karma3 攻防の軍隊
共闘戦線を展開するための訓練は滞りなく続いていく。あらゆる場面を想定した訓練の中で、連携の確認を行いながら汗を流す。すべては共闘という前提の下に行われた訓練だったが、実際に攻撃があるものは含まれていない。それはこれから始まろうとしている。
部隊ごとに分かれ、
試合を観ていれば、観客となってオーバーヒートしていくのはもはや合同訓練の名物らしい。もちろん武器は死傷することのないものが扱われるが、電撃は使い放題なので、多少の生傷は免れない。そう藤林隊長に説明され、早速
岩場の陰で観戦する隊員たちの中で、不安と緊張に苛まれる。それを和らげてくれるのは、小気味よい潮騒の音だけだ。だがそれをかき消すほどの激しい音。どんどん青の空へ飛んでいく。
水と砂が宙を舞い、
戦闘になればそんなことなど気に留める余裕はない。激動していくマッチアップは、
また沸騰するかのように男たちの歓声が響く。攻撃を受けた回数が3回に達した時、その者は負けたことになる。
倒れているのは
おしゃべりな藤林隊長の話によると、あれが噂の
「ははっ! やっぱ
青い
「あんなお飾り部隊とはわけが違うっての!」
わざわざシールドモニターを開けて言っていることから察するに、挑発しているとも受け取れる。
「いいんですか?」
琴海は不満げに隣の竹内隊長に尋ねる。
「文句があるならあの女王を負かせばいい。言い争いは不毛だ」
ARヘルメットを外している竹内隊長は、カラカラの喉を潤すアルカリイオン水を口にする。長い白髪を上げて縛る髪。ほどけないようにしっかり固められているようだ。
琴海は現にあの女王に負けていることもあって、それ以上は何も言えない。積み上げてきている年数はさほど変わらない先輩隊員たちでも、あっさり負けてしまうほどに、あの人は強いのだと認めざるを得なかった。
勝利を得た青い
「そろそろあっちもお待ちかねだろうし、氷見野さん、行っとこうか?」
額に汗を作りながらも、爽やかに笑顔を向ける藤林隊長が氷見野を指名する。
「はい……」
気乗りはしないが、言われたからには行くしかない。氷見野は重い腰を上げ、駆け出す。
「ひみゆう氏、ファイトです」
藍川の応援に少し手を上げて応答し、青い
数時間前までいた海鳥もどこかへ行ってしまったようだが、まだこの海が秘境のリゾートであるという雰囲気は保たれていた。
氷見野は少しずつ走る速度を緩めていく。小さな歩幅に変わって、青い
雲が太陽にかかっていく。光量が抑制されるその瞬間、氷見野の目はしっかりと青い
強い目力が氷見野と対する。白が似合いそうな可憐な顔立ちを、三百眼の瞳が一気に引き締めていた。
「構え!」
司令官見習いの男性が通信で粋のいい号令を遠くから出す。2人の首元が蒼く光を灯し始める。
「始め!」
指揮官の合図と共に、2人はブーストランで姿を消す。
どこからともなく発射される光弾。被弾した場所で砂や水が弾けて宙を舞う。輝かしい青の風景を呑み込むほどの閃光が、辺りでぶつかり合っていく。
音を置いていく速さに達すること数回。お互いに様々な武器を駆使して交戦する。
速度はほぼ互角。反応も申し分ない。攻撃と防御のエネルギーを見通し、即座に体勢を整え、自分が優位に立つよう戦場をものにすること。
「へー、新人にしてはなかなかやるな」
女帝はどちらかといえば接近戦を好む。女帝の戦いを観戦していた氷見野は、そう感じていた。
先輩や琴海が先に戦ってくれたおかげで予習はできたが、それを知ったからといって具体的な対策を思いつくはずもない。どう戦うかは
ブーストランによる回避と攻撃を巧みに操り、氷見野の攻撃をあしらっていく。ほんの一瞬、氷見野が苦しい体勢になれば、大きな体に似合わない細い銃身を持つ特性のショットガンを放ってくる。
女帝の持つショットガンの弾丸が
以前の氷見野ならそこで地面に転がっていただろう。藤林隊長を始め、いずなたちによる指導により、氷見野は戦いにおける精神的な持ちようを伝授されていた。
攻撃を受けたとしても、反撃できる時間は十二分にある。そのために、体を鍛えてきていることを忘れるなと。だから、氷見野の
氷見野の
女帝は落ち着いていた。すぐさま銃口を氷見野に向け直す。ショットガンは咆哮を上げた。またしても弾丸は砂を舞い上げただけ。氷見野は女帝の体の陰に隠れるようにして、後ろへ回り込んだ。
しかし、それはすぐにかき消される。氷見野の捕縛から逃れようと、女帝は瞬間的に膨大な電気量を発したのだ。爆撃でも落とされたかのような大きな音が連続的に鳴り響く。
耳をやられる隊員が続出したのは、防衛軍の隊員ならば記憶に新しい。数十メートルの距離を取っているのなら、急性難聴になることもないだろう。
氷見野は電撃を浴びるも、自分も負けじと放電して防御を試みる。女帝の腕から手を離してしまうような痛みや衝撃ではない。
激しくぶつかり合う電気。同じ電気でもわずかながら色味の違いがある。濃密な青の光を見せる氷見野に対し、女帝の電気線は白を極める光を差す。それが衝突した途端、2つの電気線は炎のような
互いに電気線の衝突の反動を受けるも、それはジリジリと体に振動を与えるだけで、我慢すれば大したことはない。
不快であることに変わりはないが、戦闘中の2人の頭にあるのは、目の前の仮想敵に負けないこと。体で煮えたぎる戦意をもぶつけ合う。それは互いの所属する部隊の名誉にかけて、といった大きなものではない。その身に宿す信念への献上であった。
一層激しさを増していく光により、2人の姿は隠されていく。眩しい光にあてられた隊員たちと技術士たちは目を細めた。
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