11 gow maghxu:dil kempa re satle.(でも悪霊は土地に縛られるかもしれない)
時制と違い、相は動詞で示されている行為が時間的にどのような状態かを意味する。
he is running.(彼は走っている)
英語では動詞の後ろにingをつけて現在進行形を表現している。
これが「相」だ。
he runs.だと「彼は走る」という意味にしかならず、今、走っている、とはならない。
相はこのように、動詞をさらに細かく時間や状態に分けていく。
日本語の「する」と「している」も、相の違い、といえるかもしれない。
だが、セルナーダ語にはさらに細かい相が存在する。
まず、daというのがあり、これは「しだす。しはじめる」といった感じになる。
liだと「している」だ。
delは「し続けている」。
goは「し終わった」、「しきった」。
こんな感じだ。
他にもsudという「したことがある」などというのもあるが、正直、これは相なのか他の分類をすべきなのかは、地球の言語学者にでも聞いてみるしかない。
セルナーダ語では未来の相はfaになる。
nadum nav fa li jarnxe ot cu?(夜には俺たちはどうなっているんだろうな?)
モルグズはふと弱気になって言った。
アーガロスの悪霊は夜になれば力を取り戻すのだ。
果たして、逃げ切れるだろうか。
gow maghxu:dil kempa re satle.(でも悪霊は土地に縛られるかもしれない)。
モルグズの言葉にヴァルサが妙な顔をした。
wob yujuto cu? vekav ci ned ye:nizo.sat kempa maghxu:dilzo cu?(なに言ってるの? 意味がわからない。土地が悪霊を束縛する?)
地縛霊、のような概念はこの世界にはないのだろうか。
もっとも地球でも地縛霊が実在するかは疑わしいものだが。
言い方がまずかったのかもしれない。
satという単語は、大地、土地などの他に「土」も意味するのだ。
英語のearthにも似ているが、英語であればsoilなど土を意味する単語が別に存在する。
あるいは単に、土という言葉も自分がまだ知らないだけかもしれないが。
pe+sxe kempa hxu:dilzo cu?(場所は悪霊を束縛するのか?)
日本語では「するのか」を「しないのか」という表現は一般的だが、セルナーダ語ではそのまま「場所は悪霊を束縛するか」となる。
もし日本語的な言い回しをしていれば、言葉の意味はまったく反対になっていたはずだ。
ある程度、慣れてきたとはいえ用法、言い回しの壁はいまだに大きい。
ヴァルサがため息をついた。
susve veka ye:nizo.gow sxalva ned hxu:dil hxada pe+sxele.(ようやく意味がわかった。でも私は場所に悪霊が憑くのか知らないの)
モルグズも納得がいった。
いままで意味が通じなかったのは、悪霊が場所に縛られる、と日本語では言うところをセルナーダ語では「悪霊が場所に憑く」と表現したからだ。
つまり、使う動詞を間違えていたのである。
まだまだ言葉の勉強が足りないが、とにかく覚えていくしかない。
そろそろ陽光が赤らみ始めていた。
もうずいぶんと西の果てに太陽が近づきつつある。
その瞬間、とんでもないことに気づいた。
さきほど、太陽は「進行方向の右手にあった」のだ。
太陽は南の空を移動する。
だとすれば「太陽は南の空を左手から右手に動かなければおかしい」ということになる。
右手から左手に移動した場合「西の空から昇った太陽が東に沈む」という奇怪なことになってしまう。
それでいいのだで済まされる問題ではない。
sols fovamas nad hxatspo cu?(太陽はどの方角から昇るんだ?)
馬鹿馬鹿しい問いだとはわかっている。
それでも訊ねずにはいられなかった。
ヴァルサが呆れた顔で答える。
melrum ers fiksupo.(もちろん東からよ)
東はfiks.
西はdu:sxu.
北はnort.
南はso:lis.
いままでそう覚えていたが、これは間違っている可能性がある。
そもそも「方角とはなにか」という定義から必要になりそうだ。
地球の常識では太陽は東から昇る。
これは地球が逆時計回りに自転しているからで、もし時計回りであれば「太陽は西から昇る」ことになる。
太陽系の惑星はすべて逆時計周りに太陽のまわりを回る、つまり公転している。
自転の向きも同じである。
ただ一つの例外、金星を除いては。
なぜ金星だけが自転の向きが逆なのかは現在でも謎のままだ。
だがもしこの惑星が金星と同じような自転をしているのであれば、事情は違ってくる。
太陽は「西」から昇る。
しかし、どうにも生理的にそれが受け入れがたいのだ。
太陽は「東」から昇るはずだ、という前の世界での思い込みが残っている。
新たに方角について定義しなおすことにした。
太陽が昇ってくる方向が「東」だ。
では「北の空を太陽が移動する」のはどう解釈すればいいのか。
そこで、ようやく自分の愚かさを悟った。
地球でも、北の空に太陽が移動することはあるのだ。
「南半球であれば」むしろそれが自然なのである。
さらにいえば、地球の自転や公転の向きも、よくよく考えると反時計回りに動く、とは言い切れない。
それは天の北極から見た場合なのだ。
逆に「天の南極」から見れば、地球は時計周りに自転、公転していることになる。
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