4章「連合軍のやべーやつら」前半

(誰……だ?)

 こんな危機的状況に突然乱入してきた、あまりにも脳天気な声に、シンヤは目を回さずにはいられなかった。

 感情がないはずのホプリテス達ですらも、頭部の上に『?』が浮かんでいるように見えるほど。


 声がしたのは、シンヤ達を包囲しているホプリテスのさらに後方。

 そちらへ視線を向けると、そこには敵兵達と同じく私服に身を包んだ、三人の男女が佇んでいた。内訳は、男二人と女一人。


 男の方は、それぞれ大柄な黒人と長身の銀髪ロシア系。どちらも三十代後半くらいの、貫禄と余裕が見て取れる。さきほど緊張感のない台詞を吐いたのは、ロシア系の方だ。

 女の方はというと、他男二人と並ぶほどの長身美女。長いブロンドの髪は僅かに吹く風に乗り、芸術的と言っても過言ではない。察するに、この人がシエラだ。


 ――なんだろう。

(俺はどうしてか、この三人を。初対面のはずなのに……)

 ただでさえ場違いな乱入で面食らっているというのに、シンヤには三人を知っているという、意味不明な違和感が駆け巡っていた。


 いや、違和感を感じたのは、なにもシンヤだけではなかった。

 ホプリテスを刺激しないように、目だけを動かして周りを見てみると、マリアもユイもレティシアでさえも、彼と同じように困惑が困惑を喰らっていたのだ。

 やはり目の前にいる三人組は、只者ではない。そう確信できる。


「あー、こりゃ……面倒事みたいですぜ」

 そんなシンヤ達を差し置いて、黒人の男が雑に刈り上げている頭をポリポリと掻いた。

 誰がどう見ても、今の状況は面倒かつ渾沌カオスなのは明白だろうが、この場合は、予定になかったことを目の当たりにしての愚痴といったところか。

 それに対して、シエラという女性は落ち着いた様子で告げる。

「詳しいことは分かりません。しかしながら、どちらを援護すべきかは明白。そうですよね、大佐?」


 そしてもう一人。大佐と呼ばれたロシア系の男は、気だるそうにホプリテスの集団を見渡してから言った。

「ま、もとから全部潰す気で来てるしなぁ。それに、美少女を三人も前にしてスルーできるかっての。ガキの方は……おまけだけどな!」

 ツッコミどころ満載な台詞とともに、その男は背負っていたもの――ショットガンを手に取った。


 大抵の人はショットガンと聞いて、ポンプアクション式の物を思い浮かべるだろう。だが男が取り出した其れは、普通ではなかった。

 まず、銃はかなりの大型であり、ただでさえ長身である男の、腰上から足先までにもおよんでいた。

 そして、大きさもさることながら、最も目を引くのは、大量の弾を装填可能な。造形こそショットガンだが、これではまるでマシンガンだ。


 そんな訳の分からない銃を見て、マリアが突然、

「あっ、あれは……まさか、ルードショック⁉」

 信じられないといった様相で、ゲテモノ銃と男をせわしく見比べ始めた。

「うそやろ⁉」

「はぁ⁉」

 しまいには、銃の名を聞いたユイとレティシアも狼狽える始末。


 試作型機関散弾銃[ルードショック]。――シンヤも、噂レベルでなら存在を耳にしたことはあった。


 端的に言えば、フルオート射撃が可能なショットガン。国際統一連合軍創設後、ホプリテスに対する小火器の打撃力不足を懸念し、対アトラス兵器(今のヘヴィランサー)と同時期に開発が始まったという。

 なお、機関散弾銃というカテゴリー自体は、旧アメリカ軍をはじめ僅かながら確立されてきている。それも、散弾を連射するという荒々しいイメージとは裏腹に、意外にも低反動で扱い易かったりする。


 ……ただし、このルードショックは違う。


 第一に、小火器で対抗するには硬すぎるホプリテスを倒すため、連射速度をサブマシンガン並とも言える、毎分八〇〇発まで上げてしまったこと。ショットガンとは何だ?

