僧である、ということにはたぶん、嘘はない。

 まともな人間が半アルグやゼムナリアの尼僧と同道するはずないのである。


 unfum yujuto cana:r ra:cusle val.(最初にお前が言ったんだよ、私に仲間になれって)


 実際、そのとおりだから否定はできない。

 ただ、かのスファーナという少女には、奇妙な魅力がないこともない。

 高慢になったり、すぐに怯えたりするが、かと思えばなにか悟ったようになったりとまるで猫の目のようにくるくると姿を変える。


 sxelte cod judnik era zobga cu?(この世界は地獄だって知ってた?)


 vekeva casxultse gow.....(頭では理解していた。だが……)


 ha?


 スファーナが素っ頓狂な声をあげた。

 

 vekeva casxultse? ers mxuln! unfum sekigav honef mxuln cu+cha ko:rad! nal vete fa:decpo?(頭で理解した? 変なの! そんなおかしな話し方、初めて聞いたよ。どこの田舎からきたの?)


 vegi ned fa:decpo.vegi ti+juce judnikpo.(田舎から来たんじゃねえ。別の世界から来たんだ)


 途端に、スファーナが笑いだした。


 eto zemnariares ta hos hxa:da cu? eto go+defe!(ゼムナリア信者でホス憑きなの? すっごいね、お前)


 どうしてこうなるのだ。

 相変わらず至るところで、血まみれの病人たちが呻き声を、怨嗟の声を上げ続けている。


 dermo:r re.... dermo:r re...(呪われよ……呪われよ……)


 血と死臭のしみつくこの都は、確かに地獄に相違ない。

 だが、もう地獄巡りにも慣れてきた。

 子供みたいに、ノーヴァルデアが手にしがみついてくる。

 死の女神と病の女神の尼僧、そして別世界からの殺人鬼の魂を持つ半アルグ。

 冗談にもならぬ、はたから見れば悪夢のような組み合わせだ。

 ヴァルサ、お前の魂はいまどこにいるんだ?

 俺を見て泣いているのか、呆れているのか、はたまた愛想がつきたのか。

 お前は悪いことなんてしてないから、死人の地獄には落ちていないよな。

 どこにいっても地獄なら、俺はこのふざけた世界でもう少し生きてみることにする。

 さて、次の地獄は、どっちだ?

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