第26話 はっちゃけ娘と∞リンガル
「勇者候補生」を効果的に指導・育成するための私塾設立と、講師の
私の提案は、アウロラの手で氷都市の議会へ持ち込まれた。
あなたは、自分の提案が会議にかけられた経験はあるだろうか?
正社員経験の無い私には、はじめてのこと。
私は評議員ではないので、オブザーバーだろうが。いずれ出席を求められるかもしれない。
会議の結果を待つ間、私にもまだまだやることはある。
特に…「勇者の落日」の関係者には、ひと通りあいさつをして回りたい。
私も、あの場にいたのだから。
それから、どこから人を見つけてくるか。
今は、私がSNSとイラストオーダーだけの参加をしているPBW、偽神戦争マキナのプレイヤー仲間を誘っているが。
もともと、滅茶苦茶なやり方で集客されただけあって、周囲にはガラの悪いプレイヤーも少なくない。いつまでも、あてにはできないだろう。
運営スケジュールが流動的で、丸一日かかる戦争イベントの直前までいつの開催になるのか分からないなど。不親切な点が多々あり、ストーリー展開についていけずに脱落するプレイヤーは多かった。
だからこそ、SNSでの交流と自キャラのイラスト発注だけで遊ぶのが気楽なのだ。
こちらも、氷都市を題材にした「なりきりSNS」を自分で立ち上げ。将来的には、そこに勇者候補生にふさわしい資質を持った人が集まるようにしたい。
そのためにプログラミングの勉強をしたりと、大変だが。これも自分のため。
バルハリアで氷都市のために働き、その体験を小説やそれ以外の商売に役立てる。それでこそ、自分の好きなことで身を立て。MP社を見返す道も開けるだろう。
そんなことを考えつつ、今日も一日を終え。食事と風呂を済ませて布団に入った。
◇◆◇
「イーノさぁん、おはようございまぁす!」
この声は。どこかで聞き覚えがある。
明るく陽気な、若い女性の声。
「おはようございま…」
ベッドから身体を起こし、あたりを見回すと。
ギリシャ風の
その胸は平坦だったけど、フィッシュボーンに編んだ金髪が愛らしい。
そして、なにより。
背中から蝶のような淡く光る羽根を生やし、にこにこと微笑む姿はまるで…ファンタジーの妖精そのものだ。
「わたしぃ、
独特な、のんびりした感じの口調。
なんだかすっごく、癒しオーラを感じる。
夢の中で、探索隊の冒険者たちも彼女の噂をしていた。みんなに愛されているのがよく分かる気がした。
「イーノです。よろしくお願いしますね、エルルさん」
「はぁいですぅ!」
私も自然と、相好を崩してあいさつすれば。彼女からも元気な返事が。
それで、ふと気付いたのだけど。
「エルルさん、変なことを聞きますけど…」
「なんですかぁ?」
「日本語、どこで習いましたか」
「習ってませんよぉ」
では、どうして日本語ペラペラなのか。
こちらへ来てから、直接会話したのが地球人のミハイルと。異世界テレビと日常的に接しており、語学に堪能と思われるアウロラだけだったので忘れていたが。
氷都市は、異世界の街だ。言葉の壁は、どうやって克服しているのだろうか。
「エルルさんは日本語を話してないけど、私の精神が入ってる
「かもしれませんねぇ」
アバターボディの使用が解禁されて、日も浅いからか。彼女もあまり詳しくないらしい。
「ともかくぅ」
なんだろうか。私は耳を傾ける。
「どんな方とでもぉ、心と心でお話すればぁ。言葉が違っても通じますよぉ!」
これを「
驚いたことに、キリスト教の聖書由来の言葉だ。
異国の言葉を学んだことも無い人が、突然未知の言語で会話できるようになる現象のことを指している。
「心と心…たとえば、夢渡り中は自然とテレパシーでの会話になるとか?」
「どこの世界へ行ってもぉ、だいじょぶですねぇ♪」
…ということらしい。
それにしても、ノリのいい子だ。
「氷都市はぁ、いろいろな世界からお客さんが来ますからぁ。異言の力が大陸全土に及ぶよう、結界を張ってるんですぅ」
ここでの結界とは、察するに地球の言葉で「電波網」くらいの意味だろう。
「私が夢渡りで、勇者の落日の一部始終を見たとき。ミキさんも道化もみんな日本語でしゃべってるように聞こえましたから、不思議に思ったんです」
相手の思考が直接、こちらへ伝わると。その内容が自分の良く知っている言語で、無意識に「脳内変換」されるのだろうか。
もっとも大半の人は、ファンタジーのお約束として深く考えないのだろうけど。
「ミキちゃんはぁ、カッコ良かったですかぁ?」
「そりゃもう。ステキでしたよ」
よっぽど、後輩として可愛がっているのだろうか。ミキちゃんの話をしている時のエルルちゃんは、目をキラキラさせていた。
「そうそう。今からその、ミキさんにあいさつに行ってもいいですか?」
勇者の落日の関係者には、一通り会っておきたいと希望を伝える。
「ミキちゃんでしたらぁ、ミハイルさんとスケートのレッスンだと思いますぅ。ご案内しますねぇ」
楽しげにスキップしていくエルルちゃん。
私も、どこか微笑ましく彼女を目で追いながら…後をついていくことにした。
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