 第二に、ほぼ同じ理由で長銃身化。もはや安定して撃つには、バイポッドを要するようになるという事態に。ショットガンとは以下略。

 トドメと言わんばかりに、これ以上の重量増加は小火器という根本的コンセプトから外れてしまうと、大した反動軽減機構を搭載できなかった。ショットガ略。


 このように、試作された本銃は(トチ狂った開発部によって)産業廃棄物の烙印を押されてしまい、絶大な火力を持ちながらも『乱れる衝撃ルードショック』という不名誉な称号を与えられたのだ。

 故に、現存するルードショックは、試作された一丁しかない。


 そしてその貴重な一丁は、しかマトモに扱えた例がなく、廃棄予定だったところを、勿体ないからと戦場に持ち出したらしい。

 ……では、目の前に現れた男は、なぜそんな馬鹿げた銃を持っているのか。


(ま、まさか……!)

 三人を知っている気がしたこと――――シエラという女性の名前――――ホプリテスに動じない余裕――――大佐――――ルードショックの使い手。

 シンヤの中で一つひとつ、答えのピースが埋まっていく。


「ひぃ……ふぅ……、一人につき五〜六体ってところか」

「楽勝ですね」

「はぁ、軽く言ってくれますな。自分は、二人と違って普通の人間だというのに」

「大佐に比べれば、シエラも普通の域です」

「かーっ、揃いも揃って人を怪物扱いしてくれちゃってさ! もう、八つ当たりしちゃうからなー!」

 そうこうしている内に、三人はホプリテスの集団へと歩みを進めている。


 一見おちゃらけているが、三人とも底知れぬ殺気を纏っているのを、シンヤ・ナカムラの兵士としての本能は察知していた。

(この感覚! ペキンで、はじめて戦車王に会った時と同じような……ッ)

 コイツらは、やばい! ただ歩いているだけで、ただ武器を手に取っただけで、そう全身が警告を発しているのだ。


 いや、それも当然だった。ようやく答えのピースが埋まったシンヤには、その理由が分かる。

(だって、彼らは――)

 しかしながら、シンヤの思考が答え合わせする前に、三人組が動いた。


 先陣を切ったのは、黒人の大男。特に武器などは持っていないようだが、ホプリテス相手に動じないどころか、むしろ絶対に負けないという自信すらうかがえる。

「ったく。ちっとも補給できてないから、あと一発か二発くらいしか撃てないってのに」

 などと愚痴をこぼしつつも、彼は両脚を大きく開いて体勢を安定させ、なぜか左腕をホプリテス達の方へと突き出した。


 その左腕は……なんと機械だった!


 間違いない。男の左腕は、肘から先の体組織が無く、代わりにメタリックな義手が付けられていた。

 それだけならばまだ、戦争のせいで腕を失い、義手を付けているということで納得できる。ただし、手のひらに位置する部分には、謎の『穴』が口を開けている――まるで、大砲の砲口のように。


「飛んで逝きな……!」

 さらに腰を低くし、明らかに何かを発射する構えに。そう、歩兵がロケットランチャーを撃つ時のような、重々しい射撃体勢へと。


 そして、義手の穴に一瞬だけ、光が集まったかと思うと――。

焼夷推進高速砲フレイムバーストッッ」

 一気に炎の塊が吹き出し、ホプリテス達を吹き飛ばしたのだ!


