~終止符を、この手で~・4
中央大陸グランマニエの中心地、王都にそびえるマーブラム城。
七年前まで使われていた名工のための工房は、久々に作業の跡を残していた。
そして、その名工はというと……
「う、うーん……オグマ、あぶねぇ……」
「どうした、不吉な夢でも見たか」
「うぎゃあ!?」
ドアを隔てた私室のベッドでうなされながら目覚めると、視界一杯になる程覗き込んでいた王の顔面に驚き、跳ね起きた拍子にその顎に頭が激突してしまった。
「痛いぞガトー、舌を噛んだろう」
「うるせえびびらすな! 寿命縮むかと思ったじゃねえか!」
心臓が暴れまわらんばかりにやかましいであろう胸を押さえ、ベッドの端まで退いたガトーは、よほどびっくりしたのか三白眼に涙が滲んでいた。
が、
「……それだけ元気なら大丈夫か」
「お? おう」
パッと見では何を考えているかよくわからないモラセス王は、どうやら“総てに餓えし者”の眷属を倒すための腕輪を作り上げてから力を使い果たし数日眠ったままのガトーを心配して来たらしい。
「あれからどうなった?」
「各地の混乱に対応させるため騎士団を向かわせた……グラッセも、お前の作った腕輪をつけて行ったぞ」
「……そっか」
オグマと同様に気にかけているであろう仮面の騎士の行き先を告げれば、返ってきたのは元気のない声。
暫し考えたモラセスは、俯くガトーに向かって口を開く。
「お前はやれるだけのことを……いや、こちらが望む以上のことをやってくれた。あの腕輪は奴等を死地に向かわせるためのものではなく、護るためのもの……そうだろう?」
「モラセス……」
「そのつもりで作ったのなら、あとは奴等を信じて待て」
お前のことだから、それも辛いのだろうがな。
細められた赤眼は、言外にそう付け足したように思えた。
「信じて、待つ……か」
「そうだ。帰ってきたグラッセやオグマ達にしけた面を見せるな。お前らしく迎えてやれ」
「俺らしくってなんだよ」
呆れて口許を弛ませるガトーに「そうやって笑っていろ」と言い放ち背を向けるモラセス。
その足は出口に向かって、ゆっくりと進み出す。
「おめえも行くのか?」
「いろいろとやる事があってな……“私”は忙しい」
日頃は“俺”のモラセスがわざわざ“私”と言うのは、王としての顔になる時だ。
だが、ガトーにとってそれは、
「らしくねえなあ」
「うるさい。お前はもうしばらく寝ていろ」
ただの一人の友人の、からかう材料に過ぎなかった。
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