3-5 作戦会議4
「では、夏値。例のモノを・・・。」
「春化さん、どうぞ。」
古風な風呂敷に包まれた棒状の物を取り出す。そして、テーブルの上で風呂敷を解き、中身をあらわにする。
「白い日傘。」
もちろんただの傘ではない。これはマジックアンブレラ、通称、生成する白い日傘。
賢者である私が、他の魔法少女の籠めたカートリッジで理科のチカラを使用することが出来る反則アイテムだ。考案者は私。
威力は折り紙つき。私が使う賢者としての理科よりも(魔法少女だった当時よりも)よっぽど強力なチカラを使用出来る。
ただ反則というだけあって、前回の一件以降、理科世界管理局に預けて、いや、取り上げられていたのである。
「今後はコレの使用を許可する。」
「あらら。随分アッサリと。」
「此度はチト相手がツワモノのようじゃからな。ハンデを埋めるためじゃ。」
「あはは。」
救世主たる私の期待値は下向きに修正されているようだ。
「ただ、これには弱点もあることがわかった。」
「弱点?」
「カートリッジに籠められているのは魔法少女のチカラ。それはヒトの想像力であり、時間とともに劣化します。」
「劣化・・・つまり、賞味期限ありってこと?」
いつか見た夢は、その瞬間のモノであって、その想いが永遠ではない。人間の意思のチカラ。
理論や知識で構成された賢者のソレとの違いはまさにそこだった。
だがそれでもやはり、私にとっては強力な武器である。
それに、
「マジデやマサカが近くにいる限り、補給線は申し分ないじゃない。」
さほど大きな問題にはなりそうにない。そう考えていたのだが・・・。
「いや、そうはいかぬ。」
「何よ?」
このやりとりを見て、申し訳なさそうに夏値が小さく手を挙げた。
「実は、私、明日から修学旅行でしばらくこの街には居ません。」
「えっ?!」
そうか、高校二年の六月。修学旅行のベストシーズンではある。(最近は訪問先の混雑状況を考えて、時期をズラしているという話も聞くが・・・。)
「ちなみに、どこに行くの?」
私の何気ない質問に対して、夏値は先ほどよりもワンランクアップした申し訳ない顔をする。
「フロリダです。」
「・・・。」
英語圏の中心部、アメリカと答えず、地域名を出したのは夏値の優しさだろうか?
(何を隠そう、私は英語が苦手なのだ。そんなことを知る由もない帰国子女の茉理ちゃんが、フロリダのオススメスポットを語る。)
「フロリダですか。あそこは宇宙センターや博物館があって楽しいと思います。」
世界一のテーマパークである“夢の国”の方ではなくソッチを推すあたり、この子も理科使いなのだとつくづく思う。
言語の壁さえなければ私も行ってみたいわ。
・・・とまぁ、そういうわけで夏値はしばらく不在。それに伴いエネルギー供給を受けられなくなるカトブレパスからの支援も期待出来ないということになる。相手の位置を特定するカトブレパスの特殊能力は正直言って惜しいんだけど。
「ちなみに、マサカは?」
「・・・小僧のチカラに頼るのはやめておけ。
今のところ魔法少女として状態は安定しておるが、あの子はチカラのコントロールがまだ上手くイカン。
じゃからそれが暴走の原因になりかねん。」
マジカルマサカは禁忌を犯して誕生した魔法少女の少年である。魔法少女のエネルギー源である夢のチカラは他の魔法使いを遥かに凌駕するが、何かを始めると常に全力、アクセル全開にする傾向にある。それは屈託のない子どもの長所であり、また危うさでもある。
「対処出来るオトナが近くにおる方が良い。」
「私は対処出来ないオトナなの?」
「・・・お主はほとんど火種じゃろ。」
「くっ・・・。」
言い返せないのが悔しいわ。
「じゃあ、茉理ちゃんに充填してもらうっていうのは?」
「わ、私?」
賢者としてヤタガラス、現在は魔法少女として上位召喚獣フェニックスと契約をする天才少女だ。そのポテンシャルにはやはり期待してしまう。
「それもやめておけ。」
「何で?」
この牛、何でもかんでも私の意見に反対なんだけど、第一次反抗期か何かなの?
