エピローグ3

物語の謎をもう一つ解いておこう。

それは、ケットシーがフェニックスを召喚してオーバーヒートした後、ずっと眠ったままになっていた理由について。


「僕たちのチカラの源はわかるよね。」

「想像力と創造力。」

思春期の少女の持つ夢のチカラ“想像力”と探求し知識を深めることで何かを作り出すチカラ“創造力”

「その通り。

僕たち召喚獣は生物からこれを貰うことで生きている。そして、理科世界と環境の違うこの現実世界ではより純度の高いエネルギーを直接貰うことで活動できるんだ。」


生物の異世界召喚の否定。

異世界の環境が地球と同じ重力、気圧、酸素濃度21パーセントを維持出来ているはずがない。

私が宇宙や海底、理科世界に簡単に行けない理由がこれだ。

召喚獣たちは使い魔というシステムでこれを可能にした。魔法契約者とは使い魔にとってダイビングにおける酸素ボンベのような存在というわけだ。


「ところがね、同じエネルギー源でもこのチカラは特性が違う。」

「特性?」

「君たち現代人が使う交流電源と直流電源で例えるとわかりやすいかな。」

「あぁ、なるほど。」


高出力で振動する電圧を瞬間的に発生させる交流電源。一定の電圧を長時間にわたって発生させる直流電源。この二つはどちらも一長一短あり現代社会でも混在し続けている。

発明王エジソンは直流電源で街灯設備を作った。稀代の天才発明家ニコラテスラは交流電源で電波送信を生み出した。

奇しくも彼らは同時代の人間だ。


「僕は春化に対して魔法少女と賢者の契約を二重に結んでいる。これは理科世界管理局に前例がない。スリープ状態から目覚めるのに使用するスターターでどうも噛み合わなくて。」

「なるほどね。」

ケットシーは現実世界でずっと夢のチカラを使用してきた。だけど、便宜上契約が残っているだけの私の魔法少女としてのエネルギーは現状ゼロに等しい。だから点火することが出来なかったというわけだ。


「だったら賢者の使い魔として目覚めれば良かったのに。」

「いや、それは出来ない。というか止められていたんだ。」

「どういうこと?」

「春化の賢者のチカラで目を覚まして、賢者のチカラで普段の活動をするとなると、魔法少女契約が不要になるでしょ。」

たしかに。

「これをすると春化との魔法少女契約が消えてしまうんだよ。」

「自動的に契約見直しされちゃうってこと?」

「うん。」

携帯電話二台持ちを勝手におまとめプランにされてしまう、みたいな感じか。お節介な話だ。


「眉唾モノだけど“救世主”との契約条件は理科世界的には残しておきたい。

そういう意図もあって、僕は契約を維持したまま目を覚ます必要があったのさ。」

「二重契約が救世主の条件なんですか?」

「いや、だから眉唾。救世主は召喚獣たちの中でも単なる伝説だから。ツチノコみたいなものだよ。」

「人を珍獣みたいに言うな!」


ただ、

魔法少女を八年も続けている、夏値。

魔法少女として契約をした少年、マサカズくん。

そして、私と同じく賢者、魔法少女の両方の資格を持ち上位召喚獣と契約をした茉理ちゃん。

私を含め、私の周りは魔法使い的にも特殊な人物が多い。


世の中には普通などと言う言葉は存在しない。


フェニックスがいつも言っていることだが、この状況で個々の違いを見る限り、たしかにそれを納得せざるを得ない気もする。


「ねぇ。二重契約イコール救世主であると定義づけられるのなら、茉理でもイケるってこと?」

「しません!」

茉理ちゃんは(いつもの反抗期で)即答するが、

システム上で可能かどうかという意味でなら答えはイエスだ。

「何?フェニックス、この上まだ新しいチカラが欲しいの?」

「違うわ。

私は救世主の伝説に興味があるだけ。

でも、マヂカちゃんの綱渡り戦術には手持ちのカードは多い方がいいんじゃないか、とも思って。」

「そりゃどうも。」

常に劣勢だから心配されている。大きなお世話だ。

「だから、私は契約しませんって!」


引っ掻き回した世界の秩序がこれからどうなるのか、大罪人カーバンクルの去就、召喚獣たちが口にする救世主の謎。

などなど、一般生活とは縁遠い問題は山積みだけど、明日からいよいよ七月だ。

それぞれの期末テストに向けて、理科世界とは距離を置こう。


こうしてこの場は御開きとなった。


ーーー

さて、以上で今回の物語は幕引きとなる。



だけど、私にはテスト勉強よりも大切な作業が残っている。

10族元素の鍵。

新たに認証された鍵のお試しをしておかないとね。ぐふふ。


「マヂカ。笑い方がヒロインから程遠いよ。」

「もう諦めた。」

私の周りはマジデやマツリといった正統派美少女キャラ、マサカの小さい男の子枠が包囲している。

“か弱くて清楚”が私の女子としてのウリだったけど、巻き起こる展開からしてこの路線をどうも進めてもらえそうにない。

だからいまさら何を取り繕う。私は英雄の路線で行くのだ。


魔法少女のコスチュームを身に纏い、右手を突き出し、意識を集中して化学式を組み立てる。

そして、


「マジカル、プラチナ(Pt)!!」


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魔法少女とマジカルマヂカ2 物理教と偽りの賢者 フクノトシユキと進学教室 @kinzoh-d

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