 火炎放射。義手から放たれたのは、まさしくそれだった。彼の左腕の義手は、超小型の兵器であったのだ。

 しかも、ただの火炎放射ではない。圧縮された液化燃料を一気に噴射して着火することにより、爆発的な『炎塊』を生み出していた。


 辺りは灼熱に満たされ、炎塊の破壊力をこれでもかと物語っている。ファントムアインの一六〇ミリ榴弾が着弾しようとも、ここまでの地獄絵図を描くことはできないであろう。

 吹き飛んだホプリテスは七体にもおよんでおり、うち三体は完全に機能を停止してしまっている。


「雑魚共が! 消え失せろや!」

 ――その男、国際統一連合軍ソルジャーランキング第二〇位。

 破壊兵器と化した左手で、立ちはだかるもの全てを滅する【ターミネーター】こと、マイク・J・ガンス少佐。


「「「――――ッ!?」」」

 唖然とするシンヤ達を他所に、今度はシエラという女性が優雅に躍り出る。

「ガンス少佐、ノルマ達成できませんでしたね」

「……だから自分は普通だと、何度言えば分かるんですかい?」

「ふふっ、まぁ穴埋めは致しますよ」

 そう軽やかに言う彼女は、マイク・J・ガンスと同様――いや、それ以上に落ち着いた様子で近づいてくる。

 生身の人間など、軽く捻り潰せるはずのホプリテスを、あたかも道端で揺れる雑草程度にしか見ていないようだ。


『キョウイヲニンシキ』

 ホプリテス達もナメられたままではいられないのか、シエラに対して左アームの重機関銃を向けた。

『ハイジョスル』

 それも、シンヤ達とは違い威嚇などではない。確実に標的を仕留めるべく、照準を合わせるや否や、一斉に射撃を開始してしまった。


 一発掠っただけでも、致命傷どころか肉片の集合体となり得る重機関銃弾の猛射が、シエラへ無慈悲に襲いかかる。

「伏せろぉおおーーっ!」

 無駄だと分かっていながらも、シンヤは叫んだ。

 彼の脳裏には、ペキンで四肢を飛ばされた兵士達のおぞましい姿がフラッシュバックしていた。こんな美女が同じ目に遭うなど、洒落にならない。


 ……だが、そのシエラという女性は、

「ふっ――」

 そんな過去の惨劇を嘲笑うかの如く、射線上から一瞬で姿を消した!

 弾幕はシエラがいた場所を虚しく通過し、背後にあったコンクリート壁を砕くのみ。


「消えた⁉」

「違う、消えたんじゃない!」

 シエラの行動を辛うじて追うことができたシンヤは、その光景に我が目を疑った。

 なんと彼女は、いつの間にか、ホプリテス達の頭上を『飛んで』いたのだ!


 目にも止まらぬ素早さで跳躍して弾幕を回避したかと思うと、そのまま新体操の自由演技ように、装甲兵の頭部を常人離れした速度且つ、最小限の接触回数で伝っていた。

 こんな芸当、決められた行動しかできないホプリテスはおろか、想定外の事態にも対処が可能な人間の兵士でも、反応できる訳がない。


「遅い、遅すぎるわ……」

 完全に置いてけぼり状態となっている敵を尻目に、彼女はシンヤ達の元へふわりと降りてきた。

「あ、あの――」

「悪いけど、お話しは後でね」

 何かを尋ねようとしたマリアを、そっと唇に人差し指を当てて制す。


 そうして面くらわせた後、傍らに落ちていた二丁のサブマシンガンを拾い上げた。見張りが持っていたものだ。

「いい銃ね。ちょうど武器が欲しかったの」

 まるで、ショッピングに来たかのような気軽さでサブマシンガンを弄り、慣れた手つきで安全装置を解除してしまう。

 そして大雑把に狙いをつけ、流れるように二丁ともフルオートで撃ち放った。

「喰らいなさい!」


 毎分七〇〇発を……二連。拳銃弾とはいえ一分の隙もないエネルギーが生み出され、津波の如くホプリテス達を襲って動きを止める。

 ただしこれだけでは、衝撃拡散装甲を纏ったホプリテスを倒すことなど、不可能に近い。連合軍では、アサルトライフルどころか、重火器の使用が推奨されるほどなのだから。


 だが次の瞬間、シエラの自信を裏付ける現象が起こった。

 突如、ババババッ! という鼓膜を切り裂く爆音と共に、文字どおり地面が炸裂したのだ!


「な……ッ!」

 地面炸裂という異常事態に対して、すぐにはシンヤも理解が追い付かなかった。しかし、炸裂の音を思い返した時、ようやくシエラが何をしたのか理解できた。

「大量の手榴弾⁉ まさか、奴らの上を飛んでいる最中にバラ撒いたってのか⁉」

 まさに驚愕の事実。弾幕を回避してサブマシンガンを手に入れに行っただけでなく、移動という業の中で、既に勝利を得ていたというわけだ。


 この一連の流れるような殲滅行動によって、八体が吹き飛んで行動不能となり、スパークを散らせながら地面に沈んだ。

 ……速い、そして強い。ただ、その一言に尽きる。


「所詮ホプリテス。遅れなどとりません」

 ――その女、国際統一連合軍ソルジャーランキング第三位。

 人間を超越した風のごとき立ち回りで、相手の認識を置き去りにして殲滅する。【疾風迅雷】こと、シエラ・フール少尉。


 ……残るは、この男。

「おい、ガラクタ共。なーにを余所見していやがる」

 最もヤバイ雰囲気を漂わせる、ルードショックを持った銀髪ロシア系男性。彼は不機嫌そうに、混乱から抜け出せない敵部隊の前にぬらりと進み出た。

「俺様を差し置いて、マイクやシエラにご執心とは……いい度胸だな」

 その圧倒的すぎる存在感は、シンヤ達はおろか、恐怖という概念が無いはずの、装甲兵ホプリテスすらも屈服せしめる。


 それでも、一体が右アームのパイルバンカーを振りかざし、無防備な男へと飛びかかった。

 火薬で打ち出される其れは、射程こそ短いが戦車の側面装甲くらいは貫く威力を持つ。当たれば、生身の人間など即死!