「フェニックスを使い魔にすることの意味を考えれば、分かるじゃろう。
その子は相当、無理をしておる。顔には出さぬがな。」
「・・・。」
使い魔は契約者である魔法使いからの理科エネルギーを糧に現実世界で活動出来る。上位召喚獣はその能力の高さから消費量も多い。なるほど、理にかなっている。
マジカルマツリは存在するだけで既にそのチカラの多くを使っているのである。こりゃ、ピンチになるわけだ。
「じゃあ、使える弾はこれだけ?」
「今のところはの。」
ポシェットの中身は青と緑のカートリッジは六つずつ、合計十二発分ある。
十二発と聞くとそれなりの数に聞こえるが、このシステムは元素一つにつき、カートリッジを一つ消費する。例えばマジカル濃硫酸H2SO4を一回放つのには水素、酸素、硫黄の三つのカートリッジが必要となるのだ。
「少し心許ない気が・・・。」
だが、先ほどの鮮度の話を考慮すると、強敵を相手にするのに、武器性能はベストな状態でないと効果が薄い。つまり、今たくさんあっても意味がないのだ。
・・・なんだか、貯めておくことのできない交流電源みたい。
「まぁ仕方なかろう。それはもともと、公式で使用できるシロモノではないしの。」
「うっ。」
ソレを言われると痛い。文句を言ったところで、自分の評価を棚に上げた修行不足の賢者が悪いとなるし、これ以上は致し方ない。
「で、カトブレパスはどうするの、一緒に修学旅行?」
契約者たる夏値との間に距離の行動制限は無いが、何日も離れて過ごすのはエネルギー切れの心配がある。そうなると同行することを考えなければいけないが、他の生徒が大勢いる中で、(小型ながら)牛を隠し通すのは困難を極めると思う。
「ワシは一旦、理科世界に戻る。折れた鍵のこと、オーディンに報告して今後のことを決めておく必要がある。
それに、この寝坊助を起こさんといかんしの。」
心地よく寝息を立てる化け猫の頬をつついてそう言った。
「そう。」
ちなみにカトブレパスはアッチ(理科世界)とコッチ(現実世界)を頻繁に行き来しているが、上位召喚獣となるとこうはいかないらしい。フェニックスの召喚時にケットシーがオーバーヒートしたことからもわかるように、エネルギー量の大きいものを動かすにはそれなりのチカラが要る。例えるなら大型トラックよりも軽自動車のほうが小回りか効くのと同じ理屈が働く。つまり彼ら彼女らは上位を名乗るが、何かと不便なことも多いようだ。(まぁこれは物事に上下関係などない、あるのは単なる特性だけであるという私の持論の良い例だろう。)
「それじゃあ、茉理ちゃん。放課後は私とデートね。」
「・・・お断りです。」
このツンデレめ。
それはいつもの軽口だと受け流した私だったが、お断りされたのにはちょっとした理由があった。
「私はお姉さんと同じ大学に通ってはいますが、それは午前だけで、午後は付属校の授業を受けています。
付属校はここから少し距離があり、また、私の自宅は付属校の近くなんです。」
回りくどいが、なにが言いたいのかというと?
「帰宅後は宿題と家事があり、時間的な余裕がありません。」
「か、家事?」
「うちは父子家庭なんです。食事も洗濯も掃除も、父には任せておけませんから。」
「・・・。」
苦労人で天才で帰国子女。ちょっとこの子、キャラ立ち過ぎでしょ。
「それと休みの日はバレエのレッスンがありますので、あまり自由には動き回れないんです。」
だから、時間的余裕のある私はご勝手にどうぞ、と?
「・・・しょうがない。主人公は主人公らしく(?)地道なドサ回りしてますよー。」
クールなスタイリッシュ主人公が大半を占めるこの時代だが。足で稼ぐ捜査なんてのは、この作品そして私には合ってるのかもね。
「それじゃあ、茉理ちゃん。何かあったら連絡するから。」
「・・・不要です。」
茉理ちゃんはハンバーガーを食べ終え、自分のぶんのゴミを片付けて、スタスタとこの場を去っていった。これは彼女なりの“照れ隠し”だと思っておこう。
そういうわけで、私は単独でヨルムガンドの捜索、物理教、あとついでに写真のワイズマンの件を調査することになった。
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