5章 ヒーローが負けた日
karma1 相も変わらず
4年前――――西松清祐、葛城魁、御園聡一、興梠哲、
5人はブリーチャーの習性を独自に調べ、まとめたデータを元にブリーチャーが出没しそうな地点を重点的に警備。西松たちが住む地域にブリーチャーが現れれば
話を聞きたいという前置きから始まり、
西松たちの活動により、周辺地域でも知る人ぞ知る謎の部隊として広まっていくことになった。ウォーリアが扱うことのできる電撃などを見られていることもあり、ウォーリアが地下に入らず地上で暮らしているとの批判が上がってしまう。
乱磁性ループがあれば地上で暮らすことは可能だが、乱磁性ループの着用は当事者の協力に任されている。つまり、着けたくないと思ってしまえば着用せずに過ごすことも可能だった。それも一般の人たちがウォーリアと同じ土地に住みたくない理由にもなっている。
謎の民間部隊の情報について、様々な憶測が飛び交っていた。
批判が多い分、自分たちを守ってくれる西松たちの活動を擁護する人もいる。その声は原動力となり、西松たちの活動は細々と続けられた。
本日、西松たちの地元では、ドイツ出身の男性4人組ダンスボーカルグループの来日公演がドームで行われることになっている。ドームがある街にいれば、来日公演の宣伝ポスターや広告宣伝車が行く先々であいまみえる。
公演開始まで5時間もあるのに、『
「そこの可愛いお姉さんたち!」
自然な振る舞いと笑みを携えて歩いてくる2人の男から嫌悪感を抱くことはなかったが、女性たちは西松と柴田を
「ライブが終わったら、俺たちと楽しまないか? もちろん、チケットは無料だよ」
チケットはパソコンを使ってプリントした物で、無料の文字がでかでかと躍っていた。甘い声色を演じる2人は、女性たちを包み込むような視線を注いだ。
「結構です」
西松たちはやんわりと断られた。固まっている西松たちの横を通り過ぎ、女性たちの潜めた笑い声が遠ざかっていく。
ナンパの行方を見守っていた御園たちは
「ぐっ!」
西松が膝から崩れ落ちた。
「なぜだ。なぜ、誰もなびかないっ!」
西松は地面に拳をぶつける。
「レストランで無料で食えてカッコいい男たちとワイワイできるってのに、何が足りないんだ……っ」
柴田は絶望した様子で頭を抱えている。
「そりゃドームにいる男たちの方がカッコいいからだろ」
御園はため息交じりに言う。
「見た感じ相手は年上。僕らのような子供染みた男は眼中にないんじゃないかな」
葛城はさらりと自虐する。興梠も深々と頷いていた。
「せっかくこの日のためにバイトしてお金貯めたのに」
「やっぱり、俺たちが雷神エクシリアーズだって言うしか」
「それはやらない約束だろ」
柴田は生気のない声で制する。
「くっそ! こうなったらやけ食いだあっ!!」
西松は半ギレした勢いで立ち上がり、両手を高く突き上げた。西松の手に持っていたチケットがすり抜けて舞い落ちる。
「清祐殿がご馳走してくれるらしいな」
「なんでそうなるんだよ!」
西松は勝手に話を進める御園に詰め寄る。
「ヤケになった奴なら奢ってくれるだろうと思ってな」
「たかってんじゃねぇよ! 自分の金で食え」
「ケチだなぁ。そんなんだからナンパもろくに成功しないんだろー」
「誰が言ってんだ! お前も失敗してんだろ!」
西松は御園の上から目線を咎める。
「アレは相手が悪かった。この俺の魅力をわからないほど男を見る目がない女性だったんだ」
「じゃあソウは魅力をわかってくれる人を見極める目を養った方がいいね」
葛城が涼しげな顔で指摘する。
「横から入ってきて正論言うなよ」
御園は苦い顔でぼやく。
「ほら行くぞ。これから反省会だ」
興梠は苦笑しながら促す。
「反省!? 俺たちに反省することなんかねぇ!」
「俺たちは
「だよな!?」
愚痴を吐いて歩く2人は、たちの悪い酔っぱらいの様相を呈していた。
「反省会じゃなく、デトックス大会になりそうだね」
葛城は立ち止まったまま、2人の哀れな背中を見ながら静かな口調で呟く。
「デトックスねぇ。聞こえはいいが、俺たちは毒を受け止めなきゃいけないんだぜ?」
隣で同じく立ち止まる御園は肩を落として言う。
「ふふっ、毒も少量なら薬になる。いらない毒は捨てればいいんだよ。誰も困らないし、もしかしたら除菌になるかもね」
「お前はそのくどい感じがなけりゃ友達増えると思うぞ」
御園はじっとりとした視線を投げる。
「染みついた癖を直せと言われても簡単には直せない。人間とはそういう生き物じゃないかな?」
「はいはい。お前の哲学とやらもデトックス大会で聞いてやるよ」
「御園は優しいね」
「嬉しくねぇー」
2人はドーム前から立ち去っていく。その時、1台の群青色の車がすれ違う。
車はドームの裏へ回り、搬入口前の駐車場に止まった。
運転席にいた男はエンジンを止め、座席の背に寄りかかる。虚ろになっていた目を閉じ、静かに寝息を立てた。
細長いチューブが男の後ろの首から抜ける。チューブを刺していた首から1ミリ程度の赤い血が滲み出る。
先端に針がついたチューブは運転席の裏を這うように下りていく。チューブに纏っていた透明な粘液は、チューブを引きずった跡となって運転席の裏に残る。
チューブは後部座席の足元まで伸びており、足元に不自然に空いた穴から出ていく。チューブが車から出ると、車の前輪の左タイヤに貼りついていた異様な生物がぬるりと地面に下り立った。
車と地面の隙間から謎の生物が顔を出す。指で軽く突いてしまえば簡単にへこんでしまいそうな柔らかい体を、4本の足で運んでいく。
縁石ブロックと同じくらいの高さしかない生物の体は、ところどころをへこませたり膨らんだりさせて、動くたびに少しずつ形を変えている。
誰も見たことのない気持ち悪さを醸し出す、ぬめり気を纏う全身ピンクの生物は、地面を這いながらドームの搬入口へ入っていった。
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