パオトウ市周辺

3章「前へ!」

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ‼‼‼


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 鬨の声と共に、シンヤはトラックに据えられた重機関銃を乱射する。精密射撃など考えていない。ただ、立ちはだかる敵を圧倒し、動きを封じるのみ!

 大口径の銃弾は、まるで流星群のように敵陣へと降り注ぎ、着弾点を粉砕していく。それが制圧効果を生み、敵はトラックへの攻撃ができないでいた。


「いいぞ! シンヤ!」

「確実に敵の動きを抑えとるよ!」

「いける……いけるよ、シンヤ君!」

 仲間達の声が、シンヤを奮い立たせる。アドレナリンが全身を駆け巡り、高速の銃弾がスローモーションに見えるほどだ。


 周辺を走行中の他の車両も、シンヤ達の勢いに呼応するかのように弾幕を張り始めた。それがさらに制圧効果を高め、陣地にこもる敵を追い立てる。

「敵を完全に抑えた!」

「今のうちだ運転手、ギリギリまで接近しろ!」

「アイアイサー!」

 ガントラックがアクセル全開で荒野を爆走する。もう敵陣は目と鼻の先だ。まもなく開始される砲兵隊のダメ押しと同時に、町へと突入するのだ!


 そして、そのダメ押しの時間が来た。

「来たぞ! MLRSだ!」

 ライノが叫んだ直後、シンヤ達第一歩兵師団の頭上を無数のロケット弾が通過していった。後方に展開する砲兵隊が放った、MLRS(多連装ロケットシステム)の大群である。その弾頭数は計り知れず、連合軍の力を敵に思い知らせる。

「いっけえええ! 奴らを吹っ飛ばせーー!」

 兵士達の思いを乗せ、絶大な制圧力を持つロケット弾が、鼓膜を貫く爆音を奏でて破壊を生み出す。


 ガガァァァァガガガガアアアアアァァガガガガガンンンンッッ‼‼


 無慈悲に敵陣へと着弾していくロケット弾の大群。耕運機の如く余さず大地を耕し、逃げることも許さない。

 着弾点は大きく抉れ、わずかに陣地に残っていた敵戦力をも吹き飛ばしていた。

「よっしゃあ!」

 これで『道』はできた。もう、やるべきことは一つ。

「このまま町へ突っ込むぞおおおおお!」

 運転手が金切り声を上げ、トラックをフルスロットルで前進させる。

 時速八〇キロにまで達したトラックは、辛うじて原型を留めていたバリケードを派手に粉砕し、パオトウ市の舗装された道路へと突入した。


「ライノ分隊に続けー!」

「パオトウ市の指揮系統を分断するんだ!」

「ウラアアアアアアアアアアア!!」


 他の第一歩兵師団の車両も、シンヤ達に続いて町へ突入していく。

 しかしながら、当然敵も黙って迎え入れるわけではない。迎撃のため、建物の陰から続々とホプリテスや歩兵が現れ、こちらに武器を向けてきた。

「分隊長、どうします!?」

「……そんなの、決まっているだろ」

 ニヤリと笑い、アサルトライフルを構えるライノ。


「殲滅し、橋頭堡きょうとうほを確保する!」


 直後、乗っていたトラックが減速し、車体に纏った装甲を盾にするように停車した。他の車両も同様に停車し、敵の目の前に簡易的な要塞を形成したのだ。

 ……だがそれだけで、多数のホプリテスを擁する周辺の敵に打ち勝つのは無理だ。もっと、決定的な『優位』を――。


「全員、目をつむれ! 閃光手榴弾を投擲する!」


 ――これだ!

「……っ」

 その場に集結した連合軍兵士達は、一斉に目をつむった。

「おらぁ!」

 ほぼ同時に、何名かの兵士が閃光手榴弾を敵の目前に投げ放つ。


 カッ!


