karma16 ヴィーゴVSレオネルズ
攻撃的な水色の野鳥は、縦横無尽にヴィーゴの侵攻をかろうじて防いでいた。しかし、ヴィーゴも無人戦闘機に手を焼くほどヤワではない。現に機体は海へ墜落し、完全に水没するまで数分も持たないだろう。
現状、無人戦闘機だけではヴィーゴの侵入を止めるのは厳しいと言わざるを得なかった。想定の範囲内である。問題は、それまでにヴィーゴを止めるに相応しい者たちが、陸地上空までに対処にあたれるかだ。
戦闘機の飛行音やヴィーゴのブースターに、互いの銃声。それらとは別種の音が、混線する空域に乱入した。
ヴィーゴの青い砲撃の前に躍り出た黒い翼を持つ機体は、片翼で自身を覆い隠した。
まともに食らった黒い機体。衝突による手応えは無論機体に
それと同時に、ヴィーゴが撃ち出した光撃は、意図しない挙動を見せた。機体は青い砲撃を受け止めた翼を
考えもしなかったレーザーの軌道は、意表を突くに充分だった。
どんよりした空間を一閃する速度で駆け抜け、異端の者を撃ち砕いた。落雷の一瞬ほどの時の間、厚い雲は青く染まった。
誰も知ることのない未知の現象。青い雲が観測されたのは、わずか刹那の時。自身の攻撃を利用され、撃ち抜かれたヴィーゴは上半身の片側を失くしたまま、なす術もなく落下していく。
無念としか言えない。ただ、この結果が主の意志の糧となるのなら本望であった。願いの軌跡を夢に描き、ヴィーゴは海に呑まれた。
赤と青。火花は花開き、散りゆく。
海に浸かる間もなく、火花は消え失せる。
ヴィーゴたちは軽やかに空中を飛び回り、無人戦闘機の弾丸をかわす。
1体のヴィーゴが急降下すると、1機の無人戦闘機もその後を追っていく。ヴィーゴは顎を引いて足を軽く畳んだ。ヴィーゴは直角に飛行方向を変え、海と水平になって逃げ続ける。
無人戦闘機も綺麗な曲線を描いてヴィーゴを追い立てる。その時、ヴィーゴが急に体をひねって振り返り、猛スピードで無人戦闘機に向かっていった。
無人戦闘機が激しくバランスを崩す。機体上面にヴィーゴが覆い被さっていた。
機体は過度の重量負荷を感知し、回転を始める。
飛行しながら回転する機体にしがみつくヴィーゴ。しがみついて耐えているのはヴィーゴだけではない。ヴィーゴの背、空気抵抗で潰れそうになっているミミクリーズは、体から小さな触手を出す。無人戦闘機にできた傷口を広げ、先端が針になった触手を侵入させる。
それを見ていたレオネルズは照準を合わせる。しかしその手に銃はない。あるとすれば、ギラギラした羽くらいなものだ。羽の端がヴィーゴに向けられ、赤く灯る。
ブンと鈍い音を鳴らして、赤い光は三日月の弧を描いて飛ばされた。
ヴィーゴは無人戦闘機を離し、間一髪でかわす。無人戦闘機はいとも簡単に斬られる。赤い斬撃は海に引き込まれ、海面が大きく乱れる。
「あーあ、また言われるな」
レオネルズのネタル隊長代理は隣の筒にいる男に通信をつなぎ、冗談めかして言う。
「操られるもんを作る方が悪い」
無愛想なカン隊員の口調にネタル隊長代理は、微笑を浮かべて肩をすくめる。
斬撃を向けられたヴィーゴは、棒をネタルに向けて光弾を放った。カン隊員は楽勝に避けられると思った。が、ヴィーゴの尻尾の先が前へ向き、花びらのような硬質のものが回転する。
真っすぐ飛んでいた光弾は突然曲がり、カン隊員に横からえぐるように
すると、ジャマイカ基地のレオネルズ遠隔操作室にいるカン隊員と同じく、レオネルズ機体が腕を交差した。
跳ね返すには時間を要する。間に合わず、レオネルズ機体は上体をのけ反る。
