~閉じられた幕の先へ~・4
(そうだ、思い出した……余はあの助けてくれた人間をそうとわからず拒絶して逃げ出し、森の中で必死になって生きていた……そして、あの記憶は無意識のうちに深く深く奥底に封印してしまったのだ……己が心を守るために)
残ったものは、後に見付けた墓に備えられていたのを回収していた父親の形見の首輪だけだった。
気付けば“総てに餓えし者”はいなくなっていて、シュクルは今度こそ長い夢から醒めた。
他の仲間達同様に何もない、出口のない部屋にひとりだったが、寄せ集めで作られたツギハギの壁には彼の小さな体がぎりぎり通れる程度の穴があった。
「……皆を探さねば」
自分でもびっくりするほど冷静な声が出たとシュクルは感じた。
引っ張られるように足を進めると程なくして、話し声らしきものを拾った大きな耳がぴくんと動く。
「この声、まさか……」
顔を上げたシュクルの目に、デューとカッセが連れ立って歩いてくるのが飛び込んできた。
「カッセ、デュー!」
「シュクル、無事だったか!」
こちらに気付いたカッセがシュクルに駆け寄り、抱き上げる。
心配そうに覗く赤銅の猫目が、カルバドスとファリーヌのそれと重なった。
「うっ……」
「どうした、どっか怪我でもしてんのか?」
安堵から張り詰めた糸が切れ、シュクルの目に涙が溜まり溢れだす。
「!」
ぎょっとするカッセだったが、止まらない涙が落ちる前にシュクルを強く抱き締めて顔を隠してやると、あやすように優しく背中を叩いた。
「カッ、セ……余の、余の親が、っ」
「……そうか。過去を知ったのだな」
「ひ、ぐ……うえぇ……っ」
しばらく泣き止むことができないであろう子供を穏やかな声で宥めながら、カッセはデューに目配せをする。
(へいへい、そっちは任せたよ……“お兄ちゃん”)
そんな含みをもった視線を返すとデューは剣を手に、周囲を警戒した。
シュクルが落ち着くまで、心置きなく泣けるように。
「よく頑張ったな……たったひとりで、辛かったろう」
「~っ!」
もしかしてカッセは知っていたのだろうか?
そう考える間もなく、優しい兄の声が、撫ぜる手が、今の今まで保っていた虚勢の糸を取り払う。
「う、ぅ、くっ……」
顔を埋め、声を殺していたシュクルだったが、涙だけは当分の間止めることはできなかった。
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