真相編2

「じゃあ、今回の事件の核心を言うよ。

あのおばさん、マダムサイエンスは魔法使いであって魔法使いでない。」

「はぁ?物語の終盤でこれ以上、話をややこしくするのやめてくれる?」

「いや。あくまでも定義の話さ。

キミの心配している“賢者パンディットの使い魔”は存在しないということが言いたいんだ。」

「ど、どういう事?!使い魔なしで魔法を使えるとでもいうの?」

「もちろん、使えるよ。

キミ達が文明と呼ぶものは理科魔法そのものだからね。」

「あ。」

そうだった。理科とは魔法。運動エネルギーが熱を生み出す。熱エネルギーが電気を起こす。電気エネルギーが光を生み出す。

これらは科学の“当たり前”であるが、先人の賢者達が紐解いてきた人類の遺産だ。


「でもそうなると一般レベルの理科がどうして魔法使いと対等、いやそれ以上のチカラを持っていたのかという疑問に行き着くわ。」

「あぁゴメン。完全な一般人というのは正しくないね。訂正するよ。あのおばさんは“もう”魔法使いじゃない、が正しい表現かな。」

「もう?」

「おばさんは理科の責任を背負わない仮契約者だったのさ。」

「???」

ますますわからない。

それは賢者の理科責任と仮契約が初耳だったからだ。

「仮契約の存在はなんとなく理解できるけど、それをする意味がわからないわ。」

賢者にはデメリットがないから。私はそう考えた。

「賢者には魔法少女のような管理局の直接的な任務はない。でも賢者にもそれと変わる別の仕事があるんだ。」

「仕事?私、そんなのしたことないけど。」

「いやいや、キミにしてみれば息を吸うのや、瞬きをするのと同じようなモノだよ。」

「はぁ?回りくどい言い方はいらないからもっとストレートに言いなさいよ!」

比喩はもうたくさんだ。

「残念。これはボクの楽しみのひとつなのに。」

「私には苦痛でしかないわ。」

私のイヤミなど聞こえなかったかのようにカーバンクルはマイペースに話を続ける。

「賢者の仕事、それは真理の追求。

簡単に言うと理科に対する研究をする事さ。

ボク達も生き物だからね。慈善事業でチカラを貸すわけじゃない。

これはボク達の活動源の生産という重要な意味を持つんだ。」


召喚獣は現実世界で活動するため宿主からチカラを貰う。それは思春期の少女の持つ“想像力”、もしくは科学者が真理を求めて産み出す“創造力”である。

しかし、どうやらそれは使い魔に限ったことではないようだ。


人間はさまざまな自然環境を利用して自分たちの食糧を計画的に生産するが、召喚獣にとっては私たち人間が畑なのだ。


「召喚獣が人間を見捨てず、魔法少女や賢者を生み出し続けていた理由がそれってわけ?」

「そうだよ。

でなけりゃ害悪である人間がこの星でのうのうと生存できるわけないじゃないか。

キミたち人間族は理科のために生きているんだ。」

「・・・。」

理科の『おかげで』じゃない。

理科の『ために』生きている。か。

管理局が色々と内緒にしたいわけだわ。


そして、カーバンクルの話はようやく核心に入った。


「ある日、召喚獣ヨルムガンドはマダムサイエンスの理科に対する憎悪に気づかず、契約を持ちかけた。」

ヨルムガンド?!

ヤタガラスを追いかけていた際、乱入してきたヨルムガンドはパンディットに追われていた。

あれは単純に元素の鍵を狙っていたわけじゃなかったということか。


「仮契約をするおばさんの真意はその時はわからなかったから、賢者としての素質を期待して、チカラのアレコレ、理科世界の管理について、通常の契約では言わないような深い内容まで、熱心に説明をしたらしい。

そのことが裏目に出た。」

おそらく魔法のチカラが無くても、マダムサイエンスは理科の弾圧をなんらかの方法で行っただろう。しかし、そのもしもとは規模が違う。

ヨルムガンドはマダムサイエンスの理科に対する復讐心に燃料を注ぎ込んだのだ。


「余談だけど、この頃から物理教のシンボルにウロボロスが登場する。

コレはつまり・・・。」

「数学記号の無限大マークはウロボロスがモチーフである。つまりこれは理科との差別化。ヨルムガンドの派生であるという比喩ね。」

「ご明察。」

「マッタク、どんだけ比喩が好きなのよ。」

滅茶苦茶分かりにくいし。

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