エピローグ2

さて本題。

「理科世界のことを知った一般人をどうするのか、だけど・・・。」

理科世界管理局は今忙しく、私が色々とやらかしたことの後始末を今回はしてくれないらしい。

「うーん。一般人ねぇ~。別にいいんじゃない?ほおっておいても。」

「そんなテキトーな。」

「いや、大丈夫だって。」


物理教の信者を始めとする一部の一般人が理科世界、チカラのことを知っていた。

彼らがそれを公表したとしても証明出来なければ、それは狂言として世間では映るだろう。パンディットという指導者を失った彼らはその証明部分が欠けているわけだから、私が偽ワイズマンにした処置と同じく、放置でオーケーだと思う。


「では、機械はどうしましょうか?」

壊れた反重力装置、それに市長の取り巻きが持っていた“物騒なモノ”を机の上に並べて夏値が言った。

どちらの機械も動く気配はない。おそらくこれは動力源が元素の鍵だった為と思われる。

パンディットの持っていた元素の鍵は私が回収したことで所有権が移り、管理局の権限が発動している。よって、これら機械へのエネルギー供給がストップしてしまったのだ。

「機械なんて動かなければ、ただの置物。」どこかでそんな話を聞いた気がする。


ちなみに“物騒なモノ”の正体を記述しておこう。

銃を連想した方もいるかもしれないが、これは警棒だ。マジデの電撃と同じ、テスラコイルを使用した電撃をまとった棒。サンダーロッドと名付ければ、なかなかそれなりに聞こえるだろうか。おそらくショックによる失神効果を狙ったモノだろう。


(注:スタンロッドという棒状のスタンガンが現実に存在しています。)


「まぁ春化が問題ないっていうんなら、それで良いか。」

結構適当にあしらったのだが、場を仕切っているのがケットシーなので、深く突っ込んでこない。カトブレパスならこうはいかなかっただろう。

「はい、次。」


「今回の首謀者である彼女の今後について。」

これがメインの議題。


賢者パンディットは正式な理科契約をしてチカラを得たわけではない。強大なチカラを持った一般人の記憶を簡単に消すわけにもいかないのだ。

もし仮に理科世界の記憶を彼女から消したとすれば、おそらくあの人は“記憶が消えた原因”を探る。そして最終的に理科世界のことに行き着く。それは公の場に魔法の存在が知らされることを意味するのだ。

だから、

一番良いのは“理科世界の記憶を持ったまま、黙っていてほしい。”これに尽きる。


「パンディット、いやもう賢者じゃないからその名は違うか。えぇーっと、

マダムサイエンスは今どこに?」

賢者でもないし市長でもない、マダムサイエンスの名前を当てるのも厳密にはもう違うのかもしれない。

「管理局の監視を振り切って行方不明になったわ。どうやったのか知らないけど。」

フェニックスが窓に差し込む夕日を見ながらそう言った。


自分のやりたかったことが失敗に終わり、色々と自暴自棄になっている。マダムサイエンスが魔法を公表するとなると、狂言では済まないだろう。

事件の後、市長としての後始末するた為にと、一時的に解放したのは失敗だったかな。

「参ったわね。」


思案する私たちの不安を断ち切るように、

「あの人は、たぶん大丈夫です。」

茉理ちゃんが言う。


この言葉は二種類の意味を持つ。

この先マダムサイエンスは管理局と敵対はしない。という意味と、あの人は生きていくのに、 一人でも大丈夫という意味だ。


あの人は良くも悪くもオトナなのだ。


「マダムサイエンスの行方は管理局が追うとして、僕たちがしないといけないのはとりあえずもうないってことかな。

うんうん。これにてお役目完了だね。」

「ちょっと待って!」

「何?」

「まだ一番重要なこと聞いてない!」

「一番重要なこと?」

今日、私が一番聞きたかったことがまだだ。それは、

「11族の鍵は?」

折れてしまった貨幣金属の鍵の件だ。


「まだ諦めてなかったの?」

「科学者はどんな可能性も諦めたりしない!」

「物欲丸出しで胸を張って言うセリフ?」

「何を言っているの。私は世界のことを心配しているだけよ。

元素が安定化するのは必要でしょ。」

茉理ちゃんとフェニックスが少し呆れ顔をしたのが見えたが、私は気づかなかったことにした。


「元素の鍵の修理に関してはまだ保留だよ。」

「くぬー。」

砕けてしまった鍵はカトブレパスが理科世界に持ち帰り、修理を試みる。そういう話だった。

ただ、私にとって誤算だったのは理科世界の召喚獣の中で鍵の修理を行えそうなのが、ヨルムガンドだったということだ。


今回の一件で、暴走したヨルムガンドは現実世界で打ち倒され、今も眠りについている。

だから茉理ちゃんがヤタガラスの目覚めを心待ちにしているのと同じぐらい、私はヨルムガンドを待っている。

いや、“世界の秩序のために”だよ。

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