終章「次なる戦いへと」

 さて、ケイが元気になったはいいが、問題が山積みなのは変わらない。

 ルカの件は元より、ワンリー=カルパティア会戦における仕事も疎かにできない。それを切り抜けたとして、休む間もなくカスピアンフォートレスへの大規模追撃戦が行われる予定だ。考えるだけで目が回る。


 戦い続けていれば、いずれルカを追い詰めることができるかもしれない。ただし、その時に彼を打ち負かす手段は皆無だ。

(というか、生きてルカに辿り着けるのか……?)

 もう何度も死にかけた。望む場所へ向かうには、命が幾つあっても足りないのが現状だった。


 せめて、立ちはだかる脅威を取り除き、道を切り開くことのできる圧倒的な力があれば――。


「よーーーーーーっす!」

 などと物思いにふけっていた時、唐突にテントの入り口がバサッと捲られ、長身揃いな三人の兵士が入り込んできた。

「…………って、若い奴らが辛気臭い顔して、いったい何を話してやがるんだ? 初体験をどうするかって話か?」

「大佐、デリカシーが無さすぎます」

「はっはっ、今更ですな」


 テンションが高いリーダー格の男と、冷静に毒を吐く女性。あと、呆れたように苦笑する黒人の大男。

「……だいたい、なぜあなた方が生きているんですか。しかも平然と」

 この三人組が絡んでくることを、実は分かりきっていたシンヤ。それどころか、親しい知人に会った感覚で接する。


 もう、誰なのかお分かりだろう。

「短い間だったが、楽しかったぜと言ったな――――あれは嘘だ」

 雪原を駆ける白狼を思わせる銀髪、背負った巨大な銃火器、並の兵士では比較にならないほどの覇気。この男は少し前、シンヤ達を逃がすため犠牲になったはずだった。


 国際統一連合軍歩兵大隊・通称ヴォルフ隊の大隊長にして、ソルジャーランキング第二位。

 単純な戦闘能力だけなら同一位のデイン・アーレイを上回るとされ、地上最強の兵士とまで云われる伝説級の存在。


 ヴォルフ・ガルシーロフ――彼は帰ってきていたのだ。この東アジア戦線へと!


 攻撃ヘリから悠々と降りてきた彼を見た時、自分は遂にイカれちまったのかと思った。

「死ぬ方が難しいくせに、よくもまぁ盛大に死亡フラグを建ててくれましたね」

 引き続き静かな毒を吐く女性は、もちろんシエラ・フール。隣にいるマイク・J・ガンスからは、「まぁまぁ」と軽く肩を叩かれている。


 シンヤ、マリア、レティシアは比較的慣れた光景であるが、他の者にとってはたまったもんじゃない。パルターやケイなど、ヘリから降りたところを一度見たにも関わらず、緊張のあまり固まっていた。

「すげぇ、本物だ……」

 そりゃそうだ。


 先の戦闘において、攻撃ヘリにはヴォルフが、大型輸送ヘリにはシエラやマイクらが乗っていて、ルカ撃退直後に再会したのだ。

 しかも、ツッコミ役のペール・バーナーを筆頭に、隊員約二十名も全員輸送ヘリに乗っており無事。負傷者こそ数名いたものの、敵地から帰還したとはまるで思えない。


 なんでも、敵地でシンヤ達を海軍に保護させた後、アトラスの追撃部隊を翻弄しまくって弾切れ燃料切れに追い込み、孤立状態にさせたらしい。とんだ超人バタリオンである。

 挙句、旧軍の航空基地に辿り着いてヘリを手に入れ、悠々と帰って来たところで騒ぎを聞きつけたそうな。いやもう、どこからツッコんでいいのやら。


 さらに言えばヴォルフは、対アトラス戦において足止め程度しかできないはずの攻撃ヘリで、新型機を初見攻略したことになる。

 地上のファントムアインをルカが警戒した可能性を差し引いても、ヴォルフの操縦技術と戦術は規格外だった。『自転車から戦闘機まで何でも乗りこなせる』という逸話はあれど、もはや乗りこなせるってレベルじゃない。


「まぁそんなことは置いといて、重大発表がある!」

「重大発表?」

「おう。なんと、俺様率いるヴォルフ隊を中心に、ゆかりのある兵を加えた、新しいコマンド部隊を編成することにした!」

「そうなんですか」

「なーにを他人事みたいな顔してんだ。お前らも当然、第一歩兵師団から引き抜くぞ」


 ふぅん、なるほど。………………え?


「その名も【ソールアルディーティ隊】ッ! 既存戦術に囚われず、敵の懐に強烈な痛打を叩き込んでやるんだぁぁあーーーーっ!」

「「「ええええええええええええーーーーーーーッ⁉」」」


 三年間にも及ぼうとしている、連合軍とウォリアーズ双方の信念をかけた世界大戦。

 連合軍が優勢となりつつある激動の中、戦場に新たな風が吹き込もうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます