12 cod ers to:js!(これが街よっ)

 むしろこのまま農村部を移動し続けるほうが良い気がする。

 とはいえ旅をするにしても今は買いたいものがいろいろとあるのも事実だ。

 たとえばヴァルサも自然に乗馬が出来るような服が必要だし、調理器具や、携行できる食事なども要る。

 金はあるのだが、物がない。

 これ以上、強盗のような真似をして敵を増やすのも面倒だ。


 alva fog to:jsusa.(私、街に行きたいの)


 おそらく何年も、あの小さな村と塔のなかでの暮らししか彼女は知らなかったのだろう。

 実をいえば、モルグズも都市部に興味がないわけではない。

 農村とはだいぶ違う世界が、そこにはあるはずだ。


 alv to:jsusa.(街にいくぞ)


 ヴァルサがはしゃいだ声をあげた。

 それからsakuranabeを急き立てるようにして、道を西へと向かった。

 ほとんど太陽と競争しているようなものだ。

 幸いにして、ファーガスの兵士たちには追いつかれなかった。

 このイシュリナシアの司法制度からして、他の領主に任せたほうが手駒を失わずに住む、とファーガスは考えたのかもしれない。

 ただイシュリナス教団は、要注意だ。

 いつしか銀の月ライカの光と茜色の陽光が混ざり始めていた。

 太陽はすでに西の果てに沈みかけている。

 その光のなかで、影のように黒々としたものが見えた。

 どうやら城壁のようだ。


 had gab era foy to:js.(あの壁は街かもしれない)


 鞍の後ろで、ヴァルサが言った。

 だとすればぎりぎり間に合う。

 さらに先に進むにつれて、街らしいものの姿がよりはっきりと見えてきた。

 城壁の高さはだいたい二十エフテ(約六メートル)くらいだろう。

 おそらくは花崗岩質の、比較的、白っぽい石を組み上げている。

 魔術やzertigaを使っていなければ、この地では石材を使う建築技術はそれなりに発達している、と考えるべきだろう。

 地球の感覚からすれば大したことではないかもしれないが、この地に慣れてきたモルグズから見ると、なかなか立派な城壁だ。

 だがyurfa、すなわちセルナーダ語には「壁」と「城壁」の区別はなく、どちらも単にgabと言われているようだった。

 門の前にはちょっとした行列が出来ている。

 地球にいた頃を思い出すが、この行列はあの現代日本のような生ぬるい世界とは違う。

 その証拠に、ここの領主の兵と思しき連中は槍を片手に血走った目をしていた。

 数は五人だが、この街の門が一つだけとは限らない。

 ここの領主はファーガスよりも大きな領地を持っているのだろう。

 そもそも中世ヨーロッパでは都市は領主の支配する農村と違い、それなりの自治が行われていた気がする。

 だがここは中世ヨーロッパではない。

 外見がちょっとは似ていても、本質的には異世界なのだ。

 領主はこの街も、周辺の領地も所有しているのだろう。


 morguz.vomova nantu:r tom gardozeros ers kiliko.(モルグズ。あなたの守護神がkilikoのふりをして)


 ヴァルサのささやき声に訊ね返した。


 wob ers kiliko cu?(キリコってなんだ?)


 kiliko ers kilnoma zeros.(キリコは戦の神よ)


 よくわからないが、この状況でヴァルサが無駄なことを言うとは思えない。

 しばらくすると、この街の衛視らしい男に誰何された。


 wob eto cu? wob eto gardozeros?(お前らはなんだ? お前の守護神は?)


 どうも、守護神の名を聞くのはここでは常識らしい。


 vim gardores ers kiliko.(俺の守護神はキリコだ)


 それを聞いて、衛視は納得したようだった。

 あるいは、傭兵かなにかと思われたのかもしれない。

 口元に巻いた布を少し気にしていたが、それ以上の反応はなかった。


 vam gardores ers yuridin.(私の守護神はユリディンよ)


 しばらく衛視はこちらを眺めていたが、やがてため息をついた。

 懐から金貨を出したヴァルサが相手に手渡す。


 mende era ned.fayu:r.(問題ない。入れ)


 そう言われて、モルグズたちはsakurnabeとともに城門をくぐった。

 賄賂は、この世界でも有効なようだ。

 驚かされたのは、街のあちこちに、自然の光とは思えない、不自然な照明が見られたことである。

 魔術による明かり、としか思えなかった。

 それほど大きな街のようには見えないが、やはり都市と農村ではいろいろと格差があるらしい。

 満月に近いライカ、銀の月に照らされた路地を人々が歩いていた。

 これもあまり農村では見られない光景だ。


 cod ers to:js!(これが街よっ)


 心なしか、ヴァルサの声は浮かれていた。

 建物は三階、四階建てくらいのものが多いが、木造で漆喰を使ったものが大半を占める。

 石造りの建築は少数だ。

 路地も狭く、石畳すら敷かれていない。


 vo nalle oyav ci cu?(俺たちはどこに泊まれるんだ?)


 jen nagova li jodle.(今、それを探しているの)


 vekev.(わかった)


 他になんと言えばいいのだろう。


 nalle van sxupsef ya: cu?(いい旅籠はどこだろう?)

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