29話 テスト結果!結果の出ない過程は意味はないと社会は言います!

 はろー!琴音です!今日は花金!いつぞやも言ったとは思いますが、多くの方にとっては待ちに待った金曜日!明日からは土日が待ってるということで一番やる気になる日ではないでしょうか。まぁ前世の私の職場は土日祝日お盆年末年始休み全てありませんし関係ありませんでしたが、今生ではまだ学生なのでちゃんと普通の金曜日です!本当学校てホワイト企業!嬉しくて泣きそうっ……!


 あ、金曜日は勿論素晴らしいと思うのですが、私が学生時代で一番好きだったのは木曜日だったりします。何故か?それは後一日出れば土日だからです!金曜日は終われば目の前に土日があるので勿論ワクワクドキドキなんですけれで、なんだろう。金土日ってあっという間じゃないですか。なのでその一日前だと、餌を目の前でぶらぶらされて焦らされている感じがしてたまらないんですよね。あと、一週間の終わりの折り返しを過ぎたってことで嬉しくなっちゃいます。


 え?それは私だけだって?嘘だよね?絶対いるよね?なんなら水曜日が好きでもいいからさ、私だけ疎外しないで!私変な子じゃないですよ?ね?ね?


「今日テスト返されるんだっけ?」


 もはや定位置となった私の席の前に居座る真。こいつには他に行くところがないのかね。まぁいつでもこうして構ってくれるっていうのは前世から変わらないし助けられることもあったけどさ……それに救われたこともあったからそこまで邪険にできないんだよね。


 まっ!邪険にはしないけどいじってやろうとは思ってるよ!へいへいへーい!


「そうだよ。真はどうよ~?自信の程はよ~」

「んあ?あー、まぁぼちぼち?」

「とか言いつつ90以上は余裕ってことですよね?」

「ものによる。大方は取れてると思うんだけどな。前の答え合わせの際には大分しっかりと自己採点できたからな」

「自信家ですなぁ」

「そういうお前の方が自信あるだろ。採点かなりしっかりしてたし。ていうか先生みたいだった。100点取れてるんじゃね?自己採点でも満点だったろ?」

「自信、自信ねぇ。そりゃ勉強分くらいは自信あるけど。100点は言い過ぎじゃない?あくまで自己採点だし」

「まぁ……そうだけど」


 真は表情では余裕ぶっているが、普段のお調子者感がない辺りかなりそわそわしているのだろう。昔からそうなんだよね。本当に気にしてない時はやたらうるさいし。特に顔が。


「琴ちゃんなら100点取れそうだよね!私もそう思うよ!」


 私を癒すボイスが隣からしてくる。そちらに目を向けてみればやはりそこにはみーちゃんがいた。みーちゃんはぽわわーんとした雰囲気を漂わせながら私の机の右側を陣取った。更にそこに追従するように澪ちゃんが左側を占拠した。気付いたら私は囲まれている。これ逃げるコマンド使っても「敵にまわりこまれた!」て表記が出て逃げられないやつだよね。逃げるつもりないけど。


「そうだよね!この前の答え合わせもすっごいわかりやすかったし!川田さんなら大丈夫だよぉ」


 みーちゃんを援護するように澪ちゃんもヘニャッとした笑顔で言ってきた。小動物みたいである。ていうか澪ちゃん。私のこと親しみを込めて琴ちゃんでいいんだよ?そんな名字読みなんてちょっと他人行儀ではないかね?みーちゃんのこと美鈴ちゃんて呼んでるんだし私も頼むよ~。


「そんなことないよ。たまたま、たまたま。ケアレスミスしてる可能性も否めないしね」

「ケアレスミスって何?」

「あぁー、凡ミスっていうか……書き間違っちゃったとかみたいなしょうもないミスのことだよ」

「あぁ~なるほどぉ。川田さん物知りだね~」

「さ、さいですか?」


 澪ちゃんは結構おっとり系なので喋り方までのんびりしてる。まぁそこが癒される子でもあるんだけどね。ついでに澪ちゃんってイラスト描く子なのよね。前世ではそれで少し仲が良かったっけ。みーちゃんとは別のベクトルでいい子で、規則とかしっかりと守る子。それでいて人当たりもよくて男子女子関係なく笑顔でお話できる子。だけどそれが原因で八方美人だとか、ぶりっ子だとかでちょっとイジメられてたりしてたっけ。普通にいい子なだけなんだけど、ちょっと押しが弱い子だからねぇ。そこが目を付けられていくでない女子にイジメられちゃうんだよね。あ、いくでないって良くないって意味ね。


 まぁ私がいるからにはそんなことにはさせないけどね!私は仲間は大切にする子ですから!イジメダメ絶対!それでイジメてた子が日の当たる道を堂々と歩いてるって最高に胸糞なので絶対に許しません!お姉ちゃん警察が目を光らせてるので覚悟しとけよ!


