~継がれる想い、繋がる心~・4

 心の精霊となったルセットの力で散り散りにされた仲間達との会話が可能になった一行は、それぞれに起きたことを話し、情報を交換した。


「離れ離れにして、陰湿な幻覚攻撃……どこも似たような感じね」

「それでひとの心を挫けると思われているのが余計に腹が立つな」


 イシェルナとダクワーズが口々にそう言うと、ランシッドがいや、と首を横に振る。


『ここはマナが穢れ、澱んでいる。精霊も干渉しづらい上に穢れの影響も強いんだ』

「全身の力が抜けていくようなあの気怠い感覚……それほど暗い過去のないわたしも危うく引き摺りこまれかけました。たぶん、そういうことなんですよね」


 時折漂う障気も見られるツギハギの塔特有の空気は、ひとの心の負を強く引き出そうとするのだろう。


 もしもあの時、あの闇に呑まれていたら……とフィノは杖の柄を握る手を強める。


(ああそっか、だから王都の障気騒ぎの時に俺も含めてみんな荒れてたんだ……)


 別行動をしているリュナンの、心の呟きが漏れる。

 結界で直接的な害は防いでいても、心はじわじわと蝕まれていたんじゃないか、と彼は感じた。


(あの時の俺、カッコ悪かったなあ……)

(外との交流を断たれ、実質閉じ込められたも同然の状態で冷静でいられる者なんて、実際はそういないだろう)


 落ち込むリュナンをオグマがそっとフォローする。

 向こうも相変わらずのようでフィノ達の安堵を誘った。


「みんなの声が聴けるだけで、こんなにホッとするのね」

『早く合流して、もっと安心したいわねぇ』


 月光の女神がイシェルナの言葉に頷く。


「とはいえ、単純にこのまま上に向かっていれば会えるのだろうか……?」

(ああ、こちらで空気の流れを調べてみたが最終的に我々の道は交わるようだ)


 ダクワーズの疑問には、風精霊の力を借りたのであろうスタードが答えた。


 それがわかれば、後はひたすら進むのみ。


『待ち合わせは“奴”の前……か。デートにはちょっとムードに欠けるね』

「けど、わかりやすくていいわ。誰が最初に辿り着くか、競争ね♪」


 ランシッドとイシェルナが軽くおどけて見せるが……


「……いよいよね」


――決戦は近い。


 仲間達の誰もが、その気配を感じ取っていた。


「いくわよ、みんな」

「はい」

「ああ」


 彼女達の瞳が……きっと、この場にいない者達のそれも、見据える先はひとつ。


「あんな奴になど、負けていられない!」

「帰ったらたっくさん遊んで、お喋りするんだからね!」

「そのためにも、さっさとやっつけてしまいましょう!」


 おー!


 女子三人(と、ちゃっかりまざった女神)の明るい声が綺麗にハモる。


 これからどんな戦いが待ち受けているのかわからないという不安を微塵も感じさせないそれは、未来への希望そのものであった。

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