「グランド・オペレーション」編

序章「王の思惑」

 男はひとり、窓すらない暗く静かな部屋で、少しばかり良質なオフィスチェアに背中を預けていた。

 傍からは暗闇で顔が見えない。笑っているのか、怒っているのか、無表情なのかすらも不明。ただひたすらに、不気味だ。


「…………」


 何か考え事をしていたのだろうか。男はしばし無言であった。部屋の静寂さが相まって、時間すら止まっているように感じる。

 が、突然男は目にも留まらぬ速さで懐へ手を伸ばし、拳銃を取り出す。そのまま碌に見もせず、いきなり自身の背後へ向けて発砲した!


 ――――四発。


「が、あ、ぁぁあああああ!?」

 これは撃った男の叫びではない。銃弾が向かった先の暗闇から、苦痛に耐える痛々しい声が轟いたのだ。

 同時に、得物らしき何かを落としたカランという金属音も響いた。


 撃った方は悠々と立ち上がり、うずくまっている襲撃者へ近付く。

「やぁ、おはよう」

 軽やかに、とても人を撃った後とは思えない陽気さで、彼は相手を見下ろした。


「いっ……た、つうぅ……ッ!?」

「どうやってここに紛れ込んだかは知らないけど、王さえ取れれば戦いが終わると思ったのかい? チェスじゃないんだから」

 腹、左脇腹、左肩、心臓を庇ったと思われる右腕に一発ずつ弾を受け、苦痛に悶える相手を平然と嘲笑う。いや、正確には笑っているかすら怪しい。


「くっ……げほっけほッ。い、いったい、何者でござるか……貴様は!? 気配を殺し、音も立てず、背後から素早く……ごはっ……切り込んだはず……!?」

「拳銃弾とはいえ四発も喰らっておいて、そこまで呂律が回るなんて驚きだね。、もしくは根性ってやつかな。殺すには惜しいね」


 彼はそう言い放ちつつ、襲撃者が落とした得物を拾い上げ、じっくりと眺めた。

 かなり業物の太刀だ。どんな職人に鍛えられたのか、触れただけでその並外れた硬さと切れ味が分かる。使い手によっては、合金すら断つことも可能だろう。


 しかし、彼は太刀への興味もそこそこに、何の脈略もなく襲撃者に問うた。

「ところで、君なら『彼ら』を知ってるんじゃないかな?」

 と、電子端末を取り出して画面をなぞる。すると、部屋の壁の一部にどこからか光が投影され、一枚の画像が映し出された。


 その画像には、五人組の男女が写っている。

 筋骨隆々で強面な青年。

 人形のような美貌の少女。

 頭には赤いバンダナ、手には太刀を持った兵士。

 対物ライフルを構えた美女。

 そして、並々ならぬ闘志を感じさせる若い日本人。


 個性豊かな連合軍兵士が、市街地で撮影者へ立ち向かっている様子だ。かなりの強敵が相手なのか、表情に余裕は一切感じられない。

「これ、は……!」

「ま、もちろん知っているよね。ひとりは、言うまでもなく君自身だし」

 それだけ言うと彼は、何も無い天井を眺めて物思いにふけった。


 少し前、この画像に写っている何人かを捕らえることができた。

 彼にとっては予期せぬ出来事だったが、一つの目的の為に利用することを考え、適当に理由付けして自分の元へ連行させようとしたことがある。

 しかしながら、捕らえた者達の執念深さ、裏切り、イレギュラーの介入によって頓挫。せっかくの好機が水の泡となった。


「…………」


 せっかく、『対象』の仲間を捕らえて取引の材料にできたのに。

 せっかく、『アイツ』と接触できる好機だったのに。

 今、虫の息であるコイツだけでは――――おそらく足りない。


「いつ会えるのかなぁ…………………………


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