65-7 栞のバレンタイン

 

 決戦前全夜、全ての準備は終わった……私は勝利を確信していた。


 それはそれで置いといて……後5分で14日、バレンタインは私が一番にお兄ちゃんにあげないといけない、これだけは毎年の恒例、私の使命。


 コンペはコンペ、それはそれ……。

 他にあげてはいけないという決まりは無い。


 私はウォーミングアップの終わった選手が身体を冷やさない様にする為のベンチコートを部屋で脱いだ……。


 そして鏡を見て再度自分の姿を確認した。

「よし! 完璧!」

 頭には大きなリボンを乗せ、裸……はさすがにお兄ちゃんが引くかもと、白いおろしたての下着を来て、身体中にリボンを纏っている。


「さあお兄ちゃん……私を食べて」

 私は部屋でクルクルと回転をして舞を踊った。

 身体のリボンがヒラヒラと、まるで新体操のリボンの様に私の回転に合わせ弧を描く。


 指にはラップを巻き溶かしたチョコを塗ってある。そして、唇にも……。

 身体中に塗りたかったけど、それはさすがに引くだろうと思い一部にとどめた……。

 シミュレーションもバッチリ、私は部屋に入りお兄ちゃんに抱き付いて言う「うふふふ、お兄ちゃん私の色々な所にチョコが塗ってあるから……さ、が、し、て」って。


「あん、だめですお兄ちゃんそんな所には……塗って無いているでもお兄ちゃんが舐めたいなら、えへへ、えへへへへへへ、えへへへへへへへ………………は! いけないトリップしている間に時間が!」

 3分程過ぎた……私は慌てて大きめのビニールの手袋を装着した。

 だってドアノブとかにチョコが付いちゃうから。

 お兄ちゃんのお腹が痛くなったら大変、衛生管理はしっかりとね。

 私はそのままそっと部屋を出る。時間は0時5分。


 ちょっと遅れたけど大丈夫……私はそっと廊下を歩き、驚かす為に一度お兄ちゃんの部屋の前で深呼吸してから、もしかしたら寝てるかもと様子を見る為にそっと扉を開いた。


 ドアの隙間からお兄ちゃんの部屋を覗く……明かりは付いている。そしてお兄ちゃんは机に向かっていた。


 勉強中? とりあえずお兄ちゃんは起きている。そして私に気付いていない、さらには背中を向けている。


「ふふふ、完璧……」

 私はそっと扉を開けてお兄ちゃんの部屋に突入……しようとしたその時、お兄ちゃんの声が聞こえた。


「うん……甘いよ」


「美味しい?」


「美味しい……」


「じゃあ次はこっち、これはホワイトチョコだよお兄ちゃま」


「……うん、こっちの方が好きかな」


「お兄ちゃまくすぐったい」


 ……え? 美月……ちゃん?

 部屋からお兄ちゃんと美月ちゃんの声が……でも美月ちゃんはどこに?

 私は中腰の状態で中を伺っていたので目線を変えるべくそっと立ち上がりと。



「おおおおおお、お兄ちゃん! みみみみ、美月ちゃん!! な、何をしてるの!!」



 お兄ちゃんの影に隠れていた美月ちゃんの姿が目に映った。


 美月ちゃんは机に腰掛け、そして椅子に座るお兄ちゃんに向かって自分の指を……舐めさせていた。


「し! 栞! な、なんて格好を!」


「これはお兄ちゃんって、そんな事よりもお兄ちゃん! な、何で美月ちゃんの指を!」


「いやて美月がバレンタインのチョコを作っていたら、手に一杯付いてもったいないって言うから……」


「そうなのお姉ちゃま、勿体無いお化けが出るでしょ?」


「お化けは貴女よ美月ちゃん! お兄ちゃん小学生の指を舐めるとか、どれだけ変態なの?」


「え? いや、でもほら、子供の口元に付いた食べかすとか、親は食べるじゃない? それと同じ」


「同じ……な、わけ無い!」


「お姉ちゃま? 美月の事よりも……そのお姉ちゃまの姿の方がよっぽど変態さんだと思うけど?」


「え?」


「下着姿で身体中にリボンを纏って、頭には大きな赤いリボン……手には手袋、そして口の周りに……ピンクの何か塊の様な……それはチョコ?」


「ひう!」


「美月は料理中でちょっと失敗しただけっていう大義名分があるから大丈夫だけど、お姉ちゃま、お姉ちゃまはその姿で、何をしようとしていたの?」

 

「そ、それは……」


「その手袋は何?」


「こ、これは……その……」


「お姉ちゃま……ほらお兄ちゃまが引いてる」


 私は美月ちゃんからお兄ちゃんに目線を移し……お兄ちゃんを見ると……お兄ちゃんは……ドン引きしていた。


「ち、違う……えっと、これは……」

 何か言い訳を、っていうか……言い訳は無いんだけど……そのままなんだけど……。


「で、でも私は未遂なんだから! お兄ちゃん! それははたから見たら完全にアウトだよ!」


「え? あ……」


「お兄ちゃま、まだこっちにも一杯付いてるから、後ほら美月のほっぺたにも、勿体泣いお化けが出ちゃうから、はーーやーーくーーたーーべーーてーー」

 そう言って美月ちゃんはお兄ちゃんにすり寄って行く。


「み、美月ちゃん! だ、駄目……食べ物で遊んじゃ駄目」


「お姉ちゃまに言われたくないよーーーーだ」


「も、もう……ずるい! お兄ちゃん! 最初のチョコは毎年私からなのに!」

 私は持っていたチョコを一つ口の中に放り込むと、唇を尖らせお兄ちゃんに突撃した。


「お兄ちゃん~~~~」


「うわわわわわわわわ……」


「お姉ちゃま! それは販促、違った反則!!」

 お兄ちゃんに抱きつくも美月ちゃんに阻止され、口移しでのバレンタインは阻止された。

 でもとりあえず勿体ないお化けが出るので、私の指等についているチョコは、この後スタッフ(お兄ちゃん)に美味しく頂いてもらいました。

 まあ、美月ちゃんにもやったんだからいいでしょ!?


 ……今年は美月ちゃんに先を越された……ちくしょう……こうなったらコンペは絶対に勝って……必ずや旅行先でプレゼントを……私を……お兄ちゃんに捧げなければ……。


 私の気が済まない!! さあ、勝負よ!

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