第44話 虚勢の黄色

「いえ、殺ったのは百田です」


「うん、言葉を変えよう。……暮内くれうちくん、イかせた?」


「ええ、助けたのは僕です。でも、生きるか死ぬかは先生次第で……」


「まあ、そだね、彼女、イっちゃったから」


「レツさん、逝っちゃったんですか!?」


「ああ、そうだ。それもかなり激しく。相当なものだったらしい」


「えーと、医学用語?」


「君は何を言ってるんだ?」


「先生こそ、わかりやすく」


「……ふぅむ、簡単に言えば、極度のエクスタシー状態ってところだ。快感の極限に達して、精根が尽きている」


「エクスタシー?」


「あら、わからない? 保健体育でならったでしょ? 性的絶頂、子宮の有頂天、性感帯の歓天喜地。……アクメ、オルガスムの方がわかりいいか。性的刺激による鬱血と緊張からの解放によって引き起こされる快感と伴った生理現象のことだ。俗にイく。英語とだとComingだね」


「は、はあ」


「童貞には難しいか」


「ど、どど、ど、童貞なはずありますか! ありますまい・反語! お、女なんて抱いては捨て、抱いては捨て……あー、今日も右手がバルトリン腺液臭いなあ。こ、困るよなー、手の平もふにゃふにゃだよー。で、でも、まあ、ぷ、プロフェッショナルですけぇ! そそそ、それで、お金もらってますさかい。よ、嫁と子供育ててますよってん」


「あそう」


「そ、そっす!! ヤリ本ステ男が僕の二つ名ですわ!!」


「私にはどっちでもいいんだけどね。暮内くれうちくんが処女なのは診察でわかってるし」


「え。あ、そうなんすか」


「ヤリ本ステ男には関係ないが、私が下した結論は一つ。彼女自身がいまだかつて経験していない快感の大渦に飲み込まれ、その精神力と体力が一気に消耗、いや枯渇したといってもいい。結果、今彼女は、言わば、放心の極地にある」


「そ、それじゃ、レツさんは」


「あらゆる機器を使い、細心の注意を払って彼女の全身を調べたが、脳波から臓器、骨格に至るまで、何一つ、問題ない超健康優良女子だ。今は……体力をかなり消費しているだけだ。とんでもない性的絶頂だったらしい。最早、過労に近いな。とにかく安静にして休ませておけば大事ない」


「は、はあ、つまりこうして寝てるのは」


「何だ、ヤリ本ステ男」


「それは忘れてください」


「うん。疲れ果てて眠っているんだよ。念のため、ビタミン剤を注射しておいた。夜までには目覚めるだろう」


 僕はようやくレツさんの枕元にあった椅子に腰を落とした。


「……善かった。寝てるだけなんですね」


 レツさんの頬が心なしか紅潮しているように見える。でも、すやすやと心地良い寝息が僕を安心させた。


 彼女は本当に大丈夫なようだ。


 僕はそっとレツさんの手を握る。あったかい。


「ところで、ヤリ本ステ男」


「だから忘れてくださいっての」


暮内くれうちくんは無事で、私の懐も金で潤った。だが、根本的な問題は解決していない。家路いえじくん、もう一度、昼休みのことを思い出してくれ。どんなことでもいい。それが突破口になりうる」


 とは言われても、僕が提供できるモノは全てお姉さんに委ねてある。それ以上はない。


 いや、あった。


 レツさんのゴールド色のお年寄り用携帯だ。


 僕はお姉さんにそのSMSを見せると、一読でピンと来たらしい。


「……確かに暮内くれうちくん程ではないが、倒れて要安静となった生徒は少なくなかった。……そうか。通りで男子生徒ばかりだった訳だ。……迂闊だった。お金にならないと油断していた。生死の危険はないと甘くみていた」


「やっぱり百田の仕業すか?」


「エビデンスがすべての医者ならそう判断する。当然、私もだ。即座に、校長や秘密基地のメンバーに具申する。一年三組、百田ローザにエビルサインの兆候ありと。百田への監視もより慎重に期するよう風紀委員長に注意しておく」


「おお、よろしくす!!」


「んじゃ、コーヒーでも飲んでく? つうか、煎れて、ブラック砂糖マシマシで」

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