6-2これってハーレム展開の序章?


 重い足取りで教室に戻り、恐る恐る妹の方を見ると、友達に囲まれて普通におしゃべりしていた。


 ホッとしながら席に着くと同時に予鈴がなりそれぞれ席に戻っていく。


 しかし今度は違和感を感じた、んーーーーなんだこの違和感?

 その原因が分からず考えているうちに授業が始まる。


 授業中もその違和感は変わらず、気になっていたが判明しない

 半分諦め授業に集中していった。


 午後の授業も終わり放課後、帰るかと席を立ち妹を見ると、あいも変わらず囲まれておしゃべりをしている。


 麻紗美と一応残念東出に挨拶をして教室を出ようとした直前再度妹をチラリと見たとき、昼休み終わりから感じた違和感の原因がわかった。


 妹が俺を見ない、目線が来ない。


 ちょっと止まって見たが、こちらに気が付かないかの如く見ない。

 何時もなら、チラチラ感じる妹の視線、中学時代からちょくちょく感じているのですぐに分かる視線を、午後の授業中一度も感じずに今もこちらを見ない。


 同じクラスになった時から常に感じている安心感とも取れる妹の視線

 それが全く無くなっていた。


 暫く妹を見ていたが自分の後ろに人が来たので諦め教室の外に出る。


 教室の中から聞こえて来る話し声、楽しそうな妹の声も混じって聞こえてくる。

 ん、あれなんだこの感覚、不安?、嫉妬?、怒り?良く分からない感情に捕らわれながら家路に着く


 家に入り、着替え、いつも通り妹との家デート、通称放課後ティータイムの準備をし始める


 しかし今日の感じだと帰ってくるか分からない。

 何かあるときはラインやメールが来るが今のところ来ていない。


 俺に怒って友達とお茶?カラオケ?合コン?までありえる?

 なんて想像をしていると


 がチャリと玄関の鍵が開く音が聞こえ同時に


「ただいまー」と妹の声が響く、俺の中でほっとしている自分がいた。


 リビングの扉が開き妹が入ってくる。


「お兄ちゃんただいまー、あ、お菓子用意してくれたんだ?ありがとーー今着替えてからお茶いれるね」


 と、二階に上がって行く。


 あれ?普通だ


 違和感は気のせい? 目線も考え過ぎ?。


 席替えであれだけ泣き、美智瑠と話しただけで闇落ちする妹が

 今日あれだけ見て普通の態度?


 でも、あれ? ひょっとして、俺って自意識過剰?

「栞って俺が思ってるほど俺の事好きじゃない?」


 つい口から出た言葉に胸がチクリとした。

 それとも愛想をつかされたか、嫌われた?

