第34話 穴掘り姫の招待状

【イベント】氷都市への誘い

ユッフィー・ヨルムンド(MP5-46310)              2018年6月30日


七夕まで、あと一週間。

もうすぐ夏本番ですわね。


そんな折、オーロラの見える極北の街「氷都市」から

思いがけなく、招待状を頂きました。

今回は少人数の募集となりますが、夏の避暑地観光をご一緒に楽しみたい方は

このスレッドで参加表明の上、出発日の7月8日(日)0:00までに

「睡眠に入っていてください」。


費用はかかりませんが、マキナや武装の持ち込みはできませんので

あしからず、ご了承くださいませ。


◆◇◆


「これでよし…と」


 ミリタリー・パレード(MP)社のPBWプレイバイウェブ、偽神戦争マキナの「小隊掲示板」。

 MMORPGなどでよくある「ギルド」、あるいはSNSの「コミュニティ」に相当する交流の場だ。


 先日、氷都市でアウロラ様と相談し。地球人の受け入れ体制を整えてもらう段取りがついたので、ゲーム仲間に募集をかけてみた。

 もちろん、夢渡りや氷都市のことを真面目に説明しても、誰も信じないだろう。

 だから、ゲーム内の自主企画イベントという体裁にさせてもらった。


 この募集スレッドをパソコンの画面に表示して、そのまま布団に入って寝れば。

 参加希望のフレンドを氷都市に夢召喚してくれるらしい。


 勘のいい人なら、気づいたかもしれないが。

 氷都市の人々が地球の情報を得るのに使っている「異世界テレビフリズスキャルヴ」では、地球のインターネットに直接接続できない。

 ただし、誰かのパソコンやスマホ画面を覗くことは可能…恐るべし千里眼。


 それと、もうひとつ特殊なことがある。


 地球のゲーム仲間が氷都市に夢召喚されるとき、その姿は彼らが「偽神戦争マキナ」で使っているキャラクターになる。そうなるように、頼んでおいた。

 これこそ、私の狙い。気まぐれな地球人に楽しんでもらいながら、勇者候補生として修練に励んでもらうための工夫だ。

 アバターボディは、もともと古の神々が「変身」を楽しむための娯楽用…あるいは変装用の身体。色々な種族に「なりきる」ためのエミュレータ機能が備わっている。これを活かさない手はない。


 私の誘いに応じるプレイヤーには、リアルでは一度も会ったことのないネットの友達もいるだろうから。お互い知っている持ちキャラの姿なら、すぐ打ち解けられる。

 そういう意味でも、アバターの持つ力は大きい。


 一度召喚されたら、ラスボスの魔王を倒すまで地球に帰れない。そんなありふれた異世界召喚ものとは、状況が違う。

 いつでも好きなときに、地球へ帰れるのだから。それこそRPGを遊ぶように彼らを楽しませてあげないと、協力を得るのは難しい。私はそう考えた。


 氷都市の事情を知り、善意で協力してもらうにしても。何の見返りも無くタダ働きというのは、おそらくアウロラ様がよしとしない。彼女はそういう女神様だ。


 掲示板上での、単なるなりきりチャットイベントかと思ったら。自分がマイキャラの姿になって、夢の中で異世界召喚である。さぞかし良いサプライズになるだろう。


 変身するのは、私も当然。案内人として、彼らの相手をするのだから。

 さきほど、私が掲示板上で演じていた「ユッフィー」という女の子。彼女が、私の持ちキャラだ。

 身長は、120cmちょっとしかない。ドワーフという設定だから、これでも成人。


 MP社のPBWでは、創業時の第一作からエルフは登場していたが。種族としてのドワーフは、五作目にして初登場。ドワーフ女性=ヒゲのないロリキャラという、近年の流行を取り入れた判断らしい。


 40代のおっさんが、こんな小さな女の子を演じるのは。PBWに限らず、日本のオンラインゲームではよくあること。逆にイケメンキャラは、中の人の女子率が高いのではという説もある。

 そもそも、私本来の姿で客人を出迎えたら…それだけで「帰る」と言われかねない。第一印象は大切だ。


 私自身、PBWの前身となるPBMプレイバイメールの時代から老若男女、様々な境遇のキャラクターを演じてきたが。ドワーフを演じるのは初の挑戦で、なかなか面白い。

 というのも、自分の素の性格が「ドワーフっぽい」と気づいたからだ。


 多くのファンタジーRPGでは、ドワーフは頑固でこだわりの強い気質だとされている。自身が目立つことは好まず、職人などの自分の選んだ道を黙々と究める。

 その姿は、自分が目立つことばかり追い求め。うわべを飾りたて、口からでまかせでプレイヤーを煙に巻くMP社の社長とは、正反対。


 だから、私がライバル視する彼と正反対のドワーフ像に好感を抱くのも早かった。


 最後にもう一度、掲示板をチェックする。

 すでに、付き合いのある友達が参加を表明してくれていて。


 この分なら、エルルちゃんからの宿題は果たせそうだ。

 いよいよ、本格的な冒険の始まりが見えてきた。

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