10 va erav no:valdea.va erav tom mo:gd.(私はノーヴァルデアだ。私はお前の影だ)

 結局、自分はなにをしてきたのだろう。

 いいように死の女神に操られてきた。

 だが以前、彼女の言っていたことも嘘ではないと思う。

 自分は重要な神々の駒「ではない」のだ。

 確かに異世界からきた物珍しい存在ではあるが、死の女神が無数にたてている計画の一つに、たまたま利用されたのだ。

 ラクレィスも、アースラも、そしておそらくはノーヴァルデアでさえも。

 そしてまた別の神々が、あるいはユリディン寺院のような強力な存在が、それぞれ独自に活動し、互いに牽制し、あるいは妨害することでこのセルナーダの地の危うい均衡は保たれている。

 とはいえ、今回の事件はさすがに比較的、最近は穏やかだったのこの土地でも大事件となるだろう。

 まず、イシュリナシアとグルディアが、このアウトブレイクを止められるかどうかさえ、不確定なのだ。

 現代の地球よりは、交通の制限が多いという点では、この世界のほうが有利ではある。

 だが医学的知識という意味では、どうだろうか。

 一番、良い手は残酷だが感染者ごと、すべてを燃やし尽くすというものである。

 ウィルスにせよ細菌にせよ、たいていの病原体は熱に弱い。

 さすがに「流行り病で死んだ死者は火葬したほうがよい」という経験則くらいはあるだろう。

 だが、それを現実に実行できるかどうかは、また別問題だ。

 ネスの都をまるごと、焼くのは事実上、不可能である。

 そこまでの火力が得られない。

 コークスがあるため高温の炎が作りやすいのは有利だが、人体を燃やすためのエネルギーというのはかなりのものなのだ。

 だからこそ、世界中のほとんどの地域で、前近代までは土葬が中心だったのである。

 もっとも、宿主を失えばウィルスは死ぬし、細菌であったとしても活性化はしだいに抑えられる。

 それでもネスの都がかつての繁栄ぶりを取り戻すには、数十年という時間が必要だろう。

 まるで「死人の地獄」とやらをそのまま地上に出現させたような光景を見ながら、モルグスは思った。

 もはや感覚が麻痺して、罪の意識すら感じない。

 わざわざ魔の森アスヴィンを踏破し、グルディアまで向かい、邪神を解放した挙句、ネスの都を疫病で壊滅させた。

 だからなんだというのだ?

 結局、また殺しただけだ。

 人を殺すくらいしか、自分には能はないのだろうか。

 ゼムナリアに復讐する、というのは不可能だろう。

 相手はあまりにも強大な神だ。

 ネルサティアの神々の主神であるソラリスすら一度は打ち倒した、最悪な女神だ。

 彼女は死を司るがゆえに、多くのものの死を求めている。

 その行動原理は単純であり、自然界の法則そのものが人格化したようなものだ。

 モルグスはひどく疲れていた。


 wob ers cu?(なによ)


 スファーナが、不満げに言った。


 abova zemnarires ers mig rxo:bin.gow wob eto cu? eto narha? a:mofe reys zemgo.tegnum wob ers cu? reys zems.melrus ers.(ゼムナリア信者ってすごく怖いと思っていた。けどお前たちはなに? 馬鹿なの? たくさん人が死んだ。だからなに? 人は死ぬ。当たり前じゃない)


 改めて、スファーナというこのエグゾーンの尼僧の異常性に気づかされた。

 彼女はこの凄まじい光景を、まるでなんでもないことのように片付けている。


 erav egzo:nma zeresa.atmeva honefzo.(私はエグゾーンの尼僧よ。こんなの慣れてる)


 さきほどとは、ひどく態度が違う。

 少し可笑しくなった。

 あれほどこちらに怯えていたのに、今度は説教してくる。

 スファーナの言葉に気を取られていたせいか、近づいてくる足音をきちんと聞き取れなかった。

 あわてて振り向いて剣の切っ先を向けると、病人の血で服のあちこちを汚した若い女性の姿があった。


 aldea.....(アルデア……)


 モルグズは呆然と、ノーヴァルデアの姉妹の姿を見た。

 アルデアの顔に、驚きと、続いて怒りの色が浮かんでいく。


 morgus.wente cu?(モルグズ、お前がやったのか?)


 なにを、とは彼女は聞かなかった。

 言わずとも、お互いにわかっている。


 varsa ega: choygxasce.vekava tom koksazo.now....wente to:g!(ヴァルサは気の毒だった。お前の気持ちはわかる。でも……これはやり過ぎだっ!)


 我ながら不思議なほどモルグズは冷静だった。


 ers kodk cu? yowete cu? aboto zemnon reysma patca wob era cu?(復讐か? 満足したか? 何人死んだと思っているんだ?)


 santu:r.(黙れ)


 ふいに、ノーヴァルデアが言った。

 アルデアはモルグズのことしか頭になかったらしい。

 自分と酷似した少女の顔を見て、その美貌が驚愕に引き歪んだ。


 nap eto cu?(お前は誰だ?)


 va erav no:valdea.va erav tom mo:gd.(私はノーヴァルデアだ。私はお前の影だ)


 明らかに、アルデアはあっけにとられているようだった。


 arke? yuridus?(幻影? 魔術?)


 va erav ned.vam kads ers tom kads.vo erv dewingxafsa.(私はそうではない。私の父はお前の父だ。我々は双子である)


 よほどの衝撃だったらしく、アルデアはその場から動けないようだった。


 va cuchava sav kadsuma la:ka meg.to sekito zev jodzo.(私は父の愛について話そう。お前はそれを聞かねばならない)

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