karma20 楽に鳴れ

 附柴もブリーチャーたちの猛攻に遭っているが、反撃せずかわすばかり。狙いはヴィーゴだけだ。

 ヴィーゴから少しも目がらされることはない。狙った獲物は逃がさないと言わんばかりの目が、ヴィーゴを不気味に射抜いぬいている。


 ヴィーゴも、打撃の斬弾ざんだんやレーザーで附柴を攻撃するも避けられてしまう。流れた攻撃が味方であるブリーチャーたちに及んでしまうのだが、攻撃することにためらいはないようだ。

 目の前で動き回るウォーリアを狩ることだけを目的としている殺人兵器と化した生物は、次々とブリーチャーたちを巻き込みながらも、攻勢の手を緩めない。その最中、混沌とした戦場は1つの咆哮で変化する。


 それは雷鳴にも似る音だった。空からもたらした自然的現象と納得することもあるだろう。しかし、数百メートル離れたところから、目にも止まらぬ速さで、雨の中を真っすぐ駆け抜けた一閃は、ヴィーゴの左足を捉えた。


 左足のけいれん。ヴィーゴは突然力が入らなくなり、足が勝手に震え始めた。

 見るからに様子が変わったヴィーゴに対し、附柴は警戒範囲を広げて確認しようとする。

 自ら放つ電界を広げ、射出地点を特定する。特徴的な電磁信号を発する場所を検知。気になるところではあったが、死に物狂いのブリーチャーたちはヴィーゴの危機的状況を察知したのか、附柴へ一斉に攻撃を試みる。


 背後に迫る液体。吐かれた液体は、百足ムカデの体型を模す巨大な平板型のディアラスのもの。

 体を大きくのけ反って浮かし、上から吐き出した液体は強い酸の反応を見せる。吐かれた液体に続いて、ディアラスの大きな体が起こされたのを利用して、ブリーチャー属の中でも比較的体重の軽いエンプティサイやカリヴォラが上から飛びかかってきていた。

 ブリーチャー属の中でもこのような攻撃をするタイプは珍しくない。最近の新種の上陸により、酸性の強い液体を吐いてくる生物に対応するため、機体スーツの強化が行われた。

 それにより、一度かかった程度では機体スーツの機能に損傷をきたすことはないが、痛覚はつながっているため、できれば当たりたくはない。


 附柴にももちろんその感覚はあったが、何より汚らしい生物の吐しゃ物をわざわざ被るなどプライドが許さなかった。附柴はその場から消え、体を起こして3メートルの高さにもなるディアラスの体を、一瞬のうちに横から斬ってしまった。

 ディアラスの体を利用したブリーチャーたちの着地地点は固まりやすい。左肘から手首にかけて、機体スーツ内部の銃身が自動で出ると、附柴は振り向き様に照準を合わせ、発射した。輝かしい赤い旋律。光がまたたく間に伸びて、周辺の建物も呑み込んだ。


 ヴィーゴの足が正常に動くようになり、振り返ったその先へ、銅鐸どうたくの棒の先を向ける。しかし、その前に赤い光がヴィーゴへ迫った。

 ヴィーゴは回避するしかなかった。地面へ堕ちたレーザーは地を割り、亀裂を作る。附柴は薄く開いた口に笑みを携え、銃口を向けていた。


「もう跳ね返せねぇみてぇだな」


 ヴィーゴがウォーリアの電子ライフルや電撃を操作する機能は、尻尾の先端にある磁操尾端じそうおたんが担う。初動防戦部隊が持った狙撃銃、EMPプレッサーの照射を受けたため、ヴィーゴはウォーリアが使う電気エネルギーを活用した攻撃を操れなくなった。


 これでウォーリアに有利な戦況になったことは間違いない。

 蓬鮴たちが相手をするヴィーゴもまた、EMPプレッサーの照射を受け、ウォーリアのレーザーを跳ね返せなくなっていた。


 光が辺りを照らす。戦禍に呑まれた住宅は雨にさらされ、朽ちていくばかり。それを慰めるにはあまりに物騒な光だった。


 またその光も、滅するための光だ。光をもたらすのは何もヴィーゴだけではない。ウォーリアもまた光を放つ者。そして、人々がつちかってきた生活を奪う光を放射する。

 そうしなければ、何も守れない。たとえそこにどんな愛着があろうと、生物たちが身から零す粘液と排泄物にまみれた土地へ変貌を遂げるのを黙って見過ごせ。そんなことが誰にできようか。

 日本全国の人々が、地下で生活できる空間を造るのにどれほどの資金と年月がいるだろうか。計り知れない真実の数字を正直に伝えれば、誰もが狼狽うろたえ、悲嘆の叫びを上げるだろう。


 油の浮いた水面では泥のついた三輪車が浮かんでいる。その横を太い機械の足がすれ違う。跳ね上がった水を被りながら、弱々しい雨を粉砕する機体スーツは、どこからともなくやってきたブリーチャーの集団の攻撃をかわし、歯がゆい思いを晴らすかのように電撃を浴びせる。

 また別のウォーリアは電磁剣を振るい、剣身けんしんの長さを自由自在に伸縮させ、切り刻む。はたまたあるウォーリアは、左手に赤い粘り気のある刃を持ち、一般の武器ではまずその身に風穴すら開けられないブリーチャーたちを裁断した。


 紅いほむらを纏う刃は、煉獄れんごくの炎をもろともしない鬼の爪か。ギラギラと燃ゆる刃は斬ったものを火の中へ葬り去る。たちまち辺りは火の海となり、雨が鎮めていくことを繰り返す。

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