ヴィーゴは一気に距離を詰め、レオネルズ機体を何度も殴り出す。そのたびにゴーグルをつけたカン隊員の視界が小さく振動し、映像処理に遅延が生じ始める。
「クソッ!」
カン隊員は強引に振り払った。
ヴィーゴは一度後ろに引き、翼をかわすと、レオネルズ機体に構わずジャマイカへ向かい出した。
ジャマイカへ向かい出したヴィーゴを他のレオネルズが注意を向ける。赤い斬撃を飛ばすが、ヴィーゴの複雑なアクロバット飛行を捉えられない。
「なめやがって!」
カン隊員は悪態をつき、ヴィーゴを追いかける。
ヴィーゴの飛行速度も伊達ではない。たとえ追いつけたとしても、追いついた頃にはジャマイカへ入られていると容易に推測できた。
最短距離でジャマイカへ飛ばすヴィーゴは斬撃の雨をもろともせず、最高速度で走らせる。
あと数秒もあれば、最優先事項は達成できる。そんな思考がよぎった時だった。
急にヴィーゴが減速する。腹を押さえるヴィーゴは蛇行し出した。
1体のレオネルズが、真っ先に侵入しようとしていたヴィーゴに片手をかざしている。出現していたヴィーゴを囲う緑の薄い半球が、なんらかの影響を及ぼしているのだろう。
ヴィーゴはどうにか飛行姿勢を保っているが、限界はとうに近い。ヴィーゴは絞り出すような声を出した。傾けられた顔の向きから察するに、背後のミミクリーズに語りかけているように見えた。
ミミクリーズはうんともすんとも言わなかったが、ヴィーゴの背に掴まるために伸ばしていた触手を体に引っ込め、転がるように海へ落ちた。
ヴィーゴも口から血を垂らしながらゆらゆらと飛び、海面へ突っ込んだ。
ヴィーゴを覆っていた薄い緑の半球は消えていく。わずかにへこんでいた海面が平常を取り戻すと、薄い緑の半球があった場所の海面でいくつか小さな波が起き、互いにぶつかり合う。
「借りができたな! カン」
カン隊員は苦々しく鼻を鳴らす。
「だべってる暇があるなら手伝えよ」
ネタル隊長代理はギスギスした空気すら楽しんでいるかのように微笑を浮かべ、軽く注意する。
「はーい」
クラン隊員は素直に受け止め、残りのヴィーゴの駆除に向かう。
ゴーグルを通して見える視界はまるで現地にいるかのように感じられる。
レオネルズ機体がヴィーゴの光弾を避ける動作の流れで逆さまになれば、遠隔室にいる隊員の体も回転し、逆さまになっている。筒の中で浮いたまま縦横360度回っても、誰も動じず任務を続ける。
隊員の中にはとても楽しそうにする者も少なくなかった。命の危険がなく、また成果次第では給料も弾む。こんなうまい話があるのかと、これを知った者は度肝を抜かれる。
レオネルズへの入隊を希望する者は多くあれど、隊員になれるまでの課題は当然存在する。
人によっては筒の中に長時間密閉されることに耐えられない者もいる。
また、浮き上がった状態で体勢を保てなければお話にならない。レオネルズに入ったならば、必ず装置に入って操作訓練を行うわけだが、体を左右上下に振り回され、気持ち悪くなってダウンしてしまう新人の姿は、毎年おなじみの光景だった。
レオネルズとヴィーゴによる空中戦は、雲の形すら変えてしまうほど激しくなっていた。だが、そこで戦っている者には手に取るようにわかってしまう。自分たちの戦況がどうなっているのかを。
海に落ちていく亡骸の数は、時間を追うごとに増えていく。人が浮かんでいるようにも見えるが、海に溶け出す緑の血が異形であると示す。
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