karma15 変色する戦いの毛色

 4人の攻電即撃部隊everは1人の青い隊員を追尾する。だが距離は縮まらない。電磁銃やライトブレードで足止めを試みるも、軽々とかわされる。銃撃の残煙ざんえんと砂埃を払うように機体スーツが道路を駆けていく。

 スピード違反をぶっちぎる彼女たちの巧みな走法で、5体の機体スーツが曲がる。


「ちくしょう。アイツはえーな!」


 狩野は苦い顔をしながら遠くの標的に恨めしく当たる。


「周り込みましょ」


 氷見野のARヘルメットのシールドモニターが検索結果を出していた。柏場の現在地と近辺のマップを抽出。そこから導き出した柏葉の目的地点を予測してくれる。


「挟み撃ちにするんですね!」


「ええ。私とメグで周り込むから、狩野君とミズは後ろから追って」


 2人は快活に返し、十字路で分かれる。



 一方、スポーツパークで桶崎たちと交戦中にあった川合雪は、微弱な力を感じ取る。左右にあるなだらかな石造りの階段。左右の階段の間には綺麗な芝生が敷かれていたが、今や焼け野原だ。

 黒炭になった芝生と灰まみれの踊り場は、石ころと枝木などが転がっている。戦闘の衝撃は石ころや枝木、はたまたサッカーコートを囲っていた柵だった1本の鉄の棒も遥か空へ舞い上げた。


 風音を耳にしながら異光速の空間で立ち止まった川合雪の目は、森林を育む敷地を通り越して遠い空へ向かっている。

 戦地で棒立ちする者を見逃すわけもない。周囲の煤けた臭いと黒い霧のような煙。それらが空中で渦になって離散した。

 川合の視線の右側で、煙幕の隙間から銃口が向けられる。


「お姉さん、よそ見してる暇ないよ」


 葛城の指がトリガーを引いた。

 光線は空間をひどく青へ染めていく。筒状の光は手応えもなく、一直線に翔ける。


「仮にも敵でありながら忠告する心意気は見上げたものだ」


 消えた川合が葛城の背後に現れる。気配すら感じ取れず、葛城は息を呑んだ。煙を切り裂く青い龍が装甲を吹き飛ばした。

 葛城は道路を転がり、森林の大木にぶつかって止まった。緑の葉が葛城の胸にはらはらと降り注ぐ。機体スーツから煙が上がり、胸から腹部にかけて亀裂が入っていた。

 機体スーツはジリジリと唸り、微弱な電気を発しているが、葛城はピクリともしなかった。


「だが、戦場は敵に忠告できるほど生易しくはないぞ少年」


 桶崎はまた1人仲間が散ったことを傍目はために知り、険しい表情になる。


 江夏と福富が相手をしていた稲坂と羽地は川合たちと合流し、手負いの桶崎を仕留めようとしていた。


「しぶといな。さすが噂のヴィーゴキラーだ」


 羽地は黒光りの平たいサーベルを振るう。桶崎が間一髪で避けた後、サーベルは地面を割る。


「でも、逃げ回ってばかりね。これじゃ本当の実力を確かめようがない」


 稲坂の左手が桶崎に照準を捉える。伸ばされた5本の指先が曲がり、手の甲で銀のノズルが液体を発射した。

 噴射された液体は勢いよく飛び出し、乱れなく真っすぐ桶崎へ向かう。伸びた白い液体に電気が流れ、固形化する。それは鋭い槍となって鉄をも貫く。


 硬い創設記念碑を容易く貫き、穴を空けた。電撃で軌道を逸らし、どうにか難を逃れたが、依然逆転の糸を手繰たぐり寄せることができない。

 訓練だというのに、負傷するかもしれない攻撃をためらいもなく放ってくる。どうかしている。この訓練で負傷しては、元も子もないだろう。


 仮にも味方同士、共に国を守る隊員のはずだ。こんなことをして、なんの意味があるというのか。桶崎は生島たちの意図を測りかね、湧き上がる疑念が蓄積していくばかり。

 敗北が脳裏をよぎる。無益な戦いをせず、本来の任務をまっとうするべきか。迷いが心の隅をつつく。

 川合は防戦一方の桶崎を一瞥いちべつするも、凛々しい瞳は再び1つの方向へ移される。


 傷だらけの屋内プールの横を通って、スポーツパークに入ってくる複数の機体スーツを確認。1体は青い機体スーツだが、他の機体スーツ攻電即撃部隊everのものだ。


 彼女が川合たちがいる場所に来ることは分かっていた。女王クイーンがいれば自身の体が応答してくれる。

 ウォーリアであり、かつ放電する機会の多いものなら備わっている能力だ。しかし敬愛する青い機体スーツ女王クイーンに比べると、いささか劣る昇華波しょうかはと言わざるを得ない。

 生島がなぜ彼女をあそこまで気にかけるのか、未だ納得がいっていなかった。

 生島に対する尊敬の念は変わらないが、気にかけるだけの素養が、氷見野優に備わっているとは思えずにいる。

 特別な何かを感じているのかもしれないと、ひとまず呑み込んで訓練に移すしかない。


「予定通り女王クイーンを誘導した」


 柏葉サリアの報告が川合のARヘルメットのスピーカーに伝達される。


「ありがとう。加勢する」


 川合雪は右手を振るう。煙のブレードが狩野たちを襲う。川合が攻撃を放つ前から視認していたため簡単に避けられたが、これで柏葉を討つのはより難しくなってしまった。


 氷見野たちがやってきたのを皮切りに、隊員たちがスポーツパークに集まってくる。

 攻電即撃部隊ever2の佐川保勇さがわやすおを倒してきた栗畑かりん。興梠に辛勝しんしょうした板茂将士いたもまさしは、西松琴海と志部冬樹をスポーツパークまで誘導に成功。防雷撃装甲部隊over1の肥田真幸ひださねゆきも羽紅を引き連れてくる。


 ここで全隊員に外野から指示が入った。


「総員戦闘停止」


 激戦の騒音がやんだ。

 透き通るはっきりとした声音こわねが、ひとたび発しただけで鎮まった。呆然ぼうぜんとしてしまう攻電即撃部隊everの隊員たち。


「両者向き合い、整列」


 防雷撃装甲部隊overはきびきびと動いていく。

 攻電即撃部隊everは、訓練が終了したのかと困惑した表情が浮かんでおり、戸惑いながらも生島に指示されるがままに駆け足で向かう。


 両者一列に並んで向き合った。

 防雷撃装甲部隊overが残り7人。攻電即撃部隊everが残り8人。

 それぞれダメージの度合いがあるが、攻電即撃部隊everに数の利がある。これで訓練が終了するなら攻電即撃部隊everに軍配が上がることになるが、9人も離脱させられて勝ったと言えるのか。純粋に勝利を喜べる内容とは言えなかった。

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