「あー、おはよう。これからホームルーム始めるぞ。おら、さっさと席につけ」


 4人で雑談をしているとこがらし先生が入ってくる。相変わらずガラの悪い先生だ。だけど中身は凄い生徒思いな先生って私知ってるんだからね!いよっ!ツンデレ麗人先生!


「むっ……今何か深いな電波を感じたな……気のせいか。おい、日直仕事だ」


 おや、どうやら私の思いが凩先生に届いてしまったようだ。危ない危ない。


「起立、礼。おはようございます」

『おはよーございます』


 日直の号令に合わせ挨拶をし、先生にバトンタッチされる。今日の予定とかをつらつらと言っていく。私は社会人の時の癖というか、それらをすかさずメモ帳にメモしていく。


 前世での学校生活ではそんなこと一切しないで、ほーん、みたいな感じで聞き流していたけど、今思えばこれって社会に出てからのための訓練なんだよね。実際社会に出てからやることっていうのは、割と学校でやってきたことと変わらなかったりするんだよね。


 部活動にしろ委員会にしろ、普段のホームルームにしろ。全てにおいて基本は同じ。だが、はたしてそれに気付いて過ごしている生徒というのは一体どれほどいるのだろうか?恐らく実際の中学生でそこまで考えて気付いている生徒っていうのは9.5割いないと思う。寧ろいたら凄い。その子社会に出たら相当な大物になるよね。


 今日はそんなにイベントごとはないようで、ホームルームはすぐに終わってしまった。しかし、うちの学校は特殊?で、ホームルーム後に読書タイムなるものがある。15分程なんだけれど、自分の好きな本を読みなさいって時間。勿論マンガは論外なんだけれど、小説だったり参考書だったり、辞典も読んでよいのだけれど……流石に辞典読む人なんていな……いたわ一人。一応目的としては読書をすることで集中力と識字率を高めようみたいなもの。だから読むのなら『ためになる』本でなければいけないのだ。


 しかしそんな読書タイムにも抜け道はある。ライトノベルなんて本当は読んではいけないのだが、この時間先生はクラス内を徘徊するわけではない。つまり本にカバーさえつけてしまえば問題ないのである。それで神妙な顔をしながら読んでいれば普通に読書してるようにしか見えないからね。


 だけどこれにも問題点があって、クスッとくるようなコメディー系の小説を読んでしまうと凄い顔をすることになるので、笑えるものは推奨されない。笑いを堪えるって大変やで。


 因みに私は普通に小説を読むよ。前世ではもっと本読めば良かったなぁとか後悔することがあったからね。なので普段の時間では読まないような本をこの時間を利用して読む。


 今読んでいるのは心理学についてのエッセイだね。理由はまぁよくあることなんだけれど、感情のコントロールが難しいからそのヒントを得ようという安易なものだ。ついでに人とコミュニケーションをとる時にもっと円滑にできるように勉強したいってのもある。尤も内容が難しくて、ちょっと本選び失敗したかなぁなんて思ってるんだけどね……。買っちゃったからには取りあえず読むけど。


 難しいけれど、内容的には結構面白いので時間を忘れてしまう。気付けばあっと言う間に15分など過ぎてしまい、次の授業の予鈴が鳴ってしまう。うぅ、今日もあまり進まなかった。


 凩先生は早々に教室から出ていき、ほぼほぼ入れ替わりで数学の教師丹藤先生が入ってくる。丹藤先生も結構ユニークな先生で、結構人気があった。見た目は正に教師って感じの男性で、授業の進め方もそう。ただ何が面白いって喋り方が凄い独特なのよね。更に真顔でシレッと面白いことを言ってきたりするなど、ギャップ?ギャップが凄いのよ。


