第36話 三人娘のコスプレ観光

「…重いわね」

「ちょっと、触らせて欲しいの♪」


 氷都市、アウロラ神殿の一室。


 新たに「夢召喚」された、イーノのゲーム仲間である三人の地球人たちは。

 彼らがMPミリタリー・パレード社のPBWプレイバイウェブ「偽神戦争マキナ」で使っているマイキャラそっくりに調整された、仮の身体アバターボディにはじめてその精神を宿していた。


 精神だけの異世界召喚。彼らの本当の身体は今、地球でぐっすりお休み中。だからこそ、こちらでは別の身体が必要になる。


「はわわぁ、みなさぁん」


 なんとも不思議な、奇妙なものを見るような心地で。エルルちゃんは、顔を赤くしながら三人の様子を見守っている。

 それもそのはず、三人の裸の女性がベッドから起き上がるなり…むにゅっ。

 自分のおっぱいの感触を確かめたり、予想外の重さに驚いたり。挙句の果てには、お互い触りっこをしているのだから。


「この手触り…作画の参考になるの」


 とある男女入れ替わりの大ヒットアニメ映画でも、こんな場面があったが。これはもう、永遠の定番シーンだろう。


「ユッフィーちゃん、視界が違うね!」


 私と同じ、ドワーフ族を模した低身長のアバターボディに入っている褐色肌の子が好奇心に目を輝かせて、周囲を見回すのが微笑ましくて。つい、笑みがこぼれる。


「…皆様、服はちゃんと着てくださいね?それでは、エルルさんの案内で市内観光へ参りましょう」


 もちろん、初めての身体で不慣れな点もあるだろう。私はエルルちゃんと一緒に彼女らの着付けを手伝い、試運転の準備運動なども丁寧に指導する。

 当然ながら、はじめは私も苦労した。女性向けの服は、構造から着方まで男性用のものとは大きく違う。それをエルルちゃんに教えてもらって、どうにか着替えもできるようになったのは最近のこと。


「我ながら、美しい…」

「衣服の構造も、絵を描く参考になるの」

「鏡を見るのもいいけどさ。早く、街に出ようよ!」


 彼女らを見ていると。私もなんだか、はじめて氷都市に来た頃のことが思い出されてくる。


◇◆◇


「そろそろ、夕方ですわ。氷都市は白夜の時期ですから、慣れないと時間の感覚がなくなってしまいますけど」


 古風な街並みと調和するよう配置された、木目調のデジタル時計(たぶん、紋章術で再現されたものだろう)を見上げながら。私は、ほっと胸をなでおろす。


「みなさぁん、おつかれさまでしたぁ。この後はぁ、わたしぃたちのなじみのお店で歓迎会ですぅ!」


 ウキウキした表情で、エルルちゃんが案内すれば。


「お酒飲めるの♪」

「あたしは、ジュースかな」

「氷都市のグルメ、楽しみね」


 長い一日だった。

 彼女ら三人は、幸い楽しく過ごしてくれたようで。あっという間に時間が過ぎたような様子だったが。

 ここに来るまでは、いろいろなことがあった。


 たとえば…道行く人の視線。

 思わず振り返る人を見たのも、一度や二度ではない。


「あたしたちさ、なんか注目されてない?」

「地球の衣装が、珍しいのでしょう」

「私を女神様と見間違えたかしら?」


 正確には、地球のゲームキャラのコスプレが。

 三人とも、そろいもそろって高露出。地球からは、一切のアイテムが持ち込めないので。「偽神戦争マキナ」での、三人のイラストを元に氷都市で用意された衣装だった。


「自分の描いた絵が、こうして衣装になってるのを見ると…感動ものじゃない♪」


 桃色の髪の豊満な美女が、肌もあらわな衣装で得意げにうなずく。彼女の地球での本職は、漫画家兼イラストレーター。いつもは、MP社の登録絵師としてプレイヤーからの依頼に応じ、キャラクターのイラストを受注・作成している立場だ。


 以前にクワンダから、紋章士の重要性を聞いていた私は。そのポジションに適任な知り合いの絵師さんに声をかけて、協力をあおいでいた。


「みなさぁん、そのぉ…大胆ですねぇ?」

 

 エルルちゃんが言うのも、理解できるから。


「氷都市が、紋章術による暖房設備の行き届いたドーム都市で良かったですわね」


 私もまた、相槌を打ってみせる。


 それから、氷都市の歴史がわかる「氷都歴史館」にも行った。

 もともとは、現在氷の迷宮と化している都市の遺跡「旧都・ローゼンブルク」に住んでいた人々が。大いなる冬フィンブルヴィンテルの到来以降、大災害から逃れて新たに「氷都・アイスブルク」を築き上げるまでの物語や。


 巨大なドーム都市の屋根で、どうやって降り積もった雪を溶かしているか。あるいは、都市の主なエネルギー源である「星霊力」をどうやって調達しているのかなど。

まさに「魔法都市」と呼べる異世界のテクノロジーに、三人は事あるごとに驚きの表情を見せていた。


 十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないと言うが。十分に体系化された魔法もまた、科学技術と見分けはつかないだろう。


 観光ツアーの途中で、ガウディ風建築が印象的な氷都市役所にも立ち寄ったから。ちゃっかり三人の「イーノファミリーへの加入届け」も提出している。


 あとは彼女らを、歓迎会の席でみんなに紹介するだけだ。

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