karma14 統制された戦闘

 6体の生物はぞろぞろと行進を始める。背筋を伸ばし、悠然と標的に近づいていく。


「ふッ、1人1体ずつってか」


 附柴は不敵に口角を上げる。


「いや……そうじゃないッ!」


 木戸崎の声が戸惑いに揺れながら否定した。

 木戸崎の動揺に何事かと周囲を確認すると、6体の生物が集まって行進している場所以外にも、1つ、また1つと大木が伸びていく。


「……何体いんだよ」


 西松は声を震わせた。

 無情だ。圧倒的な戦力を見せつけるかのように、灰色の巨木は立ち昇り、光る小人へ向かっている。


「ふふふふ……」


 西松は不吉な笑い声に視線を弾くように振った。

 視界に捉えた機体スーツは前のめりになり、体を小刻みに震わせている。


「上等上等ッ!! やってやろうじゃねぇか……! 全部まとめてブっ殺してやるよッッッッッ!」


 恐慌の淵から奮い立つ声を上げ、附柴の機体スーツに光が戻る。附柴は赤い稲光を周囲に散らし、トップスピードで駆け出した。


 双端剣デュアルヘッドソードを持たない完全体の生物は、一様に両腕を前に伸ばす。親指の腹に引っかけた指。光も音も出さず、弾丸は発射される。

 附柴は突っ込んでくる無数の爪の弾丸にためらうこともなく、風を切って走る。光の剣が顕現すると、彼らの胴体を切り裂いていく。生物の手足が阻もうとするが、附柴は止まらない。

 蓬鮴たちも戦いを強いられる。コンクリートに穴を空ける先のとがった弾丸と荒々しい光が相対し、飛び交っていく。空気が震える。猛威を振るう完全体の攻撃から逃れ、隙間隙間に反撃に転じる。

 生物の体には隊員の攻撃を受けた傷跡が作られるも、すぐに元に戻ってしまう。小さな肉片と液体が飛び散り、また再生が始まる。


 これ以上数を増やしてはならない。だが弾切れを知らない彼らの爪が休むことを許さなかった。弾切れを起こした戦闘機が、増援された戦闘機たちと入れ替わり、負けないようにと火を吹く。たちまち辺り一帯に硝煙しょうえんの匂いがたちこめる。

 地表で駆け回る隊員に対応する生物が多くいる中、一部の完全体の生物が互いに見合っていた。

 50メートルほど距離を取った2体の生物は、それぞれ違う構えを見せる。1体はバレーのレシーブの構えで、もう1体は陸上のスタンディングスタートの構えを。


 スタートを切った生物は豪快なフォームで走っていく。7メートルまで迫ると、生物は放物線を描くようにジャンプする。

 生物はレシーブの構えで待機する生物の両手の上に着地した。両手に重みを感じた生物は、4、5メートルの体長を持ち上げ、振り上げた。振り上げられた生物は、上空へ飛んだ。


 空の皇帝だった戦闘機の前に、突然背中を向けた生物が現れた。戦闘機MEX-4D、エリザベートを操縦していたパイロットは目を見開いて驚き、とっさに機体を左に逸らした。

 生物は体をひねる。腕いっぱいに伸ばした手が握りしめられ、裏拳で戦闘機を叩き落とす。

 堅く重たい器物がグルグルと回転し、墜落した。一閃の爆発。赤黒い光が灯り、先端の潰れた機体が轟々と燃えていく。火の粉は空中を舞い、駆けるウォーリアの疾風に躍る。


 持てる武器で敵を打ち滅ぼす光を放つ。生物の体から小さな肉片と液体が飛び散るも、生物の傷口は簡単に塞がってしまう。斬り、鋭い電撃を穿うがち、斬り、穿うがち、斬る。

 体中傷だらけになって焦げ跡を作っても、生物はすぐに立ち上がり、攻撃を再開する。附柴は色鮮やかな紅い光を撒き散らしながら、生物を寄せつけない。生物の手足が触れようとすれば、体の芯まで及ぶ激痛が走った。

 附柴は電磁剣を伸ばし、振り上げる。厚い雲に届いた刀身は、地面まで叩き落とされた。刃が地面に触れた途端、乱れた刃は赤い稲妻を撒いていく。紅蘭の輝きは濁りを帯びて、誰彼構わず襲いかかる。


 不安と恐怖の中にいる者には必ず隙が生まれる。附柴の凶暴性は生物にとって脅威であることに変わりはないが、分かりやすく隙を見せる敵など、容易にねじ伏せられる。

 他の生物の影に紛れ、武器を構える。腰を落とし、居合の間へ入る完全体の生物。完全体の数も増えたことで、こうして力を込める時間ができた。大本から与えられる信号。まさに一心同体の境地。すべての警戒心を排し、敵を討つためにだけ練られた気が、三日月の刃へ流れていく。

 下段に構えた双端剣デュアルヘッドソードが大きな円を描きながら振り上げられた。時間を取って全力で振られた武器は、斬撃を描いた。


 空間を網羅する電磁感覚により、対象のスピードと規則性を割り出し、予測した。しかし、それだけでは対象がそのエリアを通る頻度が少なく、速度も一定にならない。急加速しづらい、かつ一番通過するエリアを通らせるためには、敵に気づかれないように誘導するのが手っ取り早い。

 そんなことができるのかという疑問はあるだろうが、敵味方が同じフィールドを使うスポーツをする者なら簡単に思いつくのではないだろうか。そう、味方の位置を変えればいい。


 ウォーリアも警戒するほどの反射機能を持つ生物なら、突破しにくいルートを選ぶ確率は断然低くなる。そういったデータを利用し、修正・試行を繰り返せば、ウォーリアを誘導できる。無敵の体を持つ生物だからこそできる、堅実で確実なやり方だろう。

 そして、得られたデータとタイミングは完璧だった。更に、武器を持つ生物の攻撃を悟られぬよう、味方の体で死角を作った狡猾な工夫を施されていた。練りに練られた作戦は、怖いくらいにハマった。


 附柴は疲れを蓄積したことも相まって冷静さを失い、感覚も鈍感になっていた。気づいた時には15メートルまで斬撃が迫っていた。

 斬撃速度から考えるに、普通の隊員なら直撃は避けられない。受け流す、または斬撃に電撃をぶつけ、ダメージを減らす。それでも圧倒的に時間は足りなかった。

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