 だがそれを、

「遅い!」

 男は碌に易々と回避してしまった。

 ――いや、回避しただけではない。

「止まって見えるんだよ! 三下がぁぁあ!」

 なんと、態勢を崩したホプリテスへと掴みかかり、ルードショックを持った右手とは逆の手だけで……つまり左手だけで頭部を鷲掴みにしたのだ。

 掴んだ箇所からミシミシと嫌な音が響き、彼の悪魔的な握力を物語っている。


 そんな哀れな個体を助けるかのように、出遅れた残りのホプリテス達が、男へと重機関銃を向けようとする。

 しかし男は、重機関銃が完全に向けられるよりも速く、ホプリテスを鷲掴みにしたまま、敵部隊へと駆け出して急接近した。


(そんなバカな! たしかホプリテスは、武装含めて三〇〇キロ超の重量があるはずなのに!)

 現実とは思えない光景が、間違いなく目の前で繰り広げられている。アベルやレティシアも、単騎でホプリテスと渡り合う実力こそあるが、これとは次元が違うのだ。


 そして男は、「ウラァ!」と掴んだものを片手で振り回し、残るすべての個体を草刈りよろしくなぎ倒していく。

「蹂躙されてる……」

「こんな……現実が!」

 圧倒的としか表現できない。レッドオーガになすすべもなく全滅させられた、リュウの戦車中隊を見ているかのようだった。


「テメーらの末路は、既に決まっている! この俺様が、じきじきにブチのめす――真実はそれ一つだぁぁあッ!!」

 なぎ倒されて起き上がってこようとしている敵部隊に、彼はトドメとばかりに禁断の小火器ルードショックを向け、躊躇なくトリガーを絞った。


 その時の、連射と同時に発した掛け声が、これだ。

「ウラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ、ウラァァァァァァーーーーッッ!!」


 大声量の掛け声を伴って、毎分八〇〇発且つ高初速の散弾が、一挙に銃口から吐き出される。

 雷管が叩かれる度に、凄まじい反動が銃手を襲っているわけだが、彼はそれをものともせず、むしろ正確無比と言える弾幕乱舞を実現させていた。


 対して、銃撃を浴びせられた側はたまったものではない。

 衝撃拡散装甲は強引に削り剥がされ、腕部も脚部も頭部も絶大なエネルギーでもぎ取られ、しまいには地面ごとひっくり返される。

 そうして、ルードショックのドラムマガジンが空になる頃には、ただの金属片がシンヤ達の前に散乱するだけとなっていた。ホプリテスなんか、最初から存在しなかったかのように。


「へっ、女のスカートを捲るより簡単だな!」

 これほどの破壊劇を繰り広げた張本人は、余裕綽々で銃を担ぎなおした。

(やっぱり……この人は……この人達は!)

 シンヤの中で渦巻いていた推測が、確信へと変わった瞬間だった。


 ――その男、国際統一連合軍ソルジャーランキング第二位。

 普通の歩兵でありながら【汎用人型決戦兵器】【異能生存体】【連合軍のやべーやつ】など、七二通りもの異名を持つ地上最強の人間兵器。


 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、シモ・ヘイヘ、グンソー・フクダこと舩坂弘ふなさかひろし。今もなお『例外』『リアルチート』と称されている軍人に、彼もまた該当するだろう。

 また、自転車から戦闘機まで何でも乗りこなせるという噂まである。純粋な戦闘力だけでなく、全てにおいて、この男はまさしく規格外。

(まさか……こんなところで会えるなんて……!)


 彼の名は、ヴォルフ・ガルシーロフ。階級は大佐であり、連合軍歩兵大隊の元大隊長。


 ヴォルフ・ガルシーロフ、シエラ・フール、マイク・J・ガンス――彼ら三人は、名実共に世界最強の歩兵大隊と謳われながらも、半年前の東アジア戦線構築作戦で全滅したと思われていた、通称ヴォルフ隊の筆頭三人衆であったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます