karma9 身に備えられた力を兵器に
青い光の筋が渦巻くように乱れ合う
それに加え、板茂は他の隊員と違う特殊な電気の使い方をしていた。
板茂の頭から腰にかけ、淡い光の筋がいくつもあるように見える。
光の筋は大きさの異なる三角を形成して並び、板茂をガードするようにドーム型を作っている。つかず離れず、常に板茂の周りに
しかしその光の筋は導線であると認める。光の筋を確認できる前、興梠が特殊な電気的戦闘技巧だと感じた最初の現象は、正六角形の光だった。
光の筋よりもはっきりと視認できる正六角形は、二次元モニターで映したように存在し、筋に沿って移動している。
濃縮の青で輝く正六角形が濁った瞬間、4本の細い光が飛翔した。
興梠は正六角形の濁りを目視し、走りを速めた。
細い光は道路脇に設置された街灯の柱を貫通した1秒後、柱の一部が弾け飛んだ。破損した柱の一部は、まるで何かに食われたみたいだった。不安定な軸となった街灯は傾き、地面に倒れた。
鉄をも軽く破壊する細い光。いくらARヘルメットのサポートがあっても補足するのは困難だ。細い光弾を視認してからじゃ遅いと、身を持って知った。
興梠の右手、右脚の一部、左肩は、
板茂の特殊な電気挙動は、ウォーリアの素質によるものではない。わざわざARヘルメットの機能を使わなくとも、確認できる
両腕の外側に半径2センチの黒の円形があり、中心部は小さな青の光を灯していた。
ならば両腕を破壊した時、正六角形の光の現出、並びに射撃方向の制御や出力に不具合を起こせる。
問題はその破壊方法になる。正六角形の光の中心部が銃口の代わりとなり、射出している振る舞いから察するに、銃口は全8つ。四方八方、上空への射撃も可能。射撃の向きにはある程度制限があると、興梠は洞察していた。
板茂に接近を試みた際、正六角形の光が放つ弾をとっさに体勢を低くして避けられた。その時、興梠は10メートル以内まで初めて接近できた。あと寸分の隙があれば近接攻撃も可能という距離だったが、板茂が手に持たれた銃で射撃され、下がらざるを得なかった。
ただこの板茂の対応は不可解に感じさせた。
正六角形の光は
正六角形の光から射撃できるはずなのに、わざわざ手に握られた銃で攻撃してきた。完全無欠のように見えるが、正六角形の射撃には方向に制限があるんじゃないか。それを補うための光の筋なのかもしれない。
ドームを形作る淡い光の筋に沿って移動する、正六角形の光の挙動は一貫している。光の筋が言わばレールのような役割をしていて、銃口の向きに制限のある正六角形の光の欠点をある程度補っている。そうだとしたら、つけ入る隙は充分にある。
興梠は空いている左手を背中に回す。
興梠は電磁銃を右脚の
短い柄の先端にはヒレのようなものがついている。ボートを漕ぐ際に使うオールに似ており、柄と先端部のつなぎ目に大きな銀色のナットようなものがあった。ナットの先端部表面には6つの小さな穴が空いていて、ただの固定部品には見えない。
興梠が取り出した武器は初めて見るものだったが、板茂は充分な間合いを取れている余裕もあり、構わず正六角形の光で射撃した。
興梠はオールのような武器を振るう。針のような細い弾丸はオールの先端に引っ張られる。光の針はオール先端にぶつかり、消失した。
板茂のARヘルメットも光の針を完全に追うことはできないが、衝撃の瞬間になんらかの痕跡を知覚できる。物質に衝突すると、破損とわずかな煙が起きる。だがオールの武器にはいずれもそれらの現象が見受けられない。
板茂は2人の新人隊員の動きに感心しながら、興梠が見せた新たな武器に警戒感を強める。
板茂もまた新人隊員を1人も殲滅できていない状況だったが、焦りはない。光の針は捕捉困難にするために速さを重視した攻撃のため、1発1発のダメージは小さくなっている。更に
ただ1つ腑に落ちないことがある。桶崎謙志。彼だけ光の針による攻撃が1つも当たらない。他にも攻撃を加えようとしたが、すべてかわされてしまう。
彼の評判は西防衛軍基地でも有名だったが、初見でこの攻撃をかわせる者がいるとは思えなかった。あの生島隊長でさえ、数発食らうこともある攻撃とあって、信頼の厚い攻撃だっただけに、桶崎の反射速度は異常と評価するしかない。
桶崎謙志の動きは不自然な点が多過ぎる。武器を持っているくせに消極的な攻撃行動を見せている。少ない攻撃行為のすべてがメイスによる殴打のみ。これはあきらかに不自然だった。
遠距離、中距離攻撃を織り交ぜながら戦闘を行う隊員が多い中で、近接の殴打にこだわっているように感じる。
そもそも近接攻撃にこだわるメリットはほとんどない。なんらかの作戦。桶崎に意識を向けさせ、興梠が後方から攻撃をしかける作戦か。そうだとしても、この戦況から考えれば効果は薄いと判断できる。それに興梠も近接攻撃をしかけてくる。2人で攻撃の方法を分担しているとは考えにくい。桶崎謙志に攻撃が当たらないこととは別の話になるだろう。
何かがおかしい。時間を追うごとに違和感が強くなっていく。
板茂は手に持った銃で地面から垂直に伸びるガードパイプへ撃った。ガードパイプの根元にレーザー弾が当たり、地面に転がる。板茂は俊足の移動の最中、転がったガードパイプを蹴り飛ばす。
桶崎は飛んできたガードパイプを避けるが、動きを見切られた桶崎にレーザー弾が当たった。
しかしレーザー弾は桶崎の体を通り抜け、建物に当たってしまう。レーザー弾が当たった影響か、桶崎の
板茂はようやく頭に浮遊している疑念に合点がいった。あれは偽物。空間に投影された桶崎の姿でしかない。攻撃が効かなかったのも当然だったのだ。
今まで気づかなかったが、他の事象も納得がいく。
10体ほどいたバーチャルブリーチャーは、今や2体しかいない。エンプティサイとカリヴォラというすばしっこい部類ばかり。ものの10分で5体のカリヴォラと3体のブリーチャーを倒すほど、新人の西松琴海が孤軍奮闘の活躍を見せているわけではなかったと、断定する以外にない。
電撃や戦闘による衝撃音に混じる異質な音。猿に似た姿を持つカリヴォラが見えない何かに体軸のバランスを崩され、動きが一時的に鈍くなる。
琴海から刺すような電撃が放たれる。カリヴォラに一度放たれた電撃をどうにかする手立てはなかった。体のバランスを失ったカリヴォラは真正面から電撃を受ける。カリヴォラが苦し紛れに吐き出した唾も少量で、改良されている
青い光を纏う三日月の刃は、空気をもろともカリヴォラの体を裂いた。死神の鎌を彷彿とさせる武器を振り切った琴海は、残るエンプティサイに絞り、意気を奮わせて劣勢になった逃げるエンプティサイを追いかけていく。
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