21 3人の告白
3人はホテルの大浴場に来ていた、まだプールやビーチに人がいる時間だった上に、このホテルの部屋風呂は綺麗で大きい為に貸し切り状態だった。
「わあ、あんまり大きくないけど空いてるー」
栞がタオル巻いて先に入ってきた。
「わーだれもぉいないー」
「おー綺麗じゃないか」
後から二人が入ってくる。
「麻紗美ちゃんやっぱり大きい、うう、あ!、美智瑠ちゃん、そっちも銀色なのね」
「み!みるな!!」
何も隠していない美智瑠に、とんでもないことを言って栞は掛け湯をしに行く。
「はあー気持ちいい」
三人並んでお風呂に浸かっている。
温泉じゃないのが残念だなと栞が思っていると、いつもおっとりしている麻紗美が、すこしテンション高めな上に、真剣な口調で話し出した。
「あのねぇ栞ちゃん、私ねぇ前からずっと聞きたかったぁ事があったのぉ」
「えっ、何?」
そのいつもと違う雰囲気に栞は若干の驚きと緊張が走る。
その二人の様子に気がついたのか、美智瑠が二人を見つめている。
「栞ちゃんて、お兄ちゃん、ゆうくんの事好きなのぉ?」
「うん、好きだよ、大好き」
即答したその言葉を聞いた瞬間、美智瑠の顔が驚きに変わった
しかし麻紗美はまったく表情を変えずに話しを続ける。
「それってぇ、兄妹としてぇ?それとも……」
「私は兄妹愛では無いと思っているよ、一人の男性としてお兄ちゃ、兄の事が好きよ」
かぶせ気味で栞は麻紗美に向かって、真剣な顔で答える。
美智瑠はさらに驚愕な顔になっている。
「やっぱりぃそうだったんだぁ、ずっと聞きたかったんだぁ」
「うん」
「あのねぇ、せっかくの旅行だしぃ、この後の事を考えるとぉやっぱりぃ、はっきり言っときたいんだぁ、私もぉ……、栞ちゃん聞いてくれるぅ」
麻紗美は飄々とした顔でしかし、じっと栞の目を真剣に見つめて告白した。
「……私もぉ、ゆうの事が好きぃ、好きなの」
目を見ながら、裕の事が好きと告白されるが、栞はそれを、その先を黙って聞いていた。
「私ねぇ小学校から、このしゃべりが原因でぇ、ずっと孤独だった、みんなはぁ、私の事をぉ、とろいとかぁ、のろまだとか言ってぇ、私の事を避けていたのぉ、そんなみんなを見てぇ、私は自分の殻にぃ閉じこもっていたのぉ、寂しかったぁ、辛かった」
「……でもゆうがぁ、私を救ってくれた……、優しくぅ、焦らずにぃ、ゆっくりとぉ私の殻を破ってぇ、くれたのぉ……」
「ゆうはぁ私の命の恩人……、もうこんな自分が嫌いで、……嫌いでぇ死にたくなっていたぁ、私を救ってくれたぁ恩人……」
栞は、自分を救ってくれた、自分の恩人の彼が好きと告白する彼女に対して、ただじっと目を見つめているだけだった。
すると、二人の横で聞いていた、美智瑠が突如湯船から立ち上がり二人に宣言し始める。
「ちょっと、ちょっと待ってくれ!、僕!僕だってゆうが好きだ!!、ゆうは僕のこの容姿で、ずっと偏見にさらされていた僕を救ってくれた人だ!、僕はゆうがいたから、いてくれたから今がある!、僕だって、僕だってゆうが、ゆうの事が……」
栞はそんな二人を見て、微笑ながら、風呂の縁に腰掛ける。
「知ってたよ、二人がお兄ちゃんの事好きなの、そんなはっきり言わなくても分かってるって」
そう言って、栞は少しさびしい顔になり、二人に話し始める。
「二人はお兄ちゃんの事が好きになった理由があるんだね、ちょっと羨ましいな……、私ね、なんでお兄ちゃんが好きになったか分からないの……、気が付いたら好きになってたの、でも小さい頃、これは兄妹愛なんだ、家族愛なんだって思ってた……」
「だから私ずっとお兄ちゃんを見てた、大好きなお兄ちゃんを見続けていたの、そうしたら、お兄ちゃんて凄いの、素敵なの、二人は分かってると思うけど、お兄ちゃんは気が付いていないけど、私は知っていた、昔から知っていた……」
栞は上を向き、過去を思い出すように、ゆっくりと話す。
「どんどん好きになっていった、やっぱりこれは兄妹愛、家族愛なんかじゃない、好きで好きで好きで好きで、耐えられないくらい好きになった、お兄ちゃんがいなかったら生きていけないくらいに……」
「私はお兄ちゃんを見続けて、凄いお兄ちゃんにふさわしくなりたくて、お兄ちゃんを見習ったの……、私ね、友達多いでしょ?でもそれもお兄ちゃんを見習って、そうなっただけ……」
「え?、でもゆうはぁあんまり友達は……」
初めて麻紗美の表情が変わり、少し困惑した顔になる。
「……それはね、お兄ちゃんが優しすぎるからだよ、他人の邪魔はしたくない、他人に自分の事に気を使って欲しくないって考えなのかな?、まあ、お兄ちゃんて、めんどくさがりだからそれもあるんだけど、やっぱり見ず知らずの人に声をかけるって、それなりにリスクってあるじゃない?、だからいつも押し殺しているの、でも本当にその人が、助けてほしいって感じたら、お兄ちゃんは誰にでも踏み込んでいく、自分を省みないの」
「それって凄いって、私それに気付いた時に、また好きになっちゃった……、でも……それが好きになった理由じゃないの、私のお兄ちゃんの好きは積み重ねなの……」
「でもね、最近思ったんだ、好きになった理由が無いって凄いんだよ、だって絶対に嫌いにならないんだから、優しいから好きになった、じゃあ優しくなくなったら?、カッコいいから好きになった、じゃあカッコよくなくなったら?、助けてくれたから好きになった、じゃあ次、助けてもらえなかったら?、私はお兄ちゃんを好きになった理由はないの、だから嫌いになる理由も存在しない……」
そう言って栞は二人を見つめた。
「ず、ずるいぞ、それは君の考えだ!僕だって、積み重ねは無いけど深さは、深さは負けない!!」
「私も、たとえぇ次救ってもらえなくてもぉ、ゆうを嫌いにぃなんてならない」
二人は栞に向かって、そう言った。
「え!」
「え?」
二人は驚きと、戸惑いの声を発した。
その言葉を発した瞬間、栞の左目から一粒の涙がこぼれ落ちたから……
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