53-4 生徒会長選挙

 

 とぼとぼと家に向かって歩きながら俺は考えていた。

 一体どうすればいいのか……


 会長は恐らくやりたいんだろう、でも昔の自分が枷になっている。


 今度は本来の、本当の自分を選んで欲しい、今の自分を選んでくれれば、皆に認められればとそう思っている……


 今の会長は凄く可愛い、自分を偽っていた前の会長よりも全然いい。


 まあ……あの突っ張っていた会長も嫌いじゃなかったけどね。


 王家の血を引くお姫様として帰ってきた会長、多分普通なら間違いなく当選するだろう、妹カフェでもそれなりの人気はあった。


「相手が栞じゃ無かったらな……」

 俺の意志ははっきりしている……生徒会長は今の会長に引き続きやって貰いたい、妹にはやらせたくない。


 妹に能力が無いからじゃない、多分会長よりも出来るだろう……


「でも……」

 妹が会長になれば必然的に俺も生徒会に入る事に……それは嫌だ……


 生徒会には興味がない、この間のイベントで臨時に駆り出されるのはまあいいが、それが常に続くとなると……当然全校生徒の前に立つ様な事も出てくるだろう、俺は人前に出るのはあまり好きじゃない……


 そして妹が全校生徒の前で俺と立ったら…………


「絶対……交際宣言とかしそう……」

 ヤバい、それは、それだけは避けなければ……


「ただ……俺個人の事で会長が次もやらないってのは……駄目だ」

 俺は家の前に着くと顔を上げ、部屋かリビングに居ると思われる妹の事を想像する。


「やるしか……な」


「お兄ちゃんお帰り!」


「うぎゃあああああああああ!」

 俺が家を見ていると突然玄関の扉が開き妹が俺を出迎えるって……


「ん? 何でびっくりしてるのお兄ちゃん?」


「いや、何で俺が帰ってきたって分かるんだ?」

 うちには監視カメラなんて無いぞ!


「ん? 匂いかな?」


「犬かよ……」

 どんな嗅覚だ……


「ほらお兄ちゃん早く入って、お茶の準備出来てるよ」


「ああ、うん……」

 後はこれだ、この妹とのお茶の時間が俺は大好きなんだ、家で二人ゆっくりと出来るこの時間を俺は失いたくない、ならば……


 俺は着替えてリビングに行く、妹は俺の着替えるタイミング迄分かってるかの様に丁度淹れたてのコーヒーが目の前に……いや……もう何も言うまい。


「お兄ちゃん、今日はケーキを焼いたの~~」


「へーーー美味しそう」

 コーヒーの横にチーズケーキが置かれている。


 俺はソファーに座るとコーヒーを一飲みし、ケーキを一口、甘さの中にほんのりとレモンの酸味と香りが口に広がる。


「うん美味しい」


「良かった~~~初めて作ったの~~麻紗美ちゃんに簡単だよって教えて貰ったの」


「へーーー」


 俺が食べるのを見て妹も一口食べると俺を見てニッコリと笑う。



「うん、美味しい」


「栞はもう少し甘い方が良いんじゃないのか?」


「ううん、丁度いいよ、お兄ちゃんが美味しいなら私も美味しい」


「そうですか」

 相変わらず妹の愛が重い……


「それでお兄ちゃん、会長さんは何だって?」


「ああ、うん……えっとね、出ても良いって」


「へーーー凄いねお兄ちゃん、説得出来たんだ」


「ああ、うん説得も何も無いんだけど」


「それで条件は何だって? 当然何か条件を出してきたんでしょ? お兄ちゃんが副会長になれって?」


「いや、そんな事じゃ無いんだけどね」


「へーーてっきりそれが条件かと思ったのに、じゃあ私出馬しなくてもいいのかな?」


「え?」


「お兄ちゃんが副会長になるのが条件なら、私が会長になって阻止するから」


「ああ、うん……それなんだ」


「え?」


「それが条件なんだ」


「それって?」


「栞が会長選挙に出馬するのが条件だって」


「私が? 何で?」


「多分栞と勝負したいんだろうな、ちゃんと勝って、皆に認めて貰いたいって事なんだろう」


「ふーーーーん、そうやってお兄ちゃんの気を……」


「え?」


「お兄ちゃんラノベの主人公だね、まあ聞こえなかったらいいよ、そうか……うーーーーん」


「栞が嫌なら無理に出なくていいよ」


「そうしたら会長さん出ないんでしょ?」


「まあ、うん……そうなんだけど、それでも交渉は続けるよ」


「お兄ちゃんは会長さんに次も生徒会長になって欲しいんだ?」


「うん、そうだな」


「そう……分かった出るよ」


「え!」


「ただし私も条件がある、それを会長さんが飲んでくれるなら」


「条件? 会長に?」


「うん、会長さんが勝ったら……私とお兄ちゃんは生徒会に入らない」


「俺と栞が?」


「あとお兄ちゃんにも条件、私が勝ったらお兄ちゃんが副会長になること」


「ああ、うん……それは」

 ダブルベットと交際宣言は阻止しないと、副会長なら必ず近くにいるんだから阻止出来る……はず


「それなら出るよ、私に損は無いから」


「そうか……分かった、そう伝えるよ」


「お兄ちゃんと戦うのは嫌だけど、私とお兄ちゃんの学園、愛の園化計画の為には仕方がない、やっぱり恋愛にはハードルがあった方が燃えるもんね!」


 いや……俺と妹の最大のハードルは兄妹って事なんだけどな……


 生徒会長を挟み俺と妹が戦う事になった。


 全く勝てる気がしねえ……


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