65-2 栞のバレンタイン

 

 ずっと思いを隠していた……。


 お兄ちゃんが好き……いつからか覚えていないけど……ずっと好きだった。


 でも、それはいけない事だって……だからずっと隠して生きてきた。


 でも、その中でもお兄ちゃんの誕生日とバレンタインだけは別……妹でも感謝の気持ちという名の愛を送ってもいい日。


 そして! 今はもうこの思いを隠さなくてもいい……お兄ちゃんは私を、私の思いを、愛を……受け入れてくれた。


 だからこそ、今回は感謝の気持ちでは無い愛を、私の思いを込めてバレンタインでお兄ちゃんに贈り物をする、しなければいけなかったのに!


 私バカバカ、こんな大事な記念日を忘れるなんて……。


 大手を振ってお兄ちゃんに愛の贈り物を捧げられる。


 でも……何を贈れば良いのか、私自身を贈るのは確定的なんだけど、もっと形に残る物を記念になる物を贈りたい、贈りたかった。


 色々あった年末年始、そして遂にお兄ちゃんが私の愛を受け入れてくれた……そんな安心感からか、お兄ちゃんへの贈り物を全く考えていなかった……。


 だから、今回はサプライズよりもお兄ちゃんの欲しい物を贈る。


 そう決め、私はさっそく朝からお兄ちゃんの今欲しい物を探る事にした……が……。



 ◈ ◈ ◈ ◈



「ねえ……お兄ちゃん……お味噌汁濃くない?」


「大丈夫いつも通り美味しいよ」


「そっか……えへへへ」

 朝ごはん、お兄ちゃんはパンよりもご飯派、お母さん達が転勤になってからは私が毎日作っている……ああ、もうこれって恋人通り越して夫婦の様だよね、もう私とお兄ちゃんは夫婦って事で……良いよね……あなた、ご飯一緒に食べる? それともお風呂に一緒に入る? それとも一緒にピーーー(検閲)する? えへへへへへへへ。


「おねえちゃま……また朝から異世界に……」

 は! そうだった……今は美月ちゃんがいるんだった……。


 食欲旺盛の美月ちゃん、小さくて可愛い口にご飯を運ぶ姿はまるで小動物が餌をついばる様で可愛い……最近はなんだかもう、私とお兄ちゃんの子供って感覚になってきた……私とお兄ちゃんの……子供……えへ、えへへへへへへへ……。


 今、正面にはお兄ちゃん、右隣には美月ちゃんが座っている。


 そして……。


「本当……庶民の食べ物って……下品よねえ」

 そして……何故か左隣には……西園寺 茜……。


「ねえダーリンこんな安い物よりも私とホテルの朝食に行かない? なんなら私のお部屋に運ばせて」


「えっと……いや、大丈夫……」


 そうよ!お兄ちゃんは私の作るご飯が大好きなんだから……大好き……私の事も? えへ、えへへへへへへ……おっと今はそれ所じゃない、さすがにそろそろ言わなくては!


「っていうか! なんで毎日貴女がここにいるんですか!?」

 なんか普通に座って自分で持参した紅茶と高級そうなサンドイッチを頬張る西園寺茜さんに私は突っ込む。


「あら、お隣同士仲良くしましょうって言ったのは貴女でしょ?」


「嫌みを本気にしないで下さい! どこから侵入してくるの? 毎朝毎朝鍵をちゃんとかけてるのに……」


「まあまあ、貴女のショボい朝ごはんにはお世話にならない様にちゃんと自分の分は持参しているから、お構い無く」

 そう言って茜さんはニッコリ笑ってサンドイッチを上品そうに頬張る。


「当たり前です! そもそも初日は執事さんも連れて来るとか、バカですか?」


「だって自分でお茶をカップに注ぐとか、そんな下品な事した事なかったものですから」

 そう、引っ越して来た翌日茜さんは年配の執事を引き連れ家に侵入、食卓で一緒に朝食を食べるという暴挙に出た。さすがに全く知らない人を家に入れるのはどうだろうとなり、今は一人紅茶と朝食持参し一緒に食べている……ってそれもどうなの?


「約束通り一人で来てるのだから、構わないでしょ?」


「そんな約束してません!」


「こわーーーい、ダーリン助けてええ」


「いや……えっと……」

 茜さんにそう言われるも、何も言わない……相変わらずお兄ちゃんは女の子に甘い……お兄ちゃん唯一の欠点……女子にはトコトン甘く怒れない……。


「ふぐううう……み、みつきちゃん~~~~」

 お兄ちゃんは頼りにならない……私は遂に美月ちゃんに助けを求めた。


「そうね……お兄ちゃまが言えないなら美月から言うしかないね、茜さん、貴女がしている事は刑法第130条、正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。に該当します」


 某有名ソフト宜しく美月ちゃんは茜さんを指差しながらスラスラと流れる様にそう言った! さすが美月ちゃん、イケイケ!!


「あら、可愛らしい弁護士さんねえ、でも一番の部外者さんは貴女ですわよ


「な、なんで美月が部外者なの! 美月家族だもん!」


「いとこですわよね、ただの」


「そ、そうだけど……貴女よりは家族だもん!」


「今この家は親御さんがおりません、なので家の責任者は家長であるダーリンです。私はダーリンの婚約者なので貴女以上……いいえ、栞さんよりもダーリンと近しい関係と言って過言ではありませんね」


「か、過言って、なんで貴女がお兄ちゃまの婚約者なのよ! お兄ちゃまは認めていない!」


「まあ、それは置いておいて、とにかくダーリンが出ていけと言わない限り不法侵入は成立しませんわ」


「う、うぐうううう、お、お兄ちゃまあああああ」


「いや、まあ、茜も独り暮らし始めたばかりだし、朝くらいはいいんじゃないかなあ……」

 お兄ちゃんがそう言うと、それを聞いた茜さんは私と美月ちゃんそれぞれに向かって凄惨な顔でニヤリ笑った……ううううう、ムカつく


 それにしても……み、美月ちゃんが言い負けるなんて。


 西園寺茜……この娘だけは負けたくない、お兄ちゃんは絶対に渡さない。


 私はそう心に誓った。



 








 

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