「反撃への躍進」編

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序章「虐げられし者」

 猛烈な日差しと、じっとりとした多湿な気候が、立っているだけで体力を奪っていく。木々は青々としているが、それすらも鬱陶しくなるほどの暑さ。

 そんな場所に、ぽつりとある小さな集落。かつては農村として機能していたのだろうが、昨今の混乱により放置状態で人っ子一人いない――はずだった。


「なぁ、スケベしようや……」

「開幕から何を言っているんですか貴方は」


 廃屋となった家の塀に、二人の男女が背を預けていた。男性の方は三十代半ば、女性の方は二十代後半といったところで、傍から見れば美男美女のカップルである。


「はっ、冗談に決まってるだろ。んなことより……腹減ったなチクショー」

「そうですね。もう三日間、まともな栄養を摂取していませんからね……」

「どうする? また、何処かの集積所でも襲っちまうか?」

「はぁ、相変わらず短絡的ですね。ガンス少佐とバーナー曹長の胃痛が収まらないわけです」


「なーに、俺とお前が一緒なら敵なんか居ないって、それ一番言われてるから」

「…………このが、他の兵士より抜きんでいることは認めますが、アトラスと出くわしたら流石に苦戦は必死ですよ。それにシエラは、貴方と違ってまだ人間の域にいるので」

「おいおい、まるで俺が人間じゃないみたいな言い草だな!?」


「実際その通りでしょうに。……あ、集積所といえば、前回強奪した物資の中に、こんなものが混ざっていましたよ」

 女性の方がそう言って、おもむろにポケットからボロボロになった手帳を取り出す。

「んー? どれどれ……って、ただの古びた手帳じゃないか」

「肝心なのは中身です。見てください」


 そこには、以下の文章が書きなぐられていた。

《インド半島を舞台とするこの南アジア戦線は、雄大なアルプス・ヒマラヤ造山帯に北部を守られ、敵の侵攻ルートを大きく制限している。そのため連合軍上層部の大半は、南アジア方面軍が敗北するなど考えていないだろう。しかし、私の考えは違う。おそらく、南アジア戦線は長くは持たない。ブロントだって、同じことを考えているはずだ》


「なるほどな。今は亡き南アジア方面軍に所属していた兵士の手記ってところか。しっかし、ブロントってのはブロント・オースティンのことだろうが、あのジジイの知り合いか?」

「だとしたら、随分と親しい仲のようですね」


《そうなる前に奴らの正体と目的を突き止めたいのだが、一向に調査は進展しない。ブロントによると、捕虜への尋問は高い確率で何者かに阻止され、これまでに得られた情報は少ないという。明らかに、ただのテロリスト集団や反体制勢力ではない》


「奴らの正体と目的、か……」


《ここで一つ、個人的に気掛かりになっていることを記す。それは奴らの主力兵器の名称だ。私の記憶が正しければ、[アトラス]とは本来、ギリシア神話に登場する神アトラースのことをさしていたはずだ。巨躯を以て知られ、両腕と頭で天の蒼穹を支えるとされている》


「ふーん……」


《ではなぜ、数ある巨神の中でアトラースなのか。神話によると、アトラースが天の蒼穹を支えているのは、彼らティターン神族がゼウス達との戦いに敗れたのが原因だったはず。つまり、“虐げられている”という表現が当てはまる》


「「…………」」


《これは単なる偶然か、それとも何か意味があるのか。我が軍が今戦っている相手は、何者かに虐げられているとでもいうのだろうか。まぁ、そんなことをいくら考察しても、奴らの目的には辿り着けはしないだろう。私は奴らの正体を知ることなく、人知れずこの世から消え去ってしまうかもしれない。


――国際統一連合軍少佐 フェン・サントス》


「敵の正体を暴こうとした、連合軍将校がいたんですね」

「つーか、フェン・サントスって名前を、どこかで聞いた気がするんだが……誰だっけ」

「へぇ~、意外と情報通じゃないですか。伊達に大佐やっているわけじゃないんですね」

「ま、今は腹が減ってるから思い出せん! やっぱり集積所を襲いに行くぞオラァァ!」


「ちょ!? 待ってください大佐! せめてシエラとガンス少佐も一緒に――ああもう!」

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