 俺はこの状況に鬱々しはじめた。


 いつもより時間をかけ、2階から妹が降りてくる。

 ピンクのVネックのセーターにミニスカート、素足に可愛いスリッパを履き、髪はポニーテールにまとめている。


 家のなかでは少々派手というか、可愛い格好をした妹は、ここ最近の通り

 コーヒーを入れすっかり覚えた俺の好みの量の砂糖を入れ出してくれる。


 自分のコーヒーも用意し俺の隣に座り、いつも通り学校の友達の話しや授業、本や面白い漫画があるとか、色々な雑談を嬉しそうに話してくれる。


 しかし気が付く、やはり妹は俺を見ない、いや見てはいるコーヒーの量やお菓子、俺の手や体、髪や果ては顔


 しかし目線が合わない、目を見ていない、見てくれない。


 なんでだ、どうして見ないんだ、妹の目をじっと見つめるが

 正面を向いたり、おれの首の辺りを見たりコーヒーを見たりはするが目線は合わない。


 ついに我慢できなくなって妹に聞く


「栞あのさーー、なんでさっきから俺の目を見てくれないんだ?」


 言った途端に妹と目線が合う


 すると、その目からボロボロと涙が溢れ始める。


「あ、あ、あ、あ」

 妹が小刻みに声を発する



「え、え、えーーー?」


 俺が声をあげると同時に


「だってええええ、だってえええええええ」と、妹が泣きだす。


「びえええええええええええええん」


 俺は子供の様に泣く妹におろおろするばかりで、どうしようもできなくなっていた。


「うええええええええええ、うええええええええん」

 妹は一向に泣き止む気配が無い


 オロオロしていた俺は仕方ないと妹を抱き締める……

 しかしは妹泣き止まない


 抱えた手で頭を撫で何とか落ち着かせようと試みる


 サラサラとし妹の髪の感触に理性を奪われそうになるのを抑え、ゆっくり解かすように撫でる。


 次第に泣く勢いが衰えて来る。


「ひっくひっく、おにいちゃああああん」

 泣きつつも言葉が発せられるとこまで落ち付き始めた所で


「ごべんなざああああい」


 妹は泣きながら謝り始める。


「どうして謝るの?」


 抱き締めていた妹を一旦放し、頭を撫でながら問いかける。


「ぐすっぐすっ、だっでええ、だっでええお兄ちゃんを無視しちゃったわだじいお兄ちゃんを無視しちゃっでだああ」


「無視なんてしてないよ、大丈夫だよ」


「ごめんなさあああい」


 恐らく意識して見ないようにしていたんだろう、その罪悪感、更にそれを俺が指摘してしまった為に泣き始めてしまったのか


 我慢強く妹が泣き止むのを待つ


 妹は落ち着き始め、ようやく今日の自分の気持ちを語り始める。


「お兄ちゃんがね、麻紗美ちゃんとお菓子食べて、美智瑠ちゃんに、ご飯を誘われて、生徒会長さんに頭を触られてるのを見てね」


「あ、いや違うあれは」


「ううん、やっぱりお兄ちゃんは凄いなって思ったの」


「へっ」


「周りの人も、誰も、ううん、お兄ちゃん自身も、お兄ちゃんの魅力に気がついていなかったの……」


「わかってたのは私だけ、私だけのお兄ちゃんだったの……」

 

 俺は黙って妹の話を聞く


「でもそのうち分かっちゃうんだろうなって……、大人になればみんなお兄ちゃんの魅力に気が付くんだろうなって」


「今日その事が現実になってね私、嬉しかったの……、やっぱりお兄ちゃんは凄いって……」

「でも同時に寂しかった、もう私だけのお兄ちゃんじゃないって……」


 妹は決心したような顔をして更に語り始める。


「そしてね、私は悪い子なの……お兄ちゃんの優しさを利用したの…………、お兄ちゃんに付き合ってって言ってOKしてもらえたら、お兄ちゃんは私だけを見てくれる、裏切らない、他の人の好意をはねのけてくれる」


「そう思って覚悟を決めて告白したの……、そして今日お兄ちゃんはみんなの好意をはねのけてた、嬉しかったと同時に悲しかった……」


「私は、私のエゴでお兄ちゃんを束縛して、私の言葉で封印しているって気が付いちゃったの」


「お兄ちゃんに目を見られたら、そんな私の醜い心を見られちゃう気がして、……だから、お兄ちゃんをお兄ちゃんの目を避けてた、お兄ちゃんを無視した」


「こんな素敵な人が、こんな醜い子と付き合ってて良いのか、それがお兄ちゃんの為になるのかって今日ずっと、ううん付き合ってもらえるようになってから無意識に考えてた……」


「私は弱い子、お兄ちゃんがいないと生きていけ行けない、……でもそれはお兄ちゃんの為にならない……、お兄ちゃんが幸せになれない……、お兄ちゃんが幸せになれなければ私も幸せになれない!」


「だから、私は強くなるって決めた!、お兄ちゃんの幸せの為に努力するって決めた!、お兄ちゃんにちゃんと振り向いて、私を見てもらえる、魅力的な女の子になるって決めた!!」


「だから、お兄ちゃん、お願いがあります!!」





 妹は俺を見つめ、俺の目を見てまたボロボロ泣きながら言った。





「……お兄ちゃん、私と……別れてください!」



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