 数秒の間を起き、辺り一面を強烈な光が襲う! 光に加え高周波の音も広がり、敵部隊の動きが確実に止まった。

「今だ! 総員突撃ぃぃ!!」

 ライノ分隊を含めた、近辺の分隊を指揮する小隊長が、号令と共にトラックから飛び降りていった。


「続くぞ!」

「「「了解!」」」


 それに続くように、シンヤ達も荷台から一斉に降り、目を眩ませている敵集団へと容赦なく銃撃を浴びせる。

「撃て撃てぇ! 反撃の隙を与えるな!」

 パルターの軽機関銃による弾幕が敵を追い立て、ケイの超人じみた精密射撃で確実に仕留めていく。無論、他の隊員も負けてなどいない。一つ……また一つと脅威を排除する。


 しかし、その中でも特に群を抜いた活躍を見せていたのは、

「邪魔よ! 吹っ飛びなさい!」

「はぁぁぁ……ッ! 奥義・竜巻連斬ッ‼」

 近接ファイター、レティシアとアベルだった。二人は、反撃を恐れず敵集団奥深くへと突撃し、蹴り技と斬撃で無双ゲームの如く薙ぎ払っていたのだ。

 敵は誤射も恐れてみだりに発砲できず、斬られ、蹴られ、その数を減らしていく。


「やべぇよやべぇよ……。あの二人、いったい何者だよ⁉」

 シンヤの近くでライフルを撃っていた兵士が、怖れに近い表情を浮かべながら訊いてきた。

「……俺にも分からん。てか、アベルは奥義なんて持っていたのかよ」

 おそらく、あれがというやつなのだろう。ロベルトなどのソルジャーランキング上位者や、敵の『エース』と呼ばれる存在と同じだろう。

(いやはや、世界って広いなぁ)

 本当に平凡な兵士であるシンヤ・ナカムラは、他の兵士に紛れながら細々と敵を倒していく。


 何はともあれ、無謀かと思われた橋頭堡の確保は、戦術とイレギュラーの存在もあり、目前まで迫っていた。


 ***


「がははは! 第一歩兵師団の連中は、無事に町へ到達できたようだな!」

 ロベルト・クロスラインは、自身のファントムアインの操縦席で高笑いしていた。

 多数のアトラスと交戦しておきながら、疲れている様子は全くない。むしろ、余力を残していると言ってもいい。


「しっかし、俺の目から見ても無茶苦茶な作戦だぜ……。突入部隊には、ギリギリまで真の作戦内容を伏せておくなんてな」

 そう呟く彼に、操縦手の男が応じる。

『どう考えても、ノーランド中佐の独断ではありませんね。もっと上の力が働いているように思えます』

「さすがはプラースだ! 俺もそう思っていた」

 プラースと呼ばれた操縦手は、『どうも……』とだけ言った。いつもながら、非常に淡白な人物である。


(さて、突入部隊のことも心配ではあるが、こっちの問題も片づけないとな)

 険しい顔をするロベルト。というのも、順調に作戦が進行しているのはロベルトが参戦した箇所だけであり、他はあまり芳しい状況ではなかったのだ。

「…………」


 おかしい。


(確かにアトラスは強い。一六〇ミリの主砲を有するファントムアインであっても、一般的なキルレシオは三対一だ。俺の師だったマイリー・ボングも、真っ向からの殴り合いは避けていたほどに強大だ)

 ――それでも、

(この戦力差があって、なぜ他の箇所も突破口を開けない? 満足な航空支援も得られているはずなのに)


 そう、情報によれば、パオトウを守っている敵戦力は、この戦いに参加している連合軍の五分の一以下である。単純に考えても、アトラスに対して二倍近い優位を得られているはずだ。

 にも関わらず、届いてくる情報は喜べない物ばかり。むしろ、戦車隊の損害が増えているようだ。


「なんだ? 何が起きて――」

 そこで、ロベルトの思考は途切れた。すぐ近くを走行中だった友軍のファントムアインが、だ!

「な……!」

 いや、全く前触れが無かったわけではない。ロベルトの耳は確かに捉えていた、超高速で飛翔する砲弾の音を。

 これが何を意味するか、彼は瞬時に理解した。


(狙撃⁉ アトラスの主兵装の一つである、一〇五ミリライフルによる狙撃か!)

 アトラスの装備の一つ、一〇五ミリライフル。近距離~中距離戦での相性がいい武装が多いアトラスにおいて、数少ない遠距離戦向けの武装である。

 ただし、使い勝手が悪いのか、装備している機体の目撃例はあまり多くない。


『うわああああああ!』

『ど、どうし――ぎゃあああ!』

『ひ、被弾した! 被弾した!』


 さらに三両が被弾。うち二両が大破した。

(このままでは被害が拡大し続ける! 狙撃の主はどこだ……)

 さきほどの飛翔音を頼りに、弾道を目で追っていく。もっと……もっと敵陣奥深く。

 そして、導き出された答えは衝撃的なものだった。

「……っ! まさか、町の中から撃ってきたのか⁉ この距離を、一発も外さずに⁉」

 そう、砲弾はロベルトが開けた突破口のさらに向こう側。つまりパオトウ市街から飛んできたのだ。その距離、二〇キロ以上!

『まずいですね……』

 操縦手であるプラースの顔が、若干ながら青ざめている。

「ああ、まずいなこれは」

 さすがのロベルトも、操縦桿を握る手に力が籠った。


「あの町に、エース機が潜んでいやがる!」

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