2-13 ヤタガラス編21
思わぬ横槍が入ったが、
この場に残された私たちの状況を整理しよう。
ヤタガラスはヨルムガンドに噛み付かれ毒に侵された。その際に落ちてきた元素の鍵は今、私のポケットの中。
暴走の原因であるエネルギーの過剰供給をする鍵を物理的に引き離しは出来たが、所有権の上書きをする私の使い魔は眠ったまま。他人の使い魔で認証を得るのは不可能。だから、未だこの鍵の所有権はヤタガラスにある。
「カ、カァ・・・。」
フェニックスとの戦いの傷が癒えないまま、さらにヨルムガンドの毒に苦しむヤタガラス。その表情は暴走状態とは思えないほど冷静で、また何かに耐えるようにも見えた。
「お姉さん!元素の鍵は引き離しましたよね。」
「えっ?え、えぇ。」
何をする気?
私が次の行動を聞く前にマツリは、ヤタガラスにキスをしていた。
「!?」
手の込んだ作戦や戦術などは無い。それは目的を達成するためのシンプルな方法。
賢者としてはチカラを吸い取られている状況のはずだが、暴走する召喚獣の命の器に己のチカラを目一杯注ぎ込み、魔法契約の上書きを行おうというのだ。
「無茶よ!」
マツリから放たれた淡い青色の光はオーロラのように宙を揺らぎゆっくりとヤタガラスに流れ込んだ。
「ぐっ。」
奥歯を噛み締めて耐えるが、元々消耗の激しい賢者のチカラに、現状の魔法少女の分を合わせても、その量は焼け石に水だった。
それどころか・・・
「はぁはぁ・・・。」
息は荒くなり、顔は蒼白になっていく。
血流の持つ、運動エネルギーさえもチカラとして捧げている状況だ。
「このままだと、両方とも死んでしまうわ。」
フェニックスが少し焦った表情で私にそうい訴えかけた。
マツリからエネルギーを供給されているフェニックスにチカラが全く回っていないというのだ。(この状況は本来なら使い魔であるフェニックスに影響が出るが、上位召喚獣であるフェニックスは微々たるモノであるらしい。)
「マツリ、やめなさい!!」
「う、・・・うる、さい。」
こんな時にまで、頑固な・・・。
自己犠牲が英雄視されるのは、ヒーローの活躍する映画やドラマの世界だけ。
まして、この状況では粘ってもヤタガラスを救える見込みはありそうに無い。
だから私は、
「うっ!!」
半ば強引にマツリを引き剥がした。
「・・・。」
意識はあるようだが返事をする気力が無い、いや、私が止めに入ったことに納得がいっていない様子だった。
さて、どうしようか。
この状況を予測しなかった訳ではないのだが、急に回ってきた代打に私は何の準備も出来ていない。
ヤタガラスには生命維持をするための絶対的なエネルギーが足りていない。契約者であるマツリからの供給分では賄う事が出来ないほどである。とりあえず、これをなんとかしないといけない。
それを可能にするには・・・
「これしかないか。」
暴走の原因となった元素の鍵。
私はポケットの中のからそれを取り出した。
「何をするつもりじゃ?」
「鍵をヤタガラスに返す。」
「何?!」
何度も言うがこの鍵の所有権はまだヤタガラスのにある。
つまり、チカラを吸い上げることは可能なのだ。ただ、それは元素の鍵のバイオリズムと同調し、鍵を通じて理科世界からチカラが供給された場合の話である。
こればかりは運任せ。
「正気か?暴走の原因じゃぞ。」
「でも、上手くやればエネルギーは確保出来るわ。」
「むぅ。」
「マヂカちゃん。貴女、いつもこんな奇策で戦ってるの?」
「あいにく手持ちのカードが力量不足ばかりなもんでね。」
私は“いつものように”ニヤリと笑ってそう言う。すると、この台詞と仕草にフェニックスが目を輝かせていた。
「なるほど、救世主か。・・・」
「何か言った?」
「いいえ・・・何にも。」
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