 キンコーンカーンコーン――……。


「よーっし、じゃ、授業始めるはんでぇ。と、言ってもぉ、今日はぁテスト返しでぇ、答え合わせするだけだけどもぉ」


 丹藤先生は眼鏡をクイッと上げると口を開いてその独特の喋りを披露した。勿論真顔である。


 そうそうこれだよ。この平坦な喋りに語尾を伸ばす感じ。こいつぁたまらねぇっす。なんか数学してる感じあるよね。まだなんもやってないけど。私にとって数学の先生と言ったら丹藤先生ってイメージが染みつけられちゃってるからね。


「だば、出席順に渡してくはんでぇ。まんず、一番。荒井」

「あ、はい」


 さてついに始まりました、ドキドキ☆わくわく!テスト返し♪であります!こちらなんと以前受けたテストを返却してもらうだけのイベントでございます!勉強した子は楽しみでわくわく!勉強しなかった子はどれくらい酷い点数で来るかドキドキ!わんちゃんいい点数取ってんじゃね?となんの根拠もなく楽観して現実逃避をするのです!ちな前世では後者の方でドキドキしてましたっ!照れるね!


「新井ぃ……何点だと思う?」


 丹藤先生は真にテスト用紙を渡す前に真顔でそんなことを言った。その聞かれ方をすると悪い点数だったのではと邪推してしまう。真顔だし(2回目)。もし私があんな風に聞かれてしまったのなら顔面蒼白だよね。今までの努力1週間少々はなんだったのかと真剣に考えちゃうと思う。


 案の定真も同様らしく表情が暗くなる。


「えと……80ぐらい、ですかね」


 わお、それでも高く見積もりましたね真君。私だったら60ぐらいって答えるわ。あ、でも前世の私ならね。今生の私はニュージェネレーション琴音なので最低でも90と答えてやるわ!90が高い?私からすれば100点取る気満々だったので、100点じゃなかったら全てがあびゃーだわ。


「……」


 丹藤先生は真顔の無言で真の言葉に首を振る。うわぁ……てことはそれより下?でもそんなはずはないと思う。前の自己採点は私が監督したのだ。それを見る限り90は取れている。それ以下ってことはないだろう。まぁ真が問題用紙に書いた答えをちょろまかしていたなら知らんけど、真はその辺しっかりしてるやつだからそれはないね。


 て、ことはだ。


 おそらくあれは丹藤先生の質の悪い茶目っ気というやつだろう。実際ブラックジョークというか、そーゆーの好きな先生だったからなぁ。


 あれ?竹野内先生と言いなんか黒いぞ教師たち。


「残念でしたぁ。正解は……ほれ」


 丹藤先生は途端ににやりと笑顔を作り真にテストを渡した。


 真は恐る恐るそのテストを受け取ると、さっきまでの不安そうな表情はどこへやら、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「荒井結構頑張ったなぁ。ちょっと細かいミスが目立ったけどもぉ、努力したのがわがった。これがらもぉ頑張ってください」

「はい!ありがとーございます!」


 そうそう、丹藤先生はこーゆーありがたいお言葉をくれるんだよね。飴が嬉しす。真もホクホクで自分の席に戻っていった。あの感じだと90以上は取れてるだろうなぁ。やっぱあいつぁすげぇや。自分の力でしっかりと頑張れるんだもん。私とは大違いだよね。そーゆーとこは前世から尊敬してる。


「次、飯田智也ぁ」

「ういっす」


 次に呼ばれたのは、飯田君かぁ。前世でも今生でも絡みがないのであまり良く知らない。知ってるのは陽キャってやつで体操部。地元の体操の強豪高校からスカウトを受けるくらいには上手い。ただ、チャラいというかガキっぽい?ので近寄りがたい……。前世では普通に住む世界が違うなぁと思って付き合いがなかったんだけれど、今生ではなんか……うーん、うまく言葉にできないんだけど近寄りがたい。


「飯田は何点だと思う」

「俺っすかぁ?100点じゃないっすかね!」

「バカたれぇ。全然そんな点数取れでません。飯田はもっと勉強した方がぁいいんでない」

「うわぁ!35点だぁ!マジかぁ!」


 わーお。


 流石陽キャ。こーゆー時もテンション高いっすね。


 そんなこんなで、次々とテストは返却されていった。絶対に大丈夫。あれだけ見直しもしたし、自己採点でも満点だった。どんなに酷くても90以内で……いや!弱気はダメだ!私は100点を取る女よ!理想の姉を目指す者ならばテストで良い点数を取るのは必須!そしてどうせ良い点数を取るのなら目指せ100点だ!


