勇者の目覚め編

第81話 再始動

 これは、私が異世界で体験してきたことを元に書いている小説だ。

 おおよそ、一年前の出来事をベースにしている。


 現在の私は無職のまま、失業保険をもらいながら小説の出版に向けて企画書を練っている。大手出版社が運営する小説投稿SNSでのコンテストや、その他の新人賞に応募せず。私は作家エージェントに企画を持ち込む道を選んだ。

 それが、争い事の嫌いな私が、誰かを押しのけること無く目的を達せられる手段だったからだ。


 誰かの出番を奪ってまで、一時的に目立とうなんて思ってない。

 無意味な出番の奪い合いは、 P B Wプレイバイウェブでもう飽きた。


 一人のゲームマスターに、数十から数百のプレイヤーが押し寄せる。これをブラックと呼ばずに、何と言おうか。郵便媒体のPBM時代は、もっと酷かった。


 昔、市民より圧倒的に奴隷の多かった、古代ギリシャ時代のスパルタでは。たとえ奴隷が数を頼りに反乱を起こそうとも、市民一人が奴隷十人分より強ければ鎮圧できると考えた。そしてスパルタは、過酷極まる教育と訓練により当時最強の軍事国家となった。これこそが脳筋だ。


 ゲーム業界のガラパゴス、PBW業界も現代のスパルタだ。基本的な発想は、何一つ変わっていない。


 少人数のテーブルトークRPGでしか成り立たないシナリオ運営の方法を、人力で強引にMMORPG規模に拡大しようとしたM Pミリタリー・パレード社の試みは、すでに破綻している。

 プレイヤー全員で壮大な大河ドラマを紡ぐ、PBWの理想は潰えた。そこにあるのはもはや理念無き烏合の衆であり、無意味な奪い合いであり、世紀末の無法地帯だった。


 それでも、自分のキャラをイラスト化できるから。続けている友達がいるからと、惰性でPBWを続けるプレイヤーは居なくならない。

 日本人ならではの同調圧力の強さもあるから、まるで江戸時代か戦時中のように、お上への批判は御法度の空気もある。

 ゲームマスターのなり手が減って、まともな教育も受けてないマスターと粗製濫造のシナリオが水増しされて、本編がグダグダになっても。

 考え無しにMP社を表面だけ模倣して、不満足の拡大再生産を続ける同業他社も、少数ながらゾンビのように潰れない。これは地獄だ。退屈で死ぬ。


 まさに、自分が後進国に落ちぶれたことを頑として認めず、過去の資産を食い潰しながら退屈な焼き直しを続けるゲーム業界…いや、日本社会そのものの縮図だ。


 これこそ「誰も歳をとらず(成長が無い)」、「新しい命(ものごと)が生まれない」上に「回復魔法が無効化される(癒しが無い)」、現代日本の「大いなる冬」。


 それは、異世界バルハリアの人々を、数百年に渡って苦しめている「フィンブルの冬」と不思議なほどそっくりだ。だからあの夜、私は夢渡りでバルハリアに迷い込んだのだろう。


 そんな私でも、氷都市で多くの仲間と出会い。彼ら彼女らとの交流を通じ、本当にたくさんの人たちに助けられて、地底世界の創世に立ち会い。

 ローゼンブルク遺跡の「夏のレリーフの扉」にかけられた封印を解いて、その先へと一歩踏み出すことができた。


 けれども、それはより多くの地球人たちをも巻き込んだ、さらなる大きな試練の…始まりに過ぎなかった。

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