6章「ペキン防衛戦、開幕」

「東アジア戦線の要衝ペキン……諜報によれば、五万の兵が駐屯している。無策で挑めば、アトラスがあろうと我々もただでは済まない。よって、無人兵器による戦力の分断が必要だ」


「あぁ、そうだな」


「……まぁ、お前が出ればそんな小細工は要らなくなるかもしれないな」


「……確かに私はエース呼ばわりされているが、あまりアテにしないほうがいい。ブルーイーターの二の舞を演じたくはない」


「そうか、すまなかった。なんにせよ、ペキン攻略の後詰めは任せたぞ。[ホワイトレイヴン]よ」


「分かっている。最低限の仕事はしてみせよう」


 ***


「全員、武器を構えろ。おそらく、これはただの空襲じゃない!」

 切迫した表情で叫ぶライノ。その直後、真上を飛んでいたフライクロウが『なにか』を落としてきた。


 その『なにか』は、しばらく速度を増しながら地面へと迫っていたかと思うと、突然パラシュートを展開して減速し、アスファルトを貫いて近くの地面に突き刺さった。

「ぎゃあああああ‼」

 反応が遅れた兵士の一人が、衝撃波によって吹き飛ばされた。


「不発弾!?」

 いや違う。それは、黒くて太い柱のようだった。長さは四メートルほど。大柄な大人が四~五人はすっぽりと収まりそうな太さだ。

「爆弾じゃない。もっとタチが悪いぞ、こいつは」

 パルターが軽機関銃を構えながら呻く。

「パルターっちの言う通り、これは[ホプリテスポッド]だ!」

「ホプリテスポッド⁉ じゃあ、この中にいるのは――」

 シンヤが言いかけた直後、柱の側面がゆっくりと開いた。そして、中からは姿を現す。


 [装甲兵ホプリテス]。全高二・五メートル。分隊一の体躯を誇るパルターを遥かに超える其れは、二本のアームと二本の脚を持つ、無人二足歩行ロボットだった。アトラスのような完全な人型ではなく、挙動は『機械兵器』そのもの。それでも、二・五メートルの体躯が生み出す圧力は、無意識に兵士達を後ずさりさせた。


「ひ……ひぃぃぃ!」

「なんでピンポイントで降ってくるのよっ」

「恐れるな! 勝てない相手ではない!」

「陣形を整えろ! それと、他の地区の味方と連絡を密にせよ!」

 突然の敵襲に、動揺を隠せない連合軍の兵士達。それでも、混乱は最小限に抑え、いつでも攻撃に移れる態勢を作る。


《…………》

《…………》

《…………》

《…………》

 ホプリテスポッドから出てきたホプリテスは、四体。彼らは、人間でいう頭部に装備されたカメラで、自身に銃を向けている兵士達を見回した。

(こいつがホプリテス……っ! 訓練中に何度か資料を見せられたけど、実際に見るとマジででかい!)

 アサルトライフルを構えつつも、シンヤは恐怖に押されてじりじりと後ずさる。一週間前には、全高二〇メートルのアトラスと対峙していたが、それとはまた違う恐怖感だ。


 そして、数秒の睨みあいの末、ホプリテスが動いた!

