karma14 築き上げられた信頼の力

 最初に攻電即撃部隊ever防雷撃装甲部隊overが対した河川敷からすぐ近く、大きな吊り橋で光の銃弾と電撃が咲き乱れている。

 人のいない橋は多くの車があったが、戦いに巻き込まれたせいで川に落ちている。橋の上に残っている車の中には横転したり、黒煙を上げて炎を纏っていた。

 中央分離帯を跨ぎながら、紫と白の配色された機体スーツは橋の上を疾走する。目の前の仮想敵である2体の機体スーツを機能停止させればいい。氷見野たちは4人で数的有利だった。だがこの2人を止めるのに苦労していた。


 1人は防雷撃装甲部隊over7の古澤照紀ふるさわてるき。彼の主な武器はスタンダードな装備である電磁銃と電磁剣もとい、ライトブレード、そして頭上に伸びる黒い筋状のもの。2本の黒い煙が渦巻きながら真上に伸びていた。


 藍川と高杉恵はコンビネーションで古澤に挑む。立ち込める黒煙により、視界はかすんでいる。わずかな煙の隙間から目視し、橋上きょうじょうを駆ける。

 高杉が先頭を走り、藍川が後方につけている。

 古澤の頭上に立ち昇る黒煙の渦の一部が点滅した。

 藍川と高杉は厳しい表情を顔に貼りつけていたが、速度を緩めない。黒煙の渦で光った部分から、極めて小さな光が無数に放たれた。


 上から放たれた細い光の針が降り注ぐ。藍川は上体を低くし、前方下へ両手の位置を保ちながら、音速をも超える速度で移動していく。

 それでいて電磁バリアの効力を保つという荒業あらわざ。更に高杉の速度に合わせている。少しでもミスをすれば、光の雨の餌食となってしまう。無茶な次元を超えている。

 それをほぼ完璧にこなす藍川瑞恵あいかわみずえの電気操作は、攻電即撃部隊everの中でも随一であった。同期のよしみもあり、藍川と交流することが多かったからこそ、高杉は天才的な電磁感覚を持つ藍川に自分の身を預けられた。


 古澤の顔が後ろへ流れ、左目が高杉を捉える。

 左手の青い剣身が乱れ刃となり、うねりながら伸びて横薙ぎに振られた。高杉は頭を下げ、左に転がりながら避ける。

 藍川と高杉は二手に分かれた。

 古澤との距離は5メートル。右に開いた藍川に迫る危険な刃。電磁バリアはライトブレードと鋭い光の雨を同時に防げるほど強力なものではない。数分前に学び、授業料として機体スーツにダメージを受けてしまった。


 纏っていた電磁バリアを収縮させ、襲いかかってくる剣にぶつける。反動により、藍川の機体スーツが弾かれた。

 藍川の機体スーツが飛ばされる先は橋の欄干らんかん。勢いからして落下は免れない。藍川は飛ばされながら近くに転がっている車を目に留め、強力な磁力で車を引っ張った。

 引っ張られた車は藍川の機体スーツの背後にぶつかり、地面に落ちる。


 古澤はここで藍川を戦闘不能にしたいところだった。しかし高杉の武器が古澤に牙を剥こうとしていた。


 立ち昇る黒煙の渦から放たれる撃針げきしんマシンガンには死角が存在する。

 銃撃者の近くにいる敵を撃つことはできない。3メートルまで迫った高杉は、撃針マシンガンの射程から逃れていた。

 万全の体勢で攻撃できる高杉を、古澤が放っておけるわけもない。古澤の機体スーツから電撃が放たれる。


 高杉と藍川が古澤を討つと定めてから、57ものアタックを試みた。そして58回目。不屈の心と冷静な解析が実を結ぶ。

 鉄壁の攻撃に見えたわずかな穴を突く。古澤の電撃は、顔をガードするように上げた高杉の左腕に直撃した。深く腰を落とし、右足を後ろへ。右の足裏は指の付け根で地面を捉え、左足は重心軸とした。

 クラウチングスタートのような低い姿勢で電撃を受け止めるためには、上体が真っすぐになっていてはいけない。近距離で電撃による衝撃をすべて受け流すのは不可能。多少なりとも反動を受けると計算し、現状の距離を保つことを優先した。


 2秒でいい。高杉の電撃は、機体スーツの右手に内蔵された武器により、鋭さを極めて敵を貫く。それはまさに雷のごとき。雷が槍と化し、真っすぐ突かれた。

 青い光の攻撃は、綺麗な直線を空気に描いて号哭ごうこくを鳴らす。点を突いた攻撃は、電磁バリアを貫いた。古澤には避ける以外に方法がなかったが、彼女らの狙いに気づくのが少し遅かった。


 古澤の背中に装備されたスモークストームの噴気孔から、咳き込むような音が鳴っている。ふらつきながら腰を落とし、尻もちをついた古澤は、両手を上げた。


「降参、降参だ。お前らに手柄をくれてやる」


 古澤の機体スーツ攻電即撃部隊everの新人と同じくボロボロになっていた。高杉は構えを解く。藍川はゆっくり体を起こす。

 中堅に値する古澤でも2人を相手にするのは難しかった。

 敗因は藍川への警戒心の強さ。そう自己分析し、自嘲の笑みを零す。


 藍川の動きは、2人を相手にすると決めて1分もたないうちに古澤の目に留まった。

 古澤のスモークストームによる撃針マシンガンの特性を見極め、すぐに修正してきた。その判断力、迷いのない動きと抜群の身のこなし。戦闘におけるセンスはただ者じゃないと悟った。藍川さえ警戒していれば、どうとでも対処できると思っていたが、甘過ぎたようだと脱力した。


 長い吊り橋の上では、もう1つの戦闘が行われている。氷見野と狩野が相手にしていた防雷撃装甲部隊over1の柏場かしわばサリアは、古澤が戦線離脱したことに気づき、2人に背中を見せて逃げ出した。


 倒す気満々だったのに、尻尾を巻いて逃げていく柏場の行動が予想だにしなかったこともあり、2人は立ち止まってしまう。


「なんなんだ?」


 狩野は疑問を口にしながら出足を迷う。


「きっと戦略的撤退だと思う」


 氷見野は後方からブーストランを使わず走ってくる藍川と高杉に視線を送る。


「なら! 今のうちに頭数を減らしておくに越したことはねぇな。行こうぜ!」


 狩野は先に走り出した。


「ミズ、メグ、まだ戦える?」


「心配性ね。私は大丈夫よ」


「わたくしも問題ありません!」


「分かった」


 狩野に続き、氷見野たちも風を切り裂くように加速した。

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