9 to zezgoto judnikma aln du:lamsuzo cu?(お前たち、世界の不幸を全部、背負っているつもり?)
改めて、周囲の地上に現出した地獄の如き光景を見渡してみる。
これが、俺のやったことだ。
愚かにも死の女神に操られ、調子にのって復讐者を気取った果てが、このざまだ。
せめて、ラクレィスやアースラがいれば。
それとも彼らは、この光景を見て満足するのだろうか。
ユリディンの牙にあっさりと殺された二人の魂は、いまどこにあるのだろう。
アースラは、ひょっとしたら笑うかもしれない。
だがラクレィスは、違う感想を持つ気がした。
俺たちは殺しすぎた。
もう戻れない、と思っていた。
そんなことはなかったのだ。
あのとき、まだ後戻りは出来たのだ。
また自然と笑い声が自然と漏れた。
自分の愚かしさに腹がたつというより、呆れる。
何度、過ちを繰り返せば気がすむのだ。
また街の人々の声が呪詛のそれに聞こえたが、これでは呪われて当然だ。
kads yujugu.dermogo re.(父は言った。呪われていると)
ふいにノーヴァルデアが、アルデアを見つめて言った。
kads menxes val.vis lakas tuz.gow vim la:ka yatmigi.(父は私に謝った。私はお前を愛している。だが私の愛は間違っていたと)
死の女神に仕える尼僧の突然の言葉に、モルグズは一瞬、耳を疑った。
citsos lakas resazo.jod erig kadsuma la:ka ko:rad.va lakeva re.mig lakeva re kadsule.gow....(愛する相手を苦しめる。それが父の愛し方だった。私は愛された。とても父に愛された。でも……)
ノーヴァルデアの目から、透明な涙が次々に溢れ出した。
その涙までもが、血の色に見えた。
wam va evag cu? wam aldea ega: ned cu? vomova eti:r.wam va evag cu?(なぜ私だったのだ? なぜアルデアではなかったのだ? 教えてくれ。なぜ私だったのだ?)
ネス伯爵家の闇のあまりの深さに、また慄然とさせられる。
いまから十数年前、ネス伯爵家に二人の双子の娘が生まれた。
一人は、アルデアと名づけられた。
だが、もう一人は?
ネス周辺では、双子がもともと生まれやすいという。
地球では地域により双子を忌み嫌うところもあるが、ここでは別にそんなことはないようだ。
だが当時のネス伯爵のなかで、なにか歪んだ、おぞましい感情が動いた。
これはまったくの想像だが、たぶんその出産の際に、ネス伯の妻、つまりノーヴァルデアの母は死んだのではないだろうか。
現代日本と違い、かつては地球でも出産は常に死と隣合わせだったのだ。
むろん法力や魔術も出産のときに使ったのだろうが、決してこれらの力も万能ではないことは、モルグズもよく知っている。
妻を亡くしたネス伯の心の奥底で、なにかが、深く静かに狂い始めた。
そして彼は「ノーヴァルデアを最初から存在しなかったことにした」のだ。
自分一人で、歪んだ愛を育むために。
ノーヴァルデアの存在は極秘とされたが、伯爵一人で赤ん坊の世話が出来たとは思えない。
おそらく伯爵家のなかでも口の固い侍女や使用人たちが、養育係として選ばれ、あの牢獄で彼女は育てられた。
それからある程度、育ったノーヴァルデアを、伯爵は独自のやり方で「愛し始めた」のだろう。
この世界の住人がおかしい、というわけではない。
地球でももっと異常なことをした者はいくらでもいる。
いまだに欧米では、ときおり父親、場合によっては両親に監禁され、救出される子供など珍しくもないのだ。
そしてノーヴァルデアという、異形の魂を持つ存在が生まれた。
十歳児ていどが成長が止まり、ひたすらに死の女神を信奉する少女。
彼女は父に愛されていたと主張するが、それは決して間違ってはいないのだろう。
しかし彼女の父の愛し方そのものが、すでに間違いだったのだ。
ノーヴァルデアにはなんの非もない。
そしてネス伯も自分の行為の罪深さを認識していたとしか思えないのである。
少なくとも、地球にいたころの自分よりは、まだネス伯のほうがまともだ。
あの頃のモルグズは、己の行為を罪だとも思っていなかったのだから。
dermo:r re...dermo:r re...(呪われよ……呪われよ……)
街の人々の声はもう完全に呪詛の声にしか聞こえない。
だが、モルグズは知っていた。
悪かったな。
今更、いくら俺を呪っても無駄だよ。
なんといっても、この俺はこの世界に来る前から、とうの昔に呪われているんだからな。
ノーヴァルデアをそっと抱きしめた。
彼女は唇を噛み締め、震えていた。
大人になりたくても、なれない子供。
女として愛されない少女。
ならばせめて、こうして抱きしめてる程度しか、自分にできることはない。
そのとき、ふいに険しい声でエグゾーンの尼僧、スファーナが言った。
to zezgoto judnikma aln du:lamsuzo cu?(お前たち、世界の不幸を全部、背負っているつもり?)
モルグズに睨みつけられると、一瞬、彼女は慌てたように見えた。
だがスミレ色の瞳に再び、鋭い輝きが宿る。
dusonvava reysuzo abos e+zezo sa:mun sulfinima u:tuma reysi cedc.ers hice edsi pelus tsal gu+zazo cedc.eto narha yagnoma yagnores cu?(私は自分を悲劇的な物語の中の人達みたいに思ってる奴は嫌いよ。弱い犬が傷を舐めあってるみたい。あんたたちは道化芝居の役者なの?)
怒りが胸の奥から沸々と湧き上がってきたが、スファーナの目を見て、心が冷えた。
事情はわからないが、彼女もまた、胸の奥底になにかを抱えていることに気づいたからだ。
vomov mavi:r,cod to:jsma reysizo.to wobfig wente cu?(見てよ、この都の人たちを。お前たちがなにかしたんでしょ?)
さきほどまで自分がやったと嘘をついていたスファーナに言われるのも癪に障るが、彼女の言っていることはまったくの真実だった。
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