『キョウイヲニンシキシマシタ』

『セイアツコウドウヲカイシシマス』

 特徴的な電子音。その内容が意味することは明らかだった。左肩から伸びるアームを動かし、目の前の兵士達にその先を向ける。そこには、があった。


「全員隠れろおおおおお‼」

 ライノが叫ぶ。

 次の瞬間、展開した兵士達を無数の光弾が襲った。


「がああああああああ!」

「ああああああああああああああああ!」


 二人の兵士が切り刻まれ、四肢が宙を舞う。そして、遅れて聞こえる断続的な炸裂音。ホプリテスが発砲したのだ。

「くそ! この威力、重機関銃か!」

「ちょっとやそっとの遮蔽物じゃ貫通するぞ! 俺っちの分隊は、このトラックに隠れろ!」

 とっさに近くにあった軍用トラックの陰に逃げ込んで、ライノ分隊は事なきを得た。取り敢えず、六人全員生きている。


「どうします⁉ 状況はあまり良くないようですが!」

 マリアが、車体に当たる銃弾の音に顔をしかめながら叫ぶ。もはや生きた心地がしない。

「……不幸にも、俺っち達は奴らに対抗できるような重火器を持っていない。周りにいる他の分隊なら、多少は持っていたはずだ」

 ライノも顔をしかめながら言う。アトラス程ではないが、ホプリテスもまた、衝撃拡散装甲を纏っているため、小火器では効果が低いのだ。

 だがライノに対し、ケイが意見する。

「でも、周りの建物に隠れている他の分隊も動けなさそう。期待はできないわね」


「くっ、増援を待つべきか。でもなぁ……」

 ライノは上空を見上げた。そこでは、今もなおフライクロウと連合空軍の激しい戦闘が繰り広げられており、ホプリテスポッドも続々と投下されていた。

「ちっ、他の地区もやばそうだな。増援もあまり期待しない方がよさそうだ。……シンヤっち、航空支援は?」

「要請はしているんですけど、航空優勢が取れていないみたいで……」

 実は先ほどから、後方司令部に通信していたシンヤが呻いた。上空でドンパチやっている中、足の遅い攻撃機など出せないのだ。


「じゃあ、ここにいる面子だけで何とかするしかないじゃんよ。また次のホプリテスポッドが降ってこないとも限らないから、このまま睨みあいをするわけにもいかない」

 とは言ったものの、ホプリテスからの制圧射撃を受けている現状、トラックの陰から少しでも身を出せば、途端に体をバラバラにされてしまう。


「ちっくしょう。せめて奴らのカメラを潰せれば、索敵がセンサーに移行する一瞬の隙をついて袋叩きにできるのに……」

 ライノが呻く。だが現実問題、制圧射撃下でそんな芸当ができるわけが――、


「あ、なぁんだ。そんなのお安い御用よ?」

 ――あった。すまし顔で答えたのは、ケイ・ラシェールだった。


「えっ」

「ふぁっ⁉」

「えー!」

 思わず素っ頓狂な声を出すライノ、シンヤ、マリアの三人。


「だ か ら、ホプリテスのカメラを壊せばいいんでしょ。簡単よ」

 そう言うと、ケイは今まで背負っていた武器を初めて手に取った。アサルトライフルに比べて遥かに長い銃身、高倍率のスコープ。俗にいうスナイパーライフルだ。

「狙撃で……? いや駄目だ! こんな制圧射撃下ではまともに狙えない! たとえ離れた所から撃ったとしても、位置がばれた途端にケイっちがバラバラにされる! そんなことは駄目だ!」

 必死の形相でケイを制すライノ。彼の言い分は最もだった。


 ……にも関わらず、ケイはあくまですまし顔で応える。

「心配には及ばないわ。ここに隠れたまま、

「「「…………」」」

 ……さらりと、とんでもない台詞を聞いた気がする。


「いやいやいや――」

 シンヤがツッコミを入れようとした。だが、それを今まで黙っていたユイが遮った。

「ケイ姐さんならやれます! 一緒に南防衛線にいたから分かるとですが、姐さんの射撃の腕は、本当にすごかとですから!」

 まるで英雄を称えるように熱弁するユイ。さらに、何やらケイと因縁があるパルターまでもが肯定した。

「ああ、ケイならやれるだろうな。実際に射撃を見たことはねぇが、こいつは冗談抜きでだ。少なくとも昔はそうだった」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない?」

「うるせー! 言っとくが、俺はお前を許したわけじゃないからな!」

 まだ付き合いの浅いユイはともかく、パルターまでもが肯定するのならば、このケイ・ラシェールという女は、本当に跳弾でホプリテスのカメラを破壊できるのだろう。


「分かった。俺もケイさんに賭けたい」

 シンヤは力強く頷いた。

「……そこまで言うなら、やってみるか……?」

 分隊長であるライノの顔はまだ渋いが、取り敢えずは了承したようだ。

「ただし、身動きができないでいる他の分隊との連携も必須だ。シンヤっち、頼めるか?」

「はい!」

 シンヤは頷き、通信機に呼び掛ける。


「こちらライノ分隊。現在、トラックの陰に隠れている。周辺の分隊は応答願う! オーバー」

 少し間をおいて、返事が来た。

『英雄の分隊か! こちらは、貴官らの二時方向にある建物の中にいる。グレネードランチャーがあるが、身動きができない! オーバー』

『一〇時方向にある廃車の陰だ。制圧射撃を受け、思うように無反動砲を撃てない。オーバー』

 どうやら、シンヤ達の分隊を含め、三個分隊がホプリテスを囲うように隠れているようだ。


「不幸中の幸いか、結構良い布陣だな。続けてくれ、シンヤっち」

 ライノの指示を受け、シンヤは通信機を介して他の分隊に状況を説明する。自分達がホプリテスのカメラを破壊すること、索敵がセンサーに切り替わる隙をついて一気に叩いて欲しいということ。