 だけどね。順番がこうして近付いてくるごとに胸が苦しくなると言いますか……ハッ!もしかして、これが!恋っ!?私もしかしてテストに恋をしてるのねっ!だからこんなにも胸が苦しいのよ!まさかこの私が恋をすることなんて思ってもみませんでしたよ!しかもお相手は数学のテスト用紙ってすっごいハードル高そう!今生の初恋は無機物です!


「次ぃ~。川田ぁ~」

「あ、ハイ」


 危ない危ない。


 あまりにも緊張しすぎてトリップしてた……。一体私は何を考えていたんだ。それすらも覚えてないよ。きっと突拍子もない変なことを考えてたに違いない。


 私は少し重い足を前に進め、遂に丹藤先生の前についてしまった。相変わらず真顔だよ……。この人ポーカーフェイス上手すぎるんだよなぁ。


「川田はぁ……何点だと思う?」


 う、来たよぉ……。何点って……そりゃー「100点っス!」て言いたいんだけれど、もし90点台だったらと思うと言えない……。いや、90点台ならまだいい。80とかだったらもう切腹です。人生リセットボタンを所望します。


「えぇ……と、ひ、きゅ、90点……ぐらい……ですかね?」


 どうだ!どうだってばよ!


 丹藤先生は私の言葉に未だ無表情だ。その沈黙が怖いよ!


 数秒固まった後、丹藤先生は苦虫を嚙み潰したような酷い表情を浮かべため息を吐いた。それを見た瞬間私は血の気が引いていくのがわかった。


 うっそぉん……そんなため息吐くほど酷かったの?あんなに偉そうにみーちゃんに教えてたのに、私の頭はくるくるぱーでした?あは、あははっはははっ。もぅマジムリ……。


「残念……川田の点数はぁ……」


 殺すなら一想いにやれっ!許しは請わぬ!慈悲も要らぬ!さぁ!!


「満点でしたぁ!」

「ほぇ?」


 丹藤先生が笑顔で私にテスト用紙を手渡してきた。それを受け取って点数を見てみれば……見事に100と大きく書かれていた。


「よく頑張ったなぁ。因みにぃ、満点取ったの川田一人だけでしたぁ。皆さんもぉ満点取れるよぉ、頑張ってくんださい」


 ぱちぱちぱち。


 どこからともなく拍手が上がった。そしてそれにつられるようにみんなが拍手してくれた。嬉しいけれどぉ……なんだろう恥ずかしいぃ。


 私は顔を赤くしながら自分の席に戻った。


 すると隣の席にいる誠治声をかけてきた。


「琴音すげぇな。俺なんて80だったんだけど」

「そ、そうかなぁ。それなりに勉強したからだよ。誠治も頑張れば簡単に取れるよ!」

「今度俺にも勉強教えてくれ。美鈴には教えてたんだろ?」

「ん、いいよ」

「おう頼むわ」


 私は誠治と口約束をする。ぶっちゃけそれどころではないのだ。満点取る気でいたし大丈夫だとは思っていたけど、こうして本当に満点をとれたということが嬉しくてしょうがない。今までテストで満点取ったことなんてなかったからね。だからこそ、ちゃんと勉強すれば結果はついてくるんだということがわかり、もうね、感無量です。


 十で神童十五で才子二十過ぎればただの人。私はこれに有頂天になってはいけない。あくまで私は凡人だ。本当の才子とは真とかのことを言う。うかうかとしていればあっと言う間に私など置いてけぼりにされるだろう。


 私は浮かれてしまいそうな気持を落ち着ける。多少は朝に読んでいる心理学本が役立っているようだ。


 ここが最後じゃない。ここからがスタートなんだ。私のお姉ちゃん街道は今ここでようやくスタートラインになったのだ。


 これからも頑張ってかなきゃね。


 それから次々とテストは返されていき、すべての解答用紙がかえって来た。


 みんな落ち込んだり嬉しがってたりと様々だ。真もいつものお調子者に戻ってるし、みーちゃんも結果がついて来たようでニコニコとしている。


 因みに私は全て満点でした。




 川田琴音――特殊なTSをした元青年の物語はこれより始まる。


 幸先のいいスタートを切れた琴音はこれから理想の姉を目指せるのだろうか。それともどこかでやる気がなくなりなぁなぁになるのだろうか。


 それは誰にもわからない。


 ただわかるのは彼女は今やる気に満ち溢れているということだ。いい意味でも、悪い意味でも……。

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