~小さな希望~・4

 しばらくすると使いの者に呼ばれ、デューやモラセス達一同が聖域に集められた。

 ムースの前にはミレニア、オグマ、フィノも揃っている。

 彼らの様子を見るに落胆などはしておらず、“楔”の習得に成功したようだ。


「のみこみの早い連中じゃのー、おもいのほかあっさりモノにしおった」

「うちの自慢の術士達だからな」


 ふふんと鼻を鳴らして得意気になるのは、この中では術の素養がからっきしなデューだった。


「何故お前が偉そうなんだデュランダル、そもそもお前も頼りっきりではなくもう少し魔術の勉強をだな……」

「適材適所、餅は餅屋だろ教官。んで、さっき行ってた場所に行けばいいのか?」

「うーむそれなんじゃが……」


 ムースは耳を揺らし、人が考え込むポーズをとるみたいにしてそれを口元に置いた。


「まだ猶予はあるとはいえ、なるべくカミベルの結界が残っているうちにことを運んで欲しーんじゃよ。出来れば同時に各地点へ向かって貰いたいんじゃが、平気かの?」

「そういうことか。だったらミレニア達にそれぞれ誰かつけて、みっつのチームにわかれればいいんだな」


 デューは仲間達を見渡すと、一人一人の能力から戦力バランスを考え始める。

 全く得意分野が異なるため誰が強い誰が弱いというより、これは相性の問題だろう。


(限られた人数でやらなきゃいけない。慎重に考えないとな……)


 こういうことは全員の力を一番知っているであろう彼が適任だ。

 ぶつぶつああでもないこうでもない呟きながら決めていく見た目は少年な騎士は、すっかりリーダーとなっていた。


「頼もしいものだな」

「若いっていいのー」


 何気なく言葉を洩らしたモラセスの隣に、いつの間にかムースが並び立っていた。

 ふと思い立って王は長老を見上げ、口を開く。


「今のうちに、少し話せるか?」

「なんじゃ、わしのぷりちーなミリョクにキョーミでもあるんかー?」

「……お前じゃなくカミベルだ」


 じろりと睨む王に「わぁーっとるよ」と返すと、ムースは自分より遥かに小さな相手を見つめ返した。


『モラセス』

「!」


 次いで聴こえてきたのは、巨大モップの老犬からとは思えない、高く澄んだ女性の声。

 発せられてる元さえ見なければ、カミベルと話している感覚になれるが……


『話って、なに?』

「あのゴタゴタで、最後に交わす言葉もなかったからな」

『そう、だったわね……』


 実体を失った巫女は聖依獣の性質を利用し、自らを器としたムースの中で保護されている。

 しかし、ムースの外見からカミベルの声がするのは、どうにもこうにもシュール過ぎる上に……


「……こちらを見ねば話が出来ん決まりでもあるのか」

「べっつにー? いい雰囲気じゃのーって思ってぇー」

『ちょ、長老……』


 何故かまっすぐ自分を見たまま顔を近付けてくる毛むくじゃらに、他の器はないのだろうかと思わなくもないモラセスであった。

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