『は? カメラを壊すって、この状況でどう……いや、君達を信じる! オーバー』

『タイミングは任せる。合図をくれ。オーバー』


 両分隊の了承も得た。あとは実行に移すのみ。

「……じゃあケイっち、やってくれ」

「はい」

 頷き、流れるような手つきでスナイパーライフルを構えるケイ。その照準の先にあるのは、近くにそびえる建物の壁。


「ふうぅぅぅううう……」

 一度、深く息を吐く。そして、

「――――っ!」

 タァン! と、スナイパーライフルの銃口からライフル弾が撃ち出された。弾丸は空を切り裂き、絶妙な進入角度で壁へと迫る。

 ――キンッ!

 予定通り跳弾した弾丸は、シンヤ達が身を隠すトラックを迂回するように、目標へと迷うことなく向かって行く。

《…………》

 ホプリテスは制圧射撃を続けている。そこへ飛び込む、一筋の光。


 ――パリン。


(マジか)

 パルターやユイの言ったとおりだった。ケイの射撃は、機械仕掛けの如き精密さで、一体のホプリテスのカメラを破壊した!

「まだ!」

 ケイは、続けて三発の弾丸を撃ち込んだ。それも同じように壁で跳弾し、針の穴を通すような軌道で、再び三つのカメラを貫いた。


 ホプリテスの動きが、止まる。

「今よ!」

「シンヤっち!」

「全分隊、攻撃開始! 繰り返します! 全分隊、攻撃開始! オーバー!」

 シンヤが通信機に向かって叫ぶ。それと同時に、隠れていた二つの分隊が姿を現す。


「おらああああああ!」

ぇーー!」

 撃ち放たれるグレネードランチャーと無反動砲。少し間をおいて、巻き起こる破壊の渦。


『ピー……ガー……』

 猛烈な熱線と爆風が、ホプリテスのモジュールを吹き飛ばし、無力化する。

「今だ! 俺っち達も出るぞ! 畳みかけるんだ!」

 そんな中、ライノが率先してトラックの陰から飛び出し、アサルトライフルの弾丸を浴びせる。

「分隊長を援護するぞ!」

「おう!」

「うん!」

 それに続くように、シンヤ、パルター、マリアの三人が突撃し、ホプリテスを追撃する。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ!!


 断続的に火を噴くアサルトライフルと軽機関銃によって、ホプリテスのパーツがさらに削り取られる。

『……ガー……キョウイヲ……ガー……』

「一機撃破!」

 遂に一体が行動不能になった。さらに一体、もう一体と動かなくなる。

「あと一機だ!」

「このまま押しつぶせ!」

「なぶり殺しにしてやるっ!」

 四方八方から浴びせられる弾丸の雨。大半は衝撃拡散装甲によって弾かれているが、着実にホプリテスを行動不能へと追い込む。

『ピー……ピー……』

 もはや、勝利が目前であることは、誰の目にも明らかであった。


「あと、少し!」

 空になったアサルトライフルの弾倉を交換するシンヤ。一瞬だけ、攻撃に隙が出来た。

 ――そう、本当に一瞬だったのだ。


『ガー……ガー……キョウイキョウイキョウイ‼』

「「「―――ッ⁉」」」

 突然、ホプリテスが暴れ出した。アームをばたつかせ、驚き慌てるシンヤに瞬く間に接近したのだ。

「おい、やばいぞ! 離れろシンヤっち!」

「シンヤ君! 逃げて!」

「ケイ! ホプリテスを撃って止めろ!」

「やってるよ! でも止まらないの!」

「シンヤさん!」

 仲間の援護射撃もむなしく、ホプリテスはシンヤの眼前に迫り、右肩から伸びるアームを振りかざした。


(やばい……!)

 とっさに、アサルトライフルを盾にしてガードを試みるシンヤ。だが、アームに装備された武器を見て、無駄であることを悟った。

「パイルバンカー⁉」

 右アームに装備されていたのは、数多のロボット創作物で使われた架空近接武器[パイルバンカー]だった。炸薬で巨大な杭を打ち出し、標的を粉々にする凶悪な武器。


(こんなの、防げねぇ!)

