3-3 作戦会議2

「ところで、カトブレパス。

“あの鍵”はどうなったの?」

「ん?」

あの鍵とは、もちろん砕けた11族元素の鍵。

修復に向けて何かしらの対策を見出すため、一縷の望みにかけて、破片を全て集めてカトブレパスに託していたのだが・・・

「ホレ、この通り。」

折れたまま。

「ぐふっ。」私の心に大ダメージ!

この現実が私の涙腺を刺激する。

「私の・・・私の11族が・・・。」

「いや、だからこれは別にお主のための元素では・・・。」

周囲の言葉は私の耳にはもはや届かない。心にぽっかりと穴が空いたような、それほどの喪失感がある。


大切なものは失った時に初めてそれを大切だと理解する。

砕け散った鍵の破片を握りしめ、私は一筋の涙を流した。


「・・・。」

「お姉さん・・・まったく。見苦しいですね。

仮にも主人公が物欲で涙を流さないでください。」

「だって、だって・・・

古代文明の黄金マスクを自作するという・・・。

宅配受け取りの認め印を金印にするという・・・。

電気製品へのはんだ付けを全部、金にかえるという・・・。

私の夢が潰(つい)えたわ。」

昔、国語の先生が言っていた気がする。人の夢と書いて儚(はかな)いと読むんだと。

「やれやれ・・・・。」

「そんなショウモナイ、夢の話をしておる場合か。」

カトブレパスの困り顔からも分かるが・・・

元素の鍵が砕け散ることは理科世界としても想定外の状況らしい。召喚獣の生き字引たるカトブレパスがお手上げでは、どうしようもない。

「今、世界の元素はどういう状態なの?」

元素の鍵はエネルギーの源であるが、それは現実世界の物質量を管理する門の鍵でもある。

暴走した召喚獣はここからチカラを吸い出しているのだが、門が開いたままだと物質の飽和に繋がる。

「ふむ。幸い、門は閉じておる。」

「そう。それは、良ッ・・・・・・くない!!

それじゃあ私の金銀財宝はどうなるのよ?!」

「金銀、財宝って・・・。」

「人類の即物的な事柄にワシらは何の興味も無い。

門が閉じておる以上、物質の流入流出は起こりえぬ。」

「そんな・・・。」

がっくりと肩を落とす私。

「じゃ、じゃあ、鍵を元どおりにするのは?」

「ふむ。それに関しては、理科世界に持ち帰って見てみんと分からぬのう。」

「・・・。」

私たちの暮らしと共にある、貴金属や宝石、資源と呼ぶもの全般は何千万年といった途方も無い時の中で構築された星の結晶。

元素の鍵はそれを生み出す奇跡の源である。そんなものが、簡単に元どおりにになるわけもない。

つまり状況としては・・・絶望的。

ある程度、予想していたけれど、この事実は結構堪えた。

「はぁーーーーーー。まぁしょうがないのかな。」

未練はあるが、長い長いため息とともに、私は11族に別れを告げた。



「お姉さんの欲望の話はもう結構です。

私は、ヨルムガンドの件についてどうするかを話し合いたいのですが。」

いやいや、茉理ちゃんの登場で途切れてしまったが、まだ重要なことを言っていない。


「そのことなんだけど・・・。」

私は、ここ数日考えていた言葉を勇気を持って口に出す。


「私はもう、魔法使いを辞めるわ。」


「えっ?」


「・・・ハァーーーッ?!」

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