karma7 さざ波を受け取る力

 氷見野たちがいる場所にブリーチャーたちが集結しているとしらせがあり、各隊員が向かおうとしていた。だが志部同様、ブリーチャーたちの進行妨害に遭っている最中だった。


 ブリーチャーたちとの乱闘戦はウォーリアである隊員に任され、特殊機動隊と初動防戦部隊に警備と保護が割り振られた。

 長い時間の避難になると、待ちきれない住民がシェルターの外に出てきてしまうことがある。

 様子を見にという口実により、不用心にシェルターの外に出た住民が被害に遭うことも少なくない。たとえシェルターにテレビや携帯があったとしても、外の様子が気になって仕方がない。欲望のままにシェルターの扉を開ければ、退屈なシェルターから抜け出せる。


 どこかで刺激と安寧を望んだ人々は、いつも被害の的になってしまった。人は経験を積んで学んでいくと言うが、経験を積まなければ学ばないとも言える。これも人のさがと言えようか。

 だからこそ、人のいない街で常に警備をしている隊員がいる。そうしたきめ細やかな警備があり、人的被害の数を減らせていた。

 旧態のブリーチャーだけならまだよかったが、ヴィーゴと球体の頭の生物までおり、ますます状況は厳しくなる一方であった。


「隊長、こりゃちょっとヤバいっすね~」


 両端に刃を備える双端剣デュアルヘッドソードを手にした生物。通称メガモーターソルジャー。高くそびえ立つ巨兵のように、隊員たちに立ちはだかる。


 各地に散らばったメガモーターソルジャーは、目の敵にするかのようにウォーリアの前に突如として現れた。


「対処法が分かっていれば恐れることはないわ。冷静に殲滅なさい、羽地」


 生島隊長は不気味な生物を仰ぐ。

 1体のメガモーターソルジャーを筆頭に、カリヴォラとエンプティサイ、ミミクリーズが周りを囲む。まるで騎士と騎士団長のように、隊員と対峙している。

 くぐもった衝撃音が生島隊長のARヘルメットに伝わる。羽地は長方の剣でメガモーターソルジャーの斬撃を斬った。斬られた斬撃は半分になり、衝撃波が羽地の後方へ流れる。


「テメエら! こいつらは俺たち防雷撃装甲部隊overがやる! 周辺の建物にいる民間人の移送を優先しやがれ!」


 特殊機動隊と初動防戦部隊にかけられた羽地の指示で、各隊は生物たちとの戦闘をやめて散らばっていく。


 福岡各地で防雷撃装甲部隊overが獅子奮迅の戦機となり、巨大な生物を討ち滅ぼすべく、光の槍戟そうげきを散らす。

 生島と防雷撃装甲部隊overの隊員2名は異形の騎士団長に標的を定め、軍勢をあしらい、果敢に攻める。

 瞬息しゅんそくの間も与えない。カリヴォラとエンプティサイの速度など、戦の乙女神ヴァルキリアには空気に漂う埃も同然。塵1つも破壊する。


 けたたましい光の燦爛さんらん。散った青い光が鋭く刺した。

 一撃で周囲から押し寄せる生物たちを戦闘不能にした生島は、勇ましい瞳を灯し、巨兵の騎士団長へ走り抜けていく。


 惨劇を生み出した力は際限なくここに顕現する。長い柄を振り乱し、周囲の建物を揺らす。すさまじい突風のごとく、斬撃が飛翔する。

 巨大な斬撃は肉をスライスするナイフ。生島は迫りゆく斬撃に対し、避ける素振りすら見せない。


 女王クイーンだけが戦っているわけではない。生島はそれを知っている。

 豪速を飛ばす覇王の拳。見るからにひと回り大きい機体スーツが拳を振れば、大砲を放つ。剛拳ごうけんは直線の弾道を見せ、斬撃と衝突した。

 交錯する対なるものは強烈な覇気を放出し、斬撃が崩壊した。過ぎ去る突風をもろともせず、翔ける青い戦士は、目の前の敵に不屈の意志を示し続ける。

 しかし、戦いの最中、生島には音無き声が頭の中で反響していた。


 悲痛な声に音はなくとも、心で聴こえる。

 どんなに不安か。どれだけ恐怖か。どれだけ寂しいか。そんな中でも希望を捨てず、願う声。誰かを思い、無事を祈り、信じて耐え忍んでいる。

 そんな声たちが生島の闘志を鼓舞する。

 女王クイーン昇華波しょうかはは同じウォーリアの放電量を一段階上げる。それは民間人も同じだ。


 一時的ではあるが、女王クイーン昇華波しょうかはにあてられたウォーリアの民間人は、無自覚ながら念波を発している。特殊な信号を受け取れるのは女王クイーンのみ。だがこの声の数は異常だった。

 昇華波にあてられたとして、距離や環境にも影響される不安定な電波は、女王クイーンでも簡単に聞き取れない。

 地上の民間人は基本的に放電量を抑える乱磁性ループを装着して生活している。にもかかわらず、数十という声が聞こえてくることは生島でも初めてのことだった。


 長く隊長に就く生島にも異常としか思えない。連鎖する声から意識を逸らし、肌身で感じる激戦の中に注意を向けた。

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