 ひとたび杭が射出されれば、アサルトライフルごと体がはじけ飛んでしまう! まさに絶体絶命だったのだ。

「く……そ……」

 思わず目をつむろうとした、その時だった。


「遅くなったでござる!」

「はああああああ‼」

「そこをどいてー!」


 突如戦場に響き渡る、二人の男と一人の女の声。

「えっ」

 次の瞬間、シンヤに迫っていたホプリテスが吹き飛んだ!

『ガガー……ピー』

 吹き飛んだホプリテスは、数メートルほど後方に落下し、そのまま動かなくなった。


「……いったい、何が……」

 わけがわからず、目を回すシンヤ。今までホプリテスがいた場所には、三人の見知らぬ兵士が立っている。とりあえず、この人たちに救われたということは理解できた。

「おお、やっと来たか! おかげで助かったぜ!」

 歓喜するライノの声が聞こえる。

(やっと来た? と、いうことは)

 もう一度、乱入してきた三人の兵士を見る。男性二人と女性一人で、三人ともシンヤと同じくらい若く見える。


「ふぅ、間に合った。それにしても、慣れないことはするもんじゃありませんね」

 一人はショットガンを持った青年で、背もそこそこ高くてイケメン。


「間一髪、でござるな。小生の[風斬ふうじん]も喜んでおる」

 もう一人の男性兵士は、ヘルメットの代わりに、頭に真っ赤なバンダナを巻いた青年。その右手に携えている武器は――。

⁉)

 わけがわからないよ。バンダナの青年が持っているのは、間違いなく本物の日本刀だ。服装は連合軍の戦闘服であるし、日本人でもない。


「ふんっ、ホプリテス如き、さっさと片付けなさいよねっ。蹴った脚が痛いんですけど」

 残る女性兵士は、長い赤髪をサイドテールにして右側に纏めている、凛とした雰囲気の美少女だった。その胸は平坦である。

 しかしながら、武器と言えるものはほとんど身に着けておらず、かなりの軽装であった。噂に聞く格闘特化の兵士だろうか。


「大丈夫でござるか?」

 バンダナの青年が声をかけてくる。何故ござる口調なんですか。

「あ、はい。おかげで助かりました。もしかして、あなたたちが……」

「おっと、紹介が遅れたでござるな。小生はアベル・グラントス上等兵。ソウルより召集を受けて参上した。これからよろしくお願い致す!」

 やっぱりそうだ。彼らが、同じライノ分隊の仲間となる、ソウルからの補充組なのだ。


「……前から思ってたんだけど、その古風な喋り方何とかならないの? サムライに憧れているのは分かるけどさぁ。あ、私はレティシア・テイル。階級は一等兵。まぁ、よろしく」

 赤髪サイドテールこと、レティシア・テイルはつっけんどんな態度だった。


「僕はルカ・クロード技術少尉。一応、工兵をやっています」

 丁寧口調な彼は、ショットガンを持っていたイケメンだ。……ん?

「「「技術少尉ぃぃ⁉」」」

 ルカの階級に驚愕する面々。無理もない。少尉といえば、分隊長であるライノの三等軍曹よりも遥かに上だからだ。しかも、かなり若いのに。

「え、なんで皆驚いているんですか」

「あー、言ってなかったな。ルカっちの所属は技術部なんだ。前線での扱いは伍長相当だけどな」

 そんな大事なことは早く言えや。

「ははは……。良いものを作るには、現場を知るのが手っ取り早いですから。それに、足を引っ張るつもりもありません」

 自信ありげに言うルカ。さきほどの活躍を見せられれば、肩書きだけの男ではないと頷ける。


「っていうか、よく分からなかったんだが、どうやってシンヤを助けたんだ?」

「小生がこの日本刀[風斬]でパイルバンカーを払いのけた後、ルカ殿がショットガンで、レティシア殿が蹴り技でホプリテスを吹き飛ばしたのでござるよ。いやはや、お二人とも見事なり」

「だからその喋り方――」

 レティシアが言いかけた、その時、


『救援を乞う! 救援を乞う! 我、大通りにてアトラスの大部隊と交戦中! うち一機はエース機と思われる! ……だ、誰でもいい! 助けてくれぇーー‼』


 この通信が、ようやく全員揃ったライノ分隊を、新たな戦